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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
5章 誰にも触れない禁書目録

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魔法少女になり切れない

 月が沈み切っていない真夜中、生徒たちどころか先生たちまで突然突き付けられた状況に理解が追い付かない。

 時音の秘書としていた水戸ゆるぎは窓の外に広がる惨状を見て彼女が言っていたことを思い出した。

「本当に、そうするしかないんでしょうか」

 だが考える余裕はない。ほどなくして外では魔術と魔術のぶつかり合いが聞こえてきた。

 彼女は寮に向かうと、寝ている寮長に事の経緯を大まかに説明してここから出るように訴えかける。状況を完全に理解したというわけではなかったみたいだが必至に訴えることでようやく腰を上げてくれた。

 寮長室に設置された緊急スイッチを押すと、寮内に緊急事態を知らせる警報が鳴る。眠りについていたほとんどの子供たちがその顔を上げて何事か部屋から出てきた。

「みなさん、突然ですが今から避難をしないといけなくなりました。事情を話したいのはやまやまですがそれでは時間が無いのでとにかく今は私についてきてください」

 あまりにも言葉足らずだと自分でも分かる。これで私だったら着いていくかと言われたらきっとそうではない。焦りが業務に支障をきたすなんて、私らしくもないのに。

「落ち着きなよ。みんな、あんたのことは信頼してるんだから」

 寮長が肩を叩くと、生徒たちはそれに頷いた。

「そうです、私が浅はかでした。………校長は外からの侵入者と戦っています。その侵入者との戦いに巻き込まれないように皆さんには私と一緒に逃げて欲しいのです」

「なら、僕たちも戦いに参加すればいいんじゃないの」

 一人の生徒がそう言うとそれにみんなが賛同した。だが、ただの侵入者ならまだしもこの魔力はそんなものじゃない。きっと並大抵の魔術師なんかではないはずだ。

「ダメです。これは校長からみなさんへのお願いなんです。私の親友の言葉を信じてください」

 それ以上の言葉は返ってこない。安心した水戸は寮長に言うとみんなを外へと向かわせる。

 歩き始めた生徒たちの背を見送っていると寮長に肩を叩かれた。

「落ち着いたらあんたも来なね」

 シルクのハンカチを渡されて自分でも驚いた。心の底では彼女のことをこんなに大事にしていたのかと涙を拭きながら思う。

「これは、何?」

 黒くて底のない、濁った純白。

 突如、森が騒めいた。

 外に向かっている生徒たちの足も同時に止まる。校門がひとりでに開くと、一人の少女が侵入して再びその門は閉じた。踏み入れた瞬間、魔力があふれだしたように地面が植物に覆われてそれが一様に広がっていく。その光景に慌てた生徒たちはこちらに向かってくるがそれをせき止めるように生徒たちにも一瞬で植物が絡みついて姿形はそのままに飲み込まれた。

「あら?何かいたのかしら」

 少女は何があったのか理解しないまま歩き出していく。

 水戸は自身の魔導書に手をかけて、腕を下ろした。

「ごめん、時音」

 彼女の姿もまた、蔦に飲まれて消えていった。


「やっぱり手ごたえ無いなぁ」

 劣勢。その言葉を覆すことができないでいた。

 メイニーは補助魔術を使って支援をしていたが背後から現れた四季の不意打ちによって気絶し、すぐに雪広によってさっきの部屋に彼女を送ったがその隙をⅣに狙われる。

 圧倒的物量による植物の応酬をゆらぎによってマイクラストが守ると、そのまま同時に四季にも攻撃する。

「錬炎、悉く燃やし尽くせ」

 植物の魔術ということで相性が有利な家接はⅣに真っ向から攻撃をしかけるがなかなか彼女のもとまでたどり着くことができない。

 植物がいたるところに張り巡らされていくせいでこちらの動きはどんどんと制限されていき、それを打開するだけの魔術を展開できない。燃えたり風で切り刻まれたりしてもそれ以上の植物の成長によって手の付けようがなくなっている。

「そろそろとどめでいいかもね」

 Ⅳはステッキを振り上げる。

 その先にあるのは魔術学園で最も大きい校舎で、すでに植物に覆われていたそれだが屋上付近で何かが動き出したがそれははっきりと目で追えるようになる。巨木が校舎を侵食して根を生やすように空中に伸びていき、天にまで上るような高さまで成長が進んだ。

「光れ、惹かれ。此処は私の独壇場」

 一瞬、すべてが光を飲み込んだような気がした。

 目を開けると木の上に一輪の花が咲いてそれが燦々と家接たちを照らしていた。

 地面を埋め尽くしていた植物は枯れ萎れ、すべての養分があの木に集約されているかのよう。

「これが天まで届いたら、きっとここはみんなの知る場所になるね!」

 彼女が指を鳴らすと、巨大な一輪の花はその花弁を閉じてつぼみへと戻る。

 植物は枯れることで徐々にその姿の全容を把握することができるようになってより彼女の恐ろしさを知ることになった。

「あれは……?」

 そう遠く離れていないところで倒れている集団を見つけた。

 マイクラストはそれに気が付くとすぐに彼らのもとに駆け寄る。

 それをⅣは許さないと思って家接と雪広は警戒したが、彼女は何もしなかった。

「残念だけど彼らは悪役だった。私とは違う道を進んだ。でも戦うなら倒さないと。そうだよね?」

 その言葉は自分たちにも言えることだった。

 家接たちも彼女を倒さなくてはいけないという気持ちを持って今この場にいる。だとするなら彼女もまたその気持ちを持っていないはずがない。

「おい、悠人、結、智哉、俊介!みんな、なんで起きないんだよ!」

 倒れた全員を起こそうとその体をゆするが、まるで人形のように揺られた体には力が入っていない。

 それもそのはず、彼らからは一ミリたりとも魔力を感じなかった。

「まさか魔力を全部抜いたってこと?さっき枯れていった植物みたいに」

 雪広の指摘は正解だったようで、Ⅳは両手を叩いて彼女を褒める。

「すごいすごい、一発で分かるなんて!そうだよ、悪役たちの魔力はぜーんぶあの木の栄養になったの。でも安心して?みんなはあの木の中で生き続けているから」

 顔を上げたマイクラストは怒り心頭だった。

 だが彼の行動は冷静で、杖を置いて息のない清水先生が携えていた一冊の本を取る。

 この学園の先生陣が一人一冊持っている魔導書。それは先生たちが持つアイデンティティであり、杖と同じくその人の命そのもの。そして彼はなんども先生の魔術を間近で見ていた優等生だった。

「雪広、四季を攻撃するよ」

 家接は雪広を見るとなんとなくで察したのか分かったと言ってⅣから狙いを外した。

 きっと殺せるなら彼女はとっくに殺している。弄ばれているうちが逆転の時。それならば彼の会心に賭けてもいい。

「ということで、僕たちの相手になってもらうよ」

 距離を縮めた家接は、Ⅳとマイクラストのいるのとは反対の方へと四季を蹴り飛ばす。

 そのまま地面に足を引きずらせながら着地した彼にもう一度追撃をかける。

「お前、接近戦が得意なのかよ」

「僕はそうでもないけどね」

 もう一度蹴りをお見舞いすると、今度はお腹に入る。だが彼は痛みにこらえながらも家接の右手首を掴んだ。彼は笑みを浮かべると反対側の手で、どこから持ってきたのか短剣を翳した。

 とっさに防ごうとして顔を覆ったが、それが間違いだった。

 すぐに彼は手を離すと家接が右手に持っていた短剣を奪ってそのまま雪広の方へと走る。

「雪広、危ない!」

 四季は片方の短剣を投げると、四方印を発動する。だがそれは雪広も同じ。逃げるために四方印を発動しようとしたが発動したのは彼が先。そして同質の魔術がぶつかり合った結果と言えば言わずもがな、相殺だ。

 四季がシャッターを斬ってから逃げるために転移を用いたがそれぞれで相殺されてしまい、彼女はその場に留まったままになる。つまり、短剣の投擲は止んでいない。

 家接は風を起こすがその程度では短剣の軌道は変わることはなかった。

 四季は避ける方向を見計らっている。なら次に家接がすることは決まっている。

「絶対躱すんだ、雪広!」

 すべてを包み込む勢いで、家接は霧を展開させた。

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