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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
5章 誰にも触れない禁書目録

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星の沈む夜

 短剣を交わすこと自体は容易ではあった。だがしかし目の前には短剣だけでなく兄さんも迫っている。近接武器を持ち合わせていない彼女にとって接近戦というのは最も不利な戦い方の一つだった。

 そして彼と戦うことを選んだ今、彼女は自分がどの選択をするべきなのか決められずにいた。

 霧が展開されたことで四季はどちらに避けたのかを見ることができない。雪広は避けてすぐに霧の中から家接の近くに転移すると霧の中でも彼を見つけることができた。

「ありがとう」

「大丈夫、それより怪我は」

「無いよ。それにしても、兄さんは本気で私の力を取りに来てるみたい」

 彼女は一緒に帰ることができるかもしれないという淡い理想を最初は抱いていたが、そんなことも言ってられなくなっている。ただの戦いはもう命の狩り合いになっているのだから。

「いざという時は遠慮なく殺して」

「でもそれは」

「覚悟がないといけない時もある。私は今、覚悟した」

 家接に言う彼女の腕は、それでも震えていた。

 自然と家接はその手を握りしめていた。震えていた彼女の指はゆっくりと収まって、顔を上げた彼女は感謝を述べる。

「たまには、紳士みたいなこともしてくれるのね」

「傷つくのは誰だって見たくないよ。もちろん雪広も」

「ありがとう。でもおかげで踏ん切りがついた。兄さんを殺してでも止めるって」

 霧が晴れると、四季はこちらに気がつく。

「殺す気で来てなかったのか。それは悲しいな」

「ホントに、どうしてそんなことになっちゃったの」

「何もくそもない。ただ敵を討つのに力がいるだけだ。静、お前なら理解してくれるはずだ」

「………理解はできるよ。でもわざわざ殺し合うような戦いをしなくてもそれは叶えられ」

「無理だ。そんなんじゃ勝てない。そんな相手じゃないのをお前も俺も見たんだよ」

 沈黙が支配する中、彼は少しづつ近づいてくる。

 その手が彼女の頬に触れそうになって、やっと家接は短剣を彼の首筋に当てた。

「兄妹の中での話に首を突っ込むのか、部外者」

 一瞬思い悩んだが、すぐに振り払って顔を上げる。

「そうだ。大切な人を守ることの何が悪い」

「あーあ、そうかい。ならもういいさ。力づくですべて解決する」

 四季は手を戻して下がっていく。真っ先に魔力の流れが変わったのを感じ取ったのは雪広だった。

「兄さん、、、何してるの」

「お前が一番知っているだろ?」

 その魔術は良く知っている。だけど兄さんにできるはずがない。

 そうじゃない、しちゃダメなんだ。なのにそれを使うってことは。

「なんて、嘘だよ。これは静かには使わないから」

 彼は真後ろを向いた。マイクラストとⅣが戦っている最中の光景に彼は最後の魔術を起動する。

「八方印、北東」

 その視線の先はⅣに向けられている。

「くびきり」

 すべてを覆すその一手は、彼女ですら気づくことのできなかった背信。

 植物をすべて無視した空間魔術だからこそできた芸当。幾重にも守られた彼女の領域に無断どころか土足で侵入する。座標は合わさり魔術は起動した。

「あれっ?」

 彼女の首から上が鎌でも振られたように飛んでいく。その頭からは何が起こったのかを理解できないような声がして、体と共に地面に転がり落ちた。

 四季以外の誰もが彼のしたことを理解できないでいる。

 その行動の意味を理解するのには噛み砕けるほどの情報がない。ただ事実として彼は使うことのできるはずない魔術を使い、倒すことのないはずだった者を倒した。

「ここまでしないと倒せないと思ったんだ。本当に悪いことをしたね、静」

 ゆっくりと彼女に近づいて手を伸ばすと、そのままスッと何かが抜けたように彼は倒れる。とっさに受け止めた彼女が意識を確認したが、微かに息は残っていた。だけど心臓の鼓動は弱弱しく、何よりいくら呼びかけても反応がない。

「私に任せてください。絶対にあなたのお兄さんは助けてみせますから」

 そう言ってメイニーは背中に背負っていたリュックを降ろす。中から救急セットや陣を描くためのチョークなどを取り出した。

「本当に、お願い。私の兄さんをよろしく」

 彼女は立ち上がると、家接やマイクラストと並んで首を刎ねられた少女のところへと向かう。

 だがよくよく見るとそれがおかしいということに三人は気が付いた。

 首の断面からは血が一滴も垂れておらず、ましてやその断面から血肉が見えることもない。決定的な瞬間はすぐに訪れた。

「私の体になんてことするの………ひどいよ」

 刎ねられた首がひとりでにしゃべり始めて全員がバッとその声の方を向いた。

 落ちた体がその頭を拾って首に合わせると、癒着するように繋がって首を左右に振る。

「これでよし。さて、まだ続ける?」

「まさか、今までずっと人形だったのか」

 彼女はあっけらかんとした表情で答える。ステッキをくるくると振り回しながら答えるその仕草はとても人形とは思えない。

「もちろん。わざわざ危険を冒して敵の前まで現れるわけないじゃんか」

 木の成長だけは止まることなく、臨界点は迫りつつあった。

 これが本体ではないということが三人の言葉を失わせていたがそんな風に落ち込んでいる場合でもなかった。四季が使った魔術はもちろん雪広も使える。八方印が効果的だったということは勝ち目がないわけではない。

「私が兄さんのようにもう一度八方印を使うから、できるだけ時間を稼いでほしい。次に技がきまったらそのまま四方印で閉じ込めちゃうから」

「分かった。聞いてたよね、マイクラスト」

「ああ聞いてた。時間稼ぎは得意だからまかせておけ」

 人形である彼女は首の繋がりは不完全ではあるけれども、しっかりとそこに存在しているだけで意味がある。結局のところあの魔術が使われてしまったらどのみち負けてしまう。だとするなら、今全力で目の前の彼女を倒せばいい。

「波紋は消えた、ゆらぎが示すは彼の敵。水面に沈み凪を成せ。水纏、空殻」

 前衛に立ったマイクラストが魔術を使うと、二人を取り囲むように水の壁が現れてそのまま覆われる。その中に家接も入ったことで実質二対一になる。

「私と一緒に来る気になったの?」

 どうやらⅣはまだ家接がついてきてくれることを心の片隅では期待しているみたいだ。

 だがそれの答えは、家接の短剣が振り落とされて掻き消される。

「はぁーあ。ちょっと君には興味があったのに。残念だけど、ここで死んでくれる?」

 回したステッキがこちらを向くと、地面から植物が生えてくる。

「今だ!」

 マイクラストが魔術を解く。Ⅳが家接に魔術を使っているこの瞬間、防ぐことのできない隙を狙ってすでに雪広は準備を済ませていた。

「八方印、北東」

 家接は短剣を使って植物を燃やすとマイクラストの起こしたゆらぎによる爆発に姿を隠す。

「くびきり」

 彼女の首は再び宙に舞う。その顔はもうすでに笑ってはいなかった。

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