垂れた手、もう伸ばせない
視界がもとに戻る前に数発、銃声が響いて目を開けると紫音の母親を含めて何人かが倒れている。
「もちろん、気絶させてるだけだから安心して」
誰に届けたかは分からないがそんなことを言うと、手練れそうな人に目を付けてシャッターを斬る。その全員を閉じ込めることができたわけではないけど二人で相手にするにはまだなんとかできるくらいになる。
「早く終わらせるよ。じゃないと閉じ込めた第二陣が来るから」
「うん。錬炎、満たして炙れ」
熱波のような熱さが剣に纏う。戦闘不能にして終わらせるというのは二人が思っている以上に調整が必要なもので、家接も扱いが慎重になる。
「風纏い」
それを風に乗せて斬撃にすると、彼らの体を焼きながら流れていく。苦しみに武器を離した瞬間に柄で強く頭を叩いて気絶させる。
「これをあと何回やればいいんだ……」
「やっぱりきりがないね。せめて水とか氷とか地属性の魔術ならどうにかなったのに」
それは雪広も同じことでは?と思いつつ、そういえば魔術学園で適正な魔術を調べようみたいな話があったような、ということが頭の片隅を走る。
そんなことを考えている場合じゃない。目の前のことに集中しろ。
「雪広、思ったんだけど紫音にその魔術が通じないってだけで他の人には通じたりしないのかな」
「それは確かに盲点だったかも」
「もう破られそうだね。強そうなのはこっちが相手するから残りの村人たちだけはどうにかしてくれる?さすがにあの人たちに手加減は絶対に無理だから」
「分かった。できたらすぐにそっちに加勢にいくから、くれぐれもやられないでよ」
家接は四方印で閉じ込められている人たちの周りにだけ霧を発生させて外を見えなくする。
手練れは合わせて五人。まぁ普通にやれば僕と雪広では開いてならない。それはメイニーたちを含めてもだ。なら正攻法を使わないで倒すしかそもそも選択肢がない。
「風纏いて錬炎、悉く燃やし尽くせ」
短剣に炎が宿る。あとは雪広の魔術が解除されるのを待つだけ。すでに先祖返りの力は解放している。この射線上であの距離なら一撃で二人を持っていけると家接は踏んだのだ。
大きく片足を下げて走り出す構えをする。霧が動けば魔術が解けた合図ということ。
ただ意識を研ぎ澄ませて風の音に耳を澄ませた。風の精霊の力なんだ、それくらいしてのけてくれよ。
「…………」
来た。
音よりも少し遅いその一撃。だとしても霧の中からなら見えるはずもない初動。躱せるはずのない攻撃は重なった射線上にある二つの霧の一つ目で金属音がした。
それは紛れもない困惑だった。
「なんで?」
自分の腕に自信があるとは大きな声では言えなくとも、この攻撃はそんな簡単に受けられる速さじゃないんだ。
なのに初見である男は槍でそれを左肩を斬り裂くにとどめてそのまま家接の背中の服の端を掴むと二つ目の霧の中にいる人が少しだけ威力の削がれた攻撃を受け止める姿勢で待機。
そのまま背中を掴んだ男はなぜか地面に着地して二人がかかりで短剣の攻撃を槍を重ねることで耐えながら地面に引きずられることで衝撃をすべて吸収した。
これには言葉が出ない。完全にこっちの動きを把握できないとできない動き出し、できたとしても無理だ。使い物にならなくなった槍はすぐに捨てて、家接と一定の距離を取りながら他の仲間が行動可能になる時間を稼ごうとしている。
「時間が無い」
家接はさらに距離を詰めた。いくら対応力があると言っても速さと力で押していけばきっとか勝てる。
それに今の攻撃で片方は肩に大きな怪我を負っている。手を挙げられないような素振りが見て取れている。そちらを重点的に攻撃して突破口を見出そう。
剣を持ちながら銃を持つ。接近戦において銃を使うのはあまり得策とは思えないがそれは使いようによる。右手で握った銃を負傷していない方に向けながら左肩を負傷した敵に近づく。もちろんそうはさせないと追ってきたのですぐさま発砲。
銃弾が当たることはなかったが、その銃の反動で家接の体の軸がずれる。体制を崩したと思った相手は槍を突きだす。
その瞬間に家接は思い切り右手を振るって風を起こした。それは剛腕ということではなく彼の先祖返りの力に起因したもの。
とにかく彼はそれで狙いを外して地面に槍を突き刺してしまい、家接はさらに体制を崩す。
なのでもうそのまま攻撃に移ることにした家接は短剣を握りしめて負傷した敵の左肩目がけて刺しにいく。体重を乗せて回転までかかったその攻撃で相手は地面に倒れ、うめき声を上げる。地面に刺さる短剣の音と肉が裂かれる嫌な音が同時に響いた。
「錬炎、悉く燃やせ」
炎が男の体を焼き血が炙られて音を立てる。すぐに背後からの攻撃が来て家接は躱すと弾丸を腕が固定された男に向かって放った。
攻撃してきた相手は持っていた武器を捨てているので弾丸を防ぐ手段もない。自分が犠牲になるわけもないので、その銃弾はそのまま彼の心臓を射抜いた。だがその瞬間彼は倒れた仲間が持っていた槍を取ると高跳びの要領でこっちに向かって飛び蹴りをする。
「なっ」
慌てて避けると彼は着地もおろそかに槍を振るう。
詰められた距離に対して槍のリーチはかなり長い。家接は木の部分で薙ぎ払われるようにして飛ばされる。
「時間だな」
これだけ時間をかけてしまっては相手の言葉がいみするところは一つだけ。
残りの三人が動けるようになったということだ。
あたりを見回すが、まだ雪広は手間取っているよう。だがこれは良かった、相手は全員こちらに意識を傾けて雪広の方は見向きもしていない。
「四人で来ないと、僕は倒せないの?」
あっちに意識を割かせないようにあえて挑発をした。だが相手は一切動じずその質問に答えた。
「倒せないじゃない。倒さないんだ」
「どういう意味」
ならそこで死んでいる君たちの仲間は?と言いたくなったがそれを言う前に相手は答えを提示してしまった。
「俺たちは強いから生き残っている。それだけだ」
それがさっきの言葉の意味を訳したものだとでも言いたいのか。
まったくもって理解ができない。
じりじりと全員がこちらに向かってくるのに合わせて家接も後ずさりする。あれだけ大きな啖呵を切った手前、こんなことをしているのがおかしいとあちらも気が付いて良い頃なのに全くと言っていいほど隙見せない。
「行くぞ」
一人が言うと全員が槍を持って四方に散る。絶対にどこかが死角になる。
霧を出す判断をしたが一歩遅い。
瞬間、全員がその槍を家接の心臓に向かって突き出した。




