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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
6章 舞い降りる神、ただひたすらに屈すれば

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裏切りのパトス

「なんで紫音がここから出られない?」

 一番起きて欲しくないことが起こった。彼女がこの村から出られないんならこの作戦は全て意味を成さない。彼女はそこに立ち尽くしただけ。

 でもなんでそんなことになったんだ?

 一番最初に彼女と会ったときのことを考えたらそんなことあり得ないのに。

 彼女と僕たちは村の外で出会ったのだから。

「もう一回やろう、雪広」

「もうやってる」

 彼女はすでに魔術を発動させている。だけど彼女は転移した瞬間にすぐにもとの場所に戻ってくる。

 月夜が六人を照らす。儀式はすでに始まっていた。

「お前達、そこで何をしている。………ってなんでここに紫音がいるんだ。お前は明日の儀式で重要な役割があるだろ」

「ま、待て。そいつは俺と一緒に散歩をしていただけだ」

「なんだと?お前はこんな大事な時期に生贄を外に出して歩かせていたっていうのか?」

「おい、お前なんだその言い方は」

「お前こそなんだ、俺が間違ったことを言ったか」

 大智は激高して彼に言葉を吐く。そんなことを彼女に聞かせるのがほんとうに嫌いだったからこうして連れ出そうとしたのに。未だ紫音はそんな呼び方をされる。そう、思われている。

「こうなったらもういい。何が何でも紫音を村の外にだしてやる」

「やっぱりそのつもりだったか」

 彼は完全に大智が自分たちにとっての敵なのだと認識すると木の裏に隠れると、そのまま気配を消す。

 二人が完全に対峙した状態になったことを良いことに、家接たちは紫音の手を引いて外に出ようとしてみたり、いっそのこと上空に向かって転移すれば壁を越えられるんじゃないか、みたいなことも考えたりしたどれも成果はない。

 しばらくして、さらなる手はないだろうかと考えていると紫音がぼそりと呟いた。

「もう、良いよ」

「でも今諦めたら君は死んでしまうんだよ」

「分かってる。でも元々そうなるってのは分かってるから、怖くはないよ」

 紫音は俯いてそう答える。あらかじめ決まってしまっている運命は、簡単には変えられるものじゃない。それでも少しの間過ごした四人は、死んでもしょうがないとは思えない。

「こんな伝統はいらないよ」

「まだ、カラ爺には連絡してないよね?」

「してないよ。だってここ電波通ってないし」

「あいつ、押されてるな。加勢してくるから頑張れよ」

 マイクラストが大智のところに行って残された三人で紫音を村から出す手立てを考える。

 とは言ってもこのままここで彼女を外に出す方法を試しても正直突破口が見つかるとは思えない。

「もし出る方法があるとするなら、それは儀式のほうだろうね」

「私も同意。そっちに何かしら拘束力のある魔術があったりするんじゃないかな」

「やっぱり、あの水晶にそんな力がるんですかね?」

 メイニーの指摘通り、彼女らが偵察に行った時に見つけたそれに魔術的な何かが施されている可能性もある。普通に加工したんじゃああはならないから、どちらにせよそれに魔術が加えられているのはすでに確定している。

「そっちを調べに行こう」

 五人は村の祭壇に向かって戻っていく。背後の二人の方は見なかった。彼らならきっと勝てるはずだから。

 村の建物が集まっているところに戻ると、今までとは雰囲気が異なっている。

 深夜なのにも関わらず人の気配を感じるのだ。しかも念のためにとメイニーが気配遮断の魔術を施しているにも関わらず。

「家接、分かる?」

「うん。誰かがこっちを見てるね」

 その視線がいくつもあるせいで正確な位置が分からない。

 とりあえず普通に祭壇に向かって歩いていく。場所はメイニーが知っているので周りを気にしながら進んでいく。やっぱりここでも雪広の魔術が紫音に効果がないことが大きい。どうしても周りの視線が敵意にしか感じられないからか全く警戒を緩めることができないのだ。

「霧で攪乱する?」

「メイニーちゃんの魔術でダメなら意味ないんじゃないかな」

 とにかく進まなくては。

 諦めてはいた紫音も、ここまで全員が彼女のために動いていると知ってか少しだけ顔を上げるようになってきた。

 祭壇に着くとすぐに雪広が置かれている水晶を手に取った。そんな気軽に手にしていいものなのかと心配になりつつも彼女は遠慮なくそれを眺める。

「………原因はこれじゃない気がする」

「それはなんで?」

「これ自体には魔力が籠ってないからだよ。人を一つの場所に固定してまうほどの協力な魔術ならもっと大きな舞台装置が合ってもおかしくない」

 雪広曰く、彼女がこの村から出られないような魔術が施されてしまっているのだとしたらそれは彼女の生きる世界の縮小ということになり、それなりの代償や高度な術式がいるらしい。

「見つからないのか、見つけれないのか。どっちにしてもそれを打ち消すだけの出力は、到底私の力量では無理だね」

「ならやっぱり儀式を止めるしか」

 ザっ、ザっ、ザっ。

 民家の間からいっせいに音がする。その足音は次第にこちらに近づいてきて僕らの前にその姿を見せた。それは村の住民たちであり、その手には武器としては即席とも言える農工具を構えている。

「どうしたんですか。こんな夜に」

「お母さん、それにみんなも……」

 紫音が彼らに懸命に声をかけてもその声にはうっすらと反応しただけですぐに家接たちに向かって明確な敵意を示した。

「そこにいる紫音を離してもらえないですか、外の人たち」

 そんな呼び方をするなんて、家接たちにとって幸運だったことは彼女がそばにいたことでこの村にいることを許されたこと。そして今まさに彼らがむやみに攻撃をすることができないこと。

 不幸だったことはこうしてさらなる困難に足を踏み入れてしまうこと。

「ダメと言ったら?」

「それは……力づくで取り返します」

「待って、お母さん!」

 全員が武器を振り上げて襲い掛かってくる。静止を呼びかける娘の声も母には届かず、全員が慣れない武器を手に走っていた。そしてその中には大智たちが相手をしているような手練れが数人混じっている。

「交渉は、決裂ですね」

「やるよ家接。紫音ちゃんはお願いね」

「分かりました!」

 メイニーは彼女の手を引いて戦いの主戦場からしれっと消えていく。気配遮断の魔術をさらにかけたのか、彼女たちの居場所は一瞬で分からなくなる。

「傷つけるのはあんまりしないでね、雪広」

「分かってるってば」

 雪広はライフルを腰から抜く。今回は予め弾丸を殺傷能力の低いものに差し替えている。

 そして反対の腰にもつけていた銃を上に向けると「閉じて!」と声をあげながら引き金を引く。

 放たれた弾丸は宙で炸裂して、視界を一瞬で白に染め上げた。

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