開幕に手を伸ばし
数日間、家接たちは調査を行うという名目で滞在している村についていろいろと調べることができた。
人々の生活形態や、分業の数々。そして彼らからすれば一番知りたい情報である祭りについてもあっさりと彼らは教えてくれた。
そして日が過ぎていく毎に少しづつ村に変化が訪れていることも同時に家接たちは感じている。
いつものように森に出ている大智のもとを訪れると人気のない場所に向かって作戦について話し合う。
「調べてみて分かったことだけど、祭りの間は大智たちみたいな外を監視している人たちも村の中で祭りに参加するみたいだね」
「そうだな。神に対して無礼を働くような真似はできる限り排除するみたいで、義務だな」
「それなら祭りの日に紫音を連れ出した方が良い気がするんだけど、どう思う?」
これには雪広たちも賛成していた。いくら大智がこちらの味方だとしても気づかれてからの対応が村の外にいるのといないのとでは全然違う。
「それを考慮するのは良いと思うが、紫音は当日朝からあの祭壇の前で諸々の儀式を通した後に生贄として台座で眠ることになる。そうなると村のみんなの目を掻い潜って連れ出すなんてことはほとんど不可能だ。俺はマイクラストが前に言った前日に連れ出す案でいいと思うがな」
確かにそれなら彼の言った通りのほうが実現可能な気もする。
だとするなら決行は明日かな。
「結構見切り発車で決まったことにしては計画性が深まってきたね」
「忘れていたけどこのことは紫音ちゃんには伝えたの?」
「………言うわけないだろ。絶対に黙っておけないだろうしそもそも受け入れるかすら分からない。決行が明日ならそれまでにはなんとかしておくから安心しろ」
彼女からすればもう儀式の生贄になるっていうのは受け入れて避けることないことだと思っているのかな。それでもあんなに明るく過ごせているなんて僕からしたら考えられないことだけど。そもそも彼女の心情なんて誰にも分かるわけがないんだから。
「みんな、何を話しているの?」
突然背後で声がして誰も入ってきた音すらなかったために全員がその声の主を警戒するように見た。
だがその戦意は一瞬削がれる。なぜならそれは大智からすれば実質上の母親でありこの家の主でもあるからだ。
「どうしてここにいるんだ?」
「あら、私が家の中にいたらおかしい?」
「いや、そういうわけじゃないんだが」
「そんなことよりさっきの話、私にも詳しく教えてくれない?」
話を逸らさせる気はないと言わんばかりにさっき家接たちと話していた内容に固執する。
この言い方からして絶対に一部始終は聞いているはず。だとしたら親としてそんなことをみすみす見逃すわけにもいかないはずだ。
黙っていてもこのまま村の人たちにその話を広められれば結局ここに滞在することすら許されなくなってしまうため、彼女が誰にも言わないことを信じて正直に大智の考えた計画について話した。
「そんなことを考えていたのね………」
彼女は顎に手を当てながら少し考えると「うんっ」と言って納得したかと思うと大智の手を握った。
「分かった。そんなにあの子のことを考えてくれるなら任せたわ」
あっさりと受け入れてくれた。本当はちょっと仕事道具を取り来ただけだったんだと言って彼女はまた仕事に戻るために家を出ていく。
ホッと息をなで降ろすと大智も外に出て行こうとしていた。
結局のところ今日できることというのは明日のために体力を完全な状態にしておくことくらいだ。
「俺は毎日森を見ておかないと落ち着かないんだ。少し見てくる」
今日のところはこれでおしまいか。全員仮宿に戻って眠りにつく。この村はあんまり日が差し込んでこないのですぐに眠れてしまった。
深夜。
目が覚めて隣を見るとひとりこちらを見ている人がいた。
「なんだ」
「マイクラストは寝ないの?」
「ちょうど目が覚めたんだ。それより、今日は決行の日だろ。そろそろ全員起こしておいた方がいいんじゃないか」
深夜ということもあってゆっくりと寝ている二人を起こす。彼女たちは起こされて眠たげな顔をしていたがしばらくしてしっかりと覚醒する。
「そうだった。紫音ちゃんのところに行かないと」
「その前に大智が来るのを待たないとダメだろ」
「そうだね。あとは待つだけ」
だけどそれからしばらく経っても彼が来ることなかった。
耐え切れなくなったマイクラストが一人で外に出ると、外では一人涙をすする子とその子の肩を持って歩く子がいた。
「遅くなったな」
やっぱり彼は手間取っていた。
受け入れがたかったのか、それとも一人隠し事をされていて悲しかったのかとにかく彼女は泣いていた。とりあえずこれ以上外で泣き声を上げるのはよくないので家の中に入れる。
「まずは作戦通りに紫音を転移させてくれ」
「分かった」
床に倒れてなにもしていなかった雪広は立ち上がってまだ泣いている紫音の手を握る。
「大丈夫だから、一瞬だけだから安心してね」
僕には出会ったとき以来かけられたことのないような優しい声音で彼女の手を握ってなだめる。
顔を上げた紫音がゆっくりと頷くとすぐに雪広は詠唱を始めた。
「四方印、北」
そうして二人の姿が一瞬で見えなくなったので次に全員が村から脱出しようとした時だった。
「あれ?」
その声が聞こえるはずがない。そしてここにいることは無いはず。
「失敗したの?」
雪広が驚きを隠せないままその場に立ち尽くしている。
でも実際に四人は彼女の魔術が成功したのを目にしているのだ。あれだけはっきりと空間の歪に姿が消えたのを確認してから同じところに戻ってくるなんてことがあるのだろうか。
「もう一回やってみる。四方印、北」
おんなじ光景。おんなじ魔術。
導き出されるのは、おんなじ結末。
「………やっぱりダメみたい。私の魔術が使えない」
「いや、雪広の魔術は使えていると思う」
発動はしている。ただ出ることができていないんだ。
「それなら作戦を変えよう。このまま村の外に徒歩で出る」
「幸いまだ日は昇っていません。十分に可能性はあると思います」
保険をかけてメイニーは全員に気配遮断の魔術を施す。
これで万一こんな時間帯に外に出る人がいても気づかれないはず。
そうして村の外に向かって月の明かりを頼りに歩いていく。
「じゃあ、行くぞ」
そうして村の端まで来た全員は境界線を越えた。
越えたはずだった。
「なんでだ」
大智が声を漏らす。
紫音は一人何もないはずの空を叩いて「なんで」と一言、みなの耳に響かせた。




