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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
5章 誰にも触れない禁書目録

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花園に注がれた泥雨

「普通にやっても勝ち目がないのは分かっているからね。少しくらいは僕にハンデをくれてもいいんだよ?」

「そう言ってお前が策を持ってなかったことがあったか?」

「はははっ、確かにそうかもね」

 彼が札を散り塵にすると、さっきまでの戦闘による負傷で鈍っていたはずの彼の動きが明らかに変化した。その傷をもろともしないかのような動きに二人は出遅れて先制を喰らう。時音を蹴り飛ばしたと同時に四季は魔術を使って姿を消す。

「四方印、南」

 姿を追っていた家接は見境なく風の刃を振るうが手ごたえはない。代わりにそれはすべて斬られたシャッターの中に封じ込まれる。

「さすがに本を斬るのはやめて欲しいな」

 彼は背後から現れるが今度は家接が反撃する番、そのまま体を捻らせてから彼に向かって斬りつけるとそれを躱した。やっぱり明らかにさっきとは比べ物にならない。

 すぐに炎を纏わせて距離を取る。

 その間に時音とマイクラストは詠唱を終わらせていた。

「照らす一つ星に命ず、我が目は彼の目。視るは異じ、映すは同じ。共感覚ノ目」

 時音と四季の視覚が共有される。その瞬間、彼は自分の目で自分が見えるというおかしな状態に混乱し足元がおぼつかなくなった。マイクラストの攻撃はそんな混乱した状態では効果的に響き、全身が爆発に巻き込まれてしまう。

 倒れた四季はまだ立ち上がろうとして手を伸ばすが、それが起き上がることには繋がらない。

 これでやっと終わりだと思った家接は彼を拘束するために近づく。確認してもすでに彼の意識はなくさっきの札を使った魔術と展開した術式、諸々の怪我を含めればさっきまで戦っていられたことの方がおかしな話ではある。

「四季のことは私に任せてほしい。しっかりと警戒はしておくから」

 そう言って彼女は瓶からいくつもの星?を取り出して口に含むと床に陣をおおまかに書いて彼を寝かせる。詠唱をすると陣が光った。

「これでしばらくは身動きも取れないし、魔術も使えない。安心してあの子たちのところに行っていいよ」

 二人は彼女に任せる思い出背中を向けたが直後血肉の裂ける音がして振り返った。

 そこには背中から刀が貫通した校長である一時音の姿と、どこから現れたのか分からない少女がその刀の柄を握っている。

「な、、、どういう、こと?」

 刀を引き抜かれた彼女は血を流したまま力無く四季に覆いかぶさるようにして倒れる。

 それを彼女はゴミを扱うように蹴り飛ばして四季の上からどかすと、倒れた彼の頬を撫でた。

 家接は彼女を受け止めて着地したが、目の前に現れたその異質な存在に目を奪われる。長い白髪の少女はその肌すらも白く、その瞳だけが赤く光っていてまるで雪ウサギのよう。

 だからこそ、家接もマイクラストもその瞳に目を奪われてしまう。

「ごめん家接、もう兄さんの術式は解除されてるみたいで」

「だからここに入ってこれたのか」

 彼女は四季を立ちあがらせると自身が携えていたランタン型のケースを持ち上げた。

 そこにはホルマリン漬けにされた眼球が二つ。その扱いをするものをすでに雪広と家接は知っている。

「なんで魔眼を持っている?」

「これ?これは、貰ったの。貴方たちの戦った彼女のもの」

 その彼女を指す人物は一人しかいない。魔眼を持った女性。つまりはオフターのもの。種が割れているのが一番の救いだが、あの魔眼の能力を鑑みればどうにもそれは救いにならない。下手をすれば形勢逆転どころかこの学園全体でかかっても勝てないかもしれないのだから。

「でも、これは使わない。メインディッシュは最後に取っておかないと」

「ということはあんたがⅣだね」 

 時音は臆することなく彼女に尋ねる。だがそんな言葉を知らないかのように彼女は首をかしげた。

「いいえ、私の名前は雪野白よ。Ⅳなんて無機質な名前じゃないわ」

「合っています。ミストガンがあなたに命名したのですよ」

「あら、そうだったの。失礼、私はⅣだったみたい」

 彼女は自分の立場すら分かっていないということなのだろうか。それならこんなに自由にしているのにも納得はいく。立ち上がった四季は彼女の前に立つ。だが当の彼女はもう戦いはやめようといったスタンスで彼に声をかけている。

「どうしてですか。まだ目的は」

「それならもう、終わっているから」

 彼女が不意に微笑む。それとほとんど同時に地響きが起きた。土埃に煙が起きて咳ばらいをすると目の前に彼女がいた。

「あなた、先祖返り?」

 また同じ質問だ。

 どうしてこう何度も同じことを聞かれるんだ。そこまでこの力が大事なのか。

「だから何なんだ」

「私と来ない?」

 聞くまでもないことを聞いてきた。そんなものに同意するわけがない。

 と、自分の心の中では思っていたのだが体が言うことを聞かなかった。差し出された手を取りそうになった瞬間、マイクラストの魔術によってⅣの足元がぬかるんで体制を崩す。その瞬間、何かが解けた感覚がしてすぐに彼女から離れる。

「何してんだよ」

「いや、体が勝手に動いて」

「たぶん反転の魔眼の力じゃない?使わないなんて嘘だったってこと」

 ぬかるみから脱した彼女は四季の服の裾引っ張って言う。

「ここは狭すぎるわ。もう少し開けたところに行きましょう」

「分かりました。四方印、北」

 Ⅳと四季は部屋から姿を消してしまう。

 さっきの地響きと言い、彼女たちが逃げ出したことと言いあんまりいい予感はしない。

「手分けをするか一緒に追うかだけど、経験則からすれば一緒に行く方が良いと思う」

「私も賛成」

「なら、俺とメイニーも一緒に行く」

「私は戦えないですけど支援なら任せてください」

 部屋には校長が残る。託された者として果たさなければいけないことがあるらしい。

 外に出ると、さっきの地響きの影響はあるようには見えなかった。代わりにそこに広がっていたのは違う意味での惨状。

「なんだ、これ」

 いくつもの並んでいた校舎の影は全て植物に飲み込まれて、この学園全体がまるまる森に飲み込まれてしまったかのよう。そしてそこにはちょうど外へと脱した二人の姿が。

「あら、もう鉢合わせることになるなんて。良かった。早く終わることは良いことって、Ⅴも言っていたから」

 四季が札を出す。また何かをするつもりみたいだ。

「あんまり退屈させないでね?」

 純白の服と髪の間からまっさらなステッキが取り出されると、同時に周りに生えていてた蔦が家接たちを襲い始めた。

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