踏み荒らされた庭
四人が再びそろうことができたのは、あれから三週間が経った頃だった。
その頃には全員があの村での出来事にけじめをつけて、次に進もうと前を向いていた。
「おはようみんな。ところで朝はパン?それともご飯?」
カラ爺はまるで主婦のようなことを言いながら彼は全員分の朝食を用意する。全員が入院をしてまだ病み上がりだからと、ここ最近はずっと彼がご飯を用意しているのだ。
その間テレビを見たりスマホを見たりして待っているのだが、世の中というのは数日程度では大して変わらない。あれから禁忌についての話をカラ爺が深くすることもなく、あの村についての一切は無かったことになった。
頼んだパンを頬張りながら、ぼーっとテレビを見ているとインターホンが鳴った。
これが鳴るということはだいたい魔狩師関連の何かが持ち込まれたということ。
だけど今日の僕はそんなことにも意識が向かないほど何もする気が起きない。有り体に言えば夏バテだった。
なので戻ってきたカラ爺の言葉も話半分くらいにしか聞いてなくて、そのせいで痛い目を見ることを家接はまだ知らない。
「これは………本当に僕たちに?」
「はい。前回の件ですが、失敗にしろ成功にしろ神卸の実態を把握、それに加えて神の依り代を早期に発見することができたことは大きな功績と判断されました。みなさん酷い怪我を負ったとも聞き、その功労としてささやかながら遠方で静養していただくのがよろしいかと」
そう言って渡された封筒の中には数枚のチケットが。
どこかの海水浴場に隣接するホテルの宿泊券だった。それを渡すと彼女は消えて一枚の札になった。
「いいねぇ。結局気を抜ける時間がずっと無かったからみんなには良い気分転換になる」
カラ爺がさっき式神が離していたことを伝えると、みんな嬉しそうにして(主に雪広とメイニーが)自分たちの部屋に戻っていく。
カラ爺は自分の部屋でまた札を書こうとしたが、そういう気分でもなくなったので居間でゆっくりとお茶でも飲むことにした。
急須に茶葉を入れてお湯を注ぐ。落ち着けば何事もいい方向に進んでいくものだ。
カラ爺とて神卸の件が引っかかっていた。加えて前回の魔術学園ではNo.0 のⅣと鉢合わせている。
前回聞いた話だと幹部である12人の内、日本が担当だとされていたのはⅠのはず。なのに彼女がわざわざ外国から足を運んだことも気がかりだ。
心配しすぎなのかもしれないが、備えるにこしたことはない。
手掛かりとなるはずの雪広ちゃんの兄である四季は今も入院していて意識が目覚めていない。矢熹弘ちゃん曰く彼は本来使うことのできない魔術を無理矢理に使ってしまったと聞いた。その反動で自身の体にかなりのダメージを与えてしまった。
「彼が目覚めないとⅣの手掛かりを掴むのは難しいしなぁ。かと言ってⅠに関しては今も収穫はない」
特務課と連絡を取る機会があったけど、その時にも何の進展も無かったと聞いた。
いくら日本でNo.0の付け入る隙を減らそうとしてもその幹部であるⅠが動きを把握できていないのではあんまり意味があるとは言えない。
「そういうのも含めて、仕事のことはいったん忘れろってことなんだろうけど」
にしても山陰か。
チケットの示した海水浴場の場所は島根。神に関わる出来事の後で神にまつわる地域に向かうなんて本当に運命を感じる。
カラ爺は自分の荷物を整えてトランクに乗せると、家の中に戻って思った。
それなら新幹線代も出してくれていいのになぁ。
「着きました京都!」
メイニーが大喜びで京都駅と書かれたあの看板を見て写真を撮る。僕も含めて他の子も関西に来たのは初めてで、少しそわそわしている。
とは言っても乗り換えで降りただけで別に目的地についたわけではない。改札を出て路線を乗り換えるだけだというのに休日の京都駅は人がごった返している。先頭となったカラ爺が分かりやすい服装と見た目であることが唯一の救いで、そうでなければ今ごろ全員路頭に迷っていたに違いない。
なんとか観光客と外国人連れの波をかき分けて進み、改札を通って乗り換えることができた。岡山から乗り換えた方が良いとかいう意見は知りません。どうやって行こうがたどり着けばいいのです。
「眠いなら寝ててもいいよ。ちゃんと起こすから」
そう言ってカラ爺は慣れた様子で座席を反転させて4人席を作ると、そこにみんなを座らせて一人隣の席の人にお礼を言いながら座らせてもらっていた。
旅行だと思っていたみんなは前日わくわくしていたからかあんまり寝ることができなかったのですぐに寝てしまった。
「教え子さん?」
隣の人にそう言われてカラ爺は「そんな感じですね。島根に行く予定なんですよ」と言いながら談笑を交わして時間を過ごしていた。乗った電車は鈍行ではないとはいえ、昼前くらいに出たこともあって着いた頃には日が沈んでいた。
松江駅に着いたときのテンションは低かった。寝起きに目を擦って真っ暗なホームの外を眺めていた4人を見て苦笑いをしたカラ爺は予め予約しておいた近くのホテルに向かってその日を明かす。
「みんなおはよう」
朝食バイキングにはみんなちゃんと来てくれて席に着いて手を合わせる。
荷物を整えて向かうは、今度こそチケットを使って予約したホテル。
「それじゃあ、今日は思いっきり楽しもうか」
ホテルのチェックインを済ませると全員が部屋に荷物を置いて海水浴場に向かった。
僕も水着を下に着たまま外に出ると、先にパラソルを刺してレジャーシートまで敷いているカラ爺を見つけて向かった。
「なんだかんだカラ爺も楽しんでますよね」
「そりゃあね。たまにはこういうのも悪くないよ」
後ろでは浮き輪を持ったりバレーボールを持って遊ぶ気満々の雪広やメイニー、マイクラストもいた。
朝からということもあってまだあんまり人がいない海水浴場は自由に使うことができて日が真上に登るまで思う存分遊ぶことができた。
「いやぁ、疲れたな」
マイクラストがそう言うと、確かにそうだねと言いながらのんびり寝転がっているカラ爺のところに向かう。ペットボトルの飲み物を飲みながら海を見つめているがとても綺麗だ。この少し先には大きな大陸がある。そんなことを思わせないようなきれいな水平線がそこにはあって、何もしていないと響いてくる波の音が心を安らかにさせてくれた。
「でも、本当にここには休暇できたんですか?」
家接はやっぱりそれが気にかかって仕方が無かった。
ずっとタオルを頭に乗せていたカラ爺が顔からどかすと、ため息をついて座る。
「僕はね、やっぱり魔狩師協会が嫌いだよ」
案の定、仕事が僕たちには課せられていた。




