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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
6章 舞い降りる神、ただひたすらに屈すれば

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死なばもろとも

 大智は木を支えにして立ち上がる。もう体はぼろぼろで立っているのが精一杯だがそれを須黒に見せることはしたくない。たとえそれが相手に悟られていたとしても。

「まだ戦うか?」

「当たり前だろ。まだ終わってない」

 ビチャビチャと水たまりを歩く音が草木を踏みしめる音に変わる。

 大智は必死に武器を拾い上げて須黒と視線を交わしていたが、ふと彼の背後にいるマイクラストに目がいった。彼はこの戦いではまだ目立った怪我を負っていない。それは彼が遠距離で戦っていることもあるが須黒の視界には彼が入っていないし、意識すらもう割かれていないだろう。

「そうだな、どうせもうあまり動けないんだ。次の一撃でけりをつけるっていうのはどうだ?」

 それはちょうどいい。まだ一撃をあいつに葬るくらいの力は残っている。

 むしろそれしか残ってないが、あとのことなどどうでもいい。こいつをここで終わらせられるなら問題など何もないのだから。

「いいぞ。一撃だな」

 大智は息を整える。その間、目の前の須黒はさらに魔力を高めている。

 マイクラストから見ればそうだが本人からすればそれは集中力を高めているに過ぎない。たった一人でさっきの攻撃から隙を伺っているがあまりにも隙が無さ過ぎて攻め手が無い。決めるなら二人がぶつかる寸前しかない。大智に目線を送るが言葉を発していないのに意思疎通が取れるわけでもない。

 そんなことをしているうちに二人は準備が整ったらしい。

 あたりが魔力で満ち溢れている。踏み込めば肌がひりつく。

「行くぞ」

「ああ」

 槍を持って走り出した。止める間もないその一瞬、切り倒した木々の間を走って抜けていく二人の距離はもうすぐそこまで。

 やっぱり自分でどうにかするしかないかと思った瞬間だった。大智が声を張り上げてマイクラストを呼ぶ。気づけば魔術を発動させていた。

「波紋は消えた、ゆらぎが示すは彼の敵。水面に沈み凪を成せ。水纏、空殻」

 水がもとからあるおかげで展開がいつもより早い。すぐに壁ができて二人のバトルフィールドが完成した。いつもよりも壁が厚いせいで外から中の様子を伺うことができないが、そんなのは術者の特権、須黒の背後の水の壁を開けてマイクラストも侵入する。

 大智が跳躍すると槍を投擲した。雷を纏ったそれは威力を持って須黒に向かう。マイクラストのできることとすれば須黒の視界の周りをゆらぎで満たして爆発させることで場所を把握させないこと。

「甘い」

 だがそれをもってしても彼が一振りするだけで爆風がすべて吹き飛ばされて視界は晴れる。その残った風の影響で水の壁もはがれかけている。

「これで終わりだな」

 彼は槍を見切っている。雷で速度が増したとて、実力差の前では些細なこと。

 走りを止めて槍を見ながら体の軸を逸らした。

「いけ!」

 避ける直前に大智がそう言ったがもちろん槍が須黒に当たることは無い。

「負け犬の遠吠えだな」

 それが誰に向かって放たれた言葉なのか。それを一番最初に理解したのはマイクラストだった。

 須黒が地面に着いた大智に向かって容赦のない一撃を加える直前、すでに走り出していたマイクラストは、ありったけを込めた。

「頼む、届け!」

 拾い上げた槍を彼の背中に向かって突き刺す。振り下げた須黒の渾身は大智の右肩をかすめて地面に刺さる。衝撃で地面にひびが入って大智は倒れて、起きた風にマイクラストも槍を握り切れずに吹き飛ばされた。

 背中から刺さった槍を見て須黒は思わず笑いをこぼした。自分がまけるビジョンを思い浮かべたことのなかった須黒にとってそれは初めての敗北であり、最後の敗北だった。

「なるほど、そんな手もありか」

 血を吐いた男は、ただただ天を仰いで真っ逆さまに倒れた。

 起き上がった大智は静かに男のもとに向かう。その息がもうないことを確認すると慎重に背中から槍を抜いて血を払うために振るった。

「ありがとうな、師匠」

 倒れたマイクラストのところに向かって手を差し伸べる。

 ただただ見ていた彼はその手を取って立ち上がった。

「行くぞ、マイクラスト。まだ終わってないんだ。ほら立てよ」

「ああ分かってる。………いいのか」

「何がだ?」

「いいや、なんでもない」

 大智は森を抜けて向かっていく。その背を静かに追いかけた。

 彼は正しく選択をしたと大智は信じて戦った。それ以上に何かを彼に送る必要はない。彼には彼がやらなくてはいけないことがある。


 月が照る。

 冷たいはずの地面がじんわりとあたたかくなっていく。

 それが自分の血だと気づくのにどうしてこんなにも時間がかかっているのだろう。

 ああ、そうだ。僕はもう死にかけだった。

「や、やめて。やめてってば!」

 紫音が必至に抵抗する声が脳に響く。曖昧な思考回路が考えることを放棄している。

 ゆっくりと目線を動かすとそばには倒れた雪広とメイニー。隠れていたのに彼女も見つかってしまっている。二人とも背中を一突きにされて地面に固定されていた。

 ずべてを失敗した。自分は何もできなかった。体が丈夫なだけで、丈夫さは強さじゃない。

 勝てない相手に挑んでいたことにもっと早く気が付くべきだった。

 死んでいないだけましなのか。雪広がいなかったら本当に死んでいた。

 とはいってもこの体たらく。大智やマイクラストには顔向けできない。

 冷静に状況分析しているけどもう手足も動かないこんな体じゃ戦うどころか生きて戻れるのかも分からないな。

 縛られた彼女が持ち上げられて祭壇に置かれる。

 動かせないか彼女は声をあげていたがその足掻きすら布を嚙まされて響かなくなった。

「今度こそ、儀式は成功する!」

 雪広が飛ばしたはずなのに村の人たちはすでに戻ってきている。時間が経ち過ぎたのか、彼らの執着が異常なのかはわからないけど、もうすぐ儀式が始まる。

「さぁ、私たちに拝ませてくれ」

 祭壇に炎が灯る。その煙が静かに空へと伸びていき、人々の歓声だけが脳を揺らして紫音の悲鳴など誰にも聞こえない。

 だんだんとその炎は燃え盛り、祭壇全体を覆うとひとつの炎となって彼女を隠してしまう。

 ぼんやりした感覚に慣れてしまったのか、左手だけが動くようになってきた。とは言ってもそんなことは意味がないけど。

「ついに来る」

 炎の勢いが最高潮に達したとき、突然祭壇に感じたことのない魔力が溢れる。

 明らかに桁違いな魔力なのが分かった。熱気に当てられた周囲の人々の様子が変わって祭壇に集まっていく。顔をゆっくりと上げると炎の奥で立ち上がる人影があった。

(あれが、神?)

 そうして何も知らないままの大智たちもその光景をすぐに目にすることなる。

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