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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
5章 誰にも触れない禁書目録

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託されたモノ、

「四方印、東西」

 首を刎ねた瞬間にシャッターを斬る。

 家接を追いかける植物は、しだいに動きを鈍くしていき家接が首より下になった体に向かって斬撃を放つとその中身が現れる。植物は動きを完全に停止して植物本来のようにそこにたたずむ。

「今回はここまでかぁ。それじゃあ、またね」

 電源を切ったようにⅣは目を閉じると血相が悪くなったその肌が爛れていく。

 長い夜は終わり朝日が昇ろうとしているがそれはまだ先。終わらせることのできていない結末がまだ1つあった。

 つぼみが再び成長を始めて、訪れた臨界点。Ⅳの痕跡がここから消えてしまった時にはすでにその準備は終わっていて最後の置き土産に残ったその爆弾は、残された人たちにはあまりにも大きすぎる物だった。

「これを今からどうにかするって?」

「さすがに無理かな………」

 もはやそんなことをする時間も魔力も残されてはいない。

 夜中なのにもかかわらず、その明るさは次第に増していく。マイクラストは手にした本を見ると校舎に向かって走り出した。

「まだ助かる方法があるかもしれない」

 部屋に戻ると彼女は階段に座って訪れるかもしれない刺客に対して警戒していて僕たちに着いてきていた四季に向かって魔術を放とうとしたので全員で慌てて止めた。

「彼は味方です。いや、味方かは分からないけれど敵ではないんです」

 彼女は手にした星を砕いて再び座り込んだ。

「深くは聞かないけど理解はしたよ。でもどうしてわざわざここに戻ってきたの?」

 てっきりⅣとの戦いで勝っても負けてもここには戻ってこれないくらい消耗すると踏んでいたので意外だといったようすで五人を見つめた。時間もないので外で起こったことを手短に話すと、彼女はぢばらく何も言葉を発さなかったが、やがてすべてを飲み込んだように立ち上がった。

「マイクラスト、その魔導書を私に貸して。そんな大規模な魔術があるとして現状この学園でそれを防ぐことができるのはゆるぎの魔術しかない」

 魔導書を受け取った時音は大まかに敷くための陣を書くと、全員をその中に入るように言う。

 真ん中に立った彼女は魔導書を開いて詠唱を始めた。

「一つ、身を守る盾は広く厚く。二つ、心を守るその壁は決して人には暴かれない。三つ、魔を以って魔を殺す。開け、三連障」

 完全に防御に振り切った魔術。それがゆるぎの用いる魔術だった。

 限界を迎えたつぼみはその中身が溢れて破裂してしまうかのように光を放ちながら爆発する。

 全員がその場にうずくまって衝撃に備えながら衝撃に身構えていたが、一向にその余波が届くことは無く恐る恐る目を開けた。

「これは、ただ発光しているだけ?」

 時音はその光景をいぶかしみながら魔術を解いて陣の外に出る。実際に校舎の中だけでなくどこにもさっきの魔術によって何かが壊れたと言ったような痕跡は無く、今もただ光を放ちながらそこに留まり続けている。

 全員がこの魔術を使った真意を読み取れないでおり、ただ光っているだけのそれに恐れる必要はないと時音が判断すると、この惨状の処理を行わなければならなくなる。

 彼らにとっては心苦しいことではあったが、誰かがやらなくてはいけないこと。何十人といた生徒も今やマイクラストとメイニーのみ。

 暗い影に包まれた彼らの背を照らすのが虐殺を行った張本人の置き土産というのが非常に痛ましい。

「終わり?これで?」

 気づけばマイクラストは持っていた杖を投げ捨てていた。今もあの明るい笑顔が自分の脳裏にいると思うだけで気味が悪い。何もできないまま終わりを迎えてしまった自分の実力が許せない。

 そして、結局はもてあそばれていただけなんだと思うとやるせなくなった。

「落ち着いてマイクラスト。自分を責めないでよ。だってこんなの、どうしようもない」

 Ⅳがこんなことをした理由は単純だった。彼女の目的は禁書目録にある本を手に入れることと、この場所を明らかにすること。

 魔術学園の位置が明らかになれば少なくとも魔術を利用する人々にとってそれは不利益にしかならない。光を放ち続けているあの魔術もこの座標を人々に知らしめるためだ。誰でもいいが、深夜にこんな煌々と輝くものがあれば気づく人は少なくともいるはず。そうすればこの場所に人々が足を踏み入れることになり、それが結果的に魔術の隠匿に反することに繋がる。

 だが、そんなことは当事者からすればどうでもいいことだった。

「ここはもう、ダメだ。二人は魔狩師協会に向かって欲しい。そしてこれを」

 時音は二人に一冊の本を託す。それは彼女の秘書であったゆるぎが持っていたはずの魔導書であり、彼女にとっては形見になり得るものだった。

「でもこれは」

「だからだ。どうかこの魔導書だけは頼んだよ。私にはやらないといけないことがあるから」

 彼らが追い出されるのと同時に多くの人々が中に入っていく。家接達は彼女の言うとおりにしてその場を立ち去らざるを得ない。

 魔術学園を離れている間にもあの光は届き続ける。夜が明けるまでにそれが消えることは無く、朝日と共に人々の営みを再開させた。

「カラ爺に電話しないと」

 タクシーから下ろされた五人は近くのカラオケボックスに向かう。夜が明けたということは人々が外に出てくるということ。そんなところで体と頭が分離した見た目は完全に人間の人形を晒すわけにはいかない。とにかく人目につかないところにいったん避難した。

 二人はあれ以降口を閉ざしたままで託された魔導書を見つめている。

 家接も何か声をかけようとしたが、気軽に声をかけられるような状態ではとてもないため雪広がカラ爺を呼んで迎えに来るのを待つ。

 その間に流れているアーティストの宣伝は全くと言って良いほど耳に残らなかった。

「ごめんね時間が掛かって。………君たちが魔術学園の生徒さん?」

「マイクラストです」

「メイニーです。よろしくお願いします」

「そんなにかしこまらないで。私のことはカラ爺って気軽に呼んで欲しい。………ってそんな気分じゃ無いよね」

 察したカラ爺はとりあえず全員を乗せて魔狩師協会に向かって車を走らせる。途中コンビニによっておにぎりを買って全員に渡すとお礼を言いながらも、その手が口に運ばれることはない。

 到着すると、さっそく受付で事情を説明すると奥に通される。その時、重傷だった四季は別部屋に治療の為に運ばれていく。

 ついたのはただの待合室では無く、むしろ事情聴取をするんじゃないかと思うほど何も無い椅子と机だけの部屋だった。そこに一人の男が入ってきた。

「どうやら、君達はⅣと接触をしたみたいだね」

 静かに頷くのを確認して続ける。男はペンをノックしてA4の紙にメモを取り始めた。

「君たちの事情には察するところはもちろんある。だが、我々魔術を扱う者達の存続に関わることなんだ。もしわけないがいくらか話を聞かせてもらうよ」

 数時間に及ぶ事情の聞き取りが行われて、四人は解放された。

 二人は事情を話すときに全ての感情を吐露してしまったのか、部屋を出る頃には全てを受け入れた様子だった。

「ありがとう。この情報は必ず役に立ててみせる」

 男が去ろうとしたとき、マイクラストは彼を呼び止める。

 振り返った彼の手に渡したのは託されたあの魔導書だった。

「これは?」

「一時音という人からです。ここで保管していてください。絶対に取りに来るので」

 その真剣な表情に男は「分かった」と言って魔導書を抱えたまま去って行く。

 家接たちもここで彼らとの別れになるのか。そう思い言葉を紡ごうとした時だった。

「家接に雪広」

 二人が振りかえるとマイクラストが気持ちの固まった顔をしていた。

「お前達は、またⅣを追いかけるのか?」

 それは問いであり同時に彼の目的だった。

 だが二人にとってⅣの存在はすでに関係ないものでは無くなっていた。

「もちろん」

 家接は先祖返りの力を持つ者としていつか立ち向かわなければならない存在であり、雪広にとっては親の敵であった。むしろ追いかけない理由が無い。

「なら一緒に追いかけさせてくれないか、あいつを」

「私も、そのつもりだよ!」

 メイニーもその意思に変わりは無い。

 そうしよう、と彼らに言おうとした瞬間、どこからか声がした。

「仲間が増えることはとても良いことだよ。もちろん、私も君たちを歓迎するとも!」

 そう言って彼らに抱きつこうとしたのを雪広が蹴り上げた。

「カラ爺、何してんの?」

「いやぁどうせ一緒に生活するんならハグというなの家族の証を」

「いらない。さっさと家に送って。早く帰るよ」

「相変わらず厳しいなぁ、雪広ちゃんは」

 二人が出口に向かって歩いて行く姿に呆然としているので、僕が二人の手を引っ張る。

「これからは仲間、いや家族だよ。よろしくねマイクラスト、メイニー」

 二人はやっと、笑顔になった。

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