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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
5章 誰にも触れない禁書目録

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光が灯っても見えないもの

「じゃあさっさと目的だけ済ませて帰ろうかな」

 彼は本棚を物色し始めようとしている。まるで家接たちは眼中に何かないかのようでマイクラストは苛立ちを覚えていた。

「もう一度やるぞ。家接、前に出ろ」

「分かってる」

 すでに先祖返りの力を使っている家接はさっきのとは比べ物にならない速さで四季に迫る。

 マイクラストはもう一度彼に向かって魔術を放つ。彼の攻撃は発動と実体化にラグが生じているため、躱すことがかなり難しい。しかし四季は一度その攻撃を受けているため対処法はすでに浮かんでいる。

「散れ、篝火花」

 彼の目の前に花が現れると、それが咲いて散る。その花弁が火花となって彼に襲いかかった上に彼の背後では空間がゆらぐ。挟み込む形での攻撃に加えて家接の物理的攻撃も控えている。

「思い出したんだけど、君って確か先祖返りだよね?」

 四季は火花の中に何の躊躇もなく飛びこんで家接の胸倉を掴んだ。

 持っていた短剣を振るうがそれも彼は躱すことなくそのまま彼の胸に突き刺さった。

「なにしているんですか」

「こうでもしないと逃げられちゃうかなって思ってさ。でも実際、もう逃げられないよね?」

 彼は胸倉を掴んだまま持ち上げるようにして地面に押し倒す。そのまま組み伏せられた家接は彼を払いのけることができたが、その時に短剣を奪われる。

「いつまでそいつだけ見てんだよ」

 マイクラストの攻撃は終わっていなかった。

 彼の魔術は波紋を用いたもの。さっきのはすでに四季に攻撃は当たっていないが、マイクラストはすかさず魔術を発動させている。つまり、起こったゆらぎはどこまでも波紋を起こして相手に当たるまで止まらない。

「くっ!」

 背中から爆ぜた攻撃で短剣を手放した四季は後ずさる。そのタイミングで家接は風の魔術を使って追い風を起こすと、落ちた短剣を拾い上げながら振り上げるようにして四季に向かう。

「このまま倒れてくれ」

「そんなことさせるわけないだろ。なんなら君ごと連れ帰ってあげるよ」

 額から血を流したまま彼は思い切り家接の腹を蹴る。

 すでに彼の出血量を考えれば倒れていてもおかしくないのだが、それでもここに居座り続けている。

「お前、なんでもう四方印とやらを使わないんだ?」

 そうだ。さっきからどうして魔術を使ってこない。

 彼はあくまでこちらの攻撃に対処しているだけで自分から攻撃をしてくる様子はないのが違和感だったのか。彼はその指摘になんら驚いた様子はなく、ただただ沈黙を貫いた。

「それは、私が継承者だから」

 代わりにその問いに答えたのは、正気を取り戻した雪広だった。

 彼女は自身の兄である四季を一瞥すると魔術を発動させていなくなったメイニーと時音を呼び寄せる。

「私が一族の魔術を全部受け継いだから。兄さんの本当の目的は、私なんでしょ」

「まぁ違うとは言えないね。でもこの禁書目録にもちゃんと用はある」

「なら余計に私は兄さんをここから外に出すわけにはいかない」

 立ち上がった彼女はすぐに四方印で彼を閉じ込める。その速さは、かなり負傷している四季から先手を奪うことできた。さっきの話からして雪広ほど四方印の魔術に制限が加えられていると考えるのが妥当だと思う。

 すぐに四季は抜け出したが、その顔から余裕が失われている。

「それなら話は変わった。僕は徹底的にここで応戦するよ。夜が明けた時に、どんなことが起こるのか君達には考えもつかないだろうけど」

「それはどういう意味?」

「時音、お前がここにいる時点でその策は十分に通じる。今回、僕は囮だ。この代理の称号すらあの方は利用している。人には自分がわきまえないといけない境界があるんだ。そして僕は二度その線を踏み越えた。一度目は一族に反したとき、二度目は彼女に歯向かった時だ。つまり僕には選択肢なんて最初から無かったんだよ」

 青年は懐から札を一枚取り出した。そして懐中時計を開くと、そこに刻まれた術式が起動する。

 あれは先日話を聞いたので覚えている。危機に陥った際に、自身と最も親和性の高い魔術が展開されるというもの。

 彼の場合であればほとんど決まっているようなものだが、それを避ける方法はない。

「僕の仕事は、君たちをここから出さないことだ。せいぜい僕が死ぬまで戦いを続けようか!」

 術式が発動した瞬間、彼の持っていた懐中時計が爆ぜる。マイクラストによる魔術だったみたいだが、一歩遅かった。すでに魔術は起動してこの部屋に魔力の壁が貼られたような感覚がする。

「これはもう私の魔術で術式を破棄できない」

 時音は四季に対して魔術を使おうとしたがその前に懐中時計が破壊されて術式が消えたはずなのに残っていることを理解してやめる。雪広はと言えば外に出るために四方印を使うがそれが何故か発動しないでいた。

「それが僕の使った魔術。空間魔術ですら阻害してしまう魔力の障壁を貼ることで一定期間ここからは出られない。それさえすればあとは、Ⅳが来て君たちもろとも終わりってこと」

 雪広の表情を見るに、彼はすでに彼女の知っている兄ではないらしい。だからこそ意識を取り戻して戦う意思も芽生えて対抗しているわけで。

「マイクラスト、もう一度やろう」

「でもおんなじ方法じゃ相手にならないのは分かってるだろ」

「ここから出る方法はどちらにしても雪広の魔術を使わないと無理なんだ。だったらそれをこれ以上阻害されないように僕たちがしないと」

「聞こえてるよ。言っとくけどそんなことじゃあ僕は手加減をするつもりはないからね」

 もちろん、そんなことは分かっている。

 だがそこにもう一人加わったことで、彼もそこまでの大口を叩くことはできなくなった。

「なら私も力を貸すよ。このまま悪い部分だけを見せていたら、生徒の心象が悪いままになってしまう。私もかつては四季と肩を並べていた片鱗だけでも見せてみせるから」

 校長自らが先頭に加わることになる。

 彼女は瓶に入ったものをあらかじめたくさん食べている。対する青年は札の魔術をまだ発動していない。叩くなら今しかないはず。

「私は家接くんと前衛を貼る。マイクラストくんはできるだけ丁寧に魔術を使って。生半可なのじゃなくて有効打になるやつを。私たちのことは気にしないでとにかく四季にあてることだけを考えること。いい?」

「分かりました。少しだけ時間稼ぎをしてくれますか」

「もちろん、それはまかせて!いいよね、家接くん?」

「はい。ついていけるように頑張ります」


 幕は下りた。札は灰に消える。

 校門が開き少女が通ると自然と閉じた。

「それじゃあ、私の時間を始めましょうか」

 純白のドレスに身を包んだ彼女は、月光に照らされながら顔を上げる。

 赤い瞳が輝いて。

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