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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
5章 誰にも触れない禁書目録

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光る五つの星、鳴り響く足音

 一時音は魔力の機微に敏感であるため、基本的にはその影響を受けないように普段は自身の周りを魔力で覆うことでその影響を軽減している。

 だが眠っている間もそんなことをすることはできない。人々が寝静まると自然と魔力の流動は消え、彼女もまた眠りにつくことができた。

 だがこの日は残念ながら家接たちの夜行によってその眠りは妨げられる。

「………こんな時間に誰が魔術なんて使ってるんですか」

 とても眠たいがこの問題を解決しない以上、ゆっくりと眠ることはできない。彼女は起き上がると例の部屋へと向かって星の位置を確認しておかしなところにいる人がいないかを確認する。警備システムとしてこれ以上に優秀なものはなく、もちろんそのおかしな人をすぐに見つけることはできた。

「どういうこと?」

 彼女の半分眠っていた脳みそはこれによって完全に叩き起こされることになる。

 本来光ることすら起こり得ることのないあの部屋に星が五つも光を灯していたのだ。もちろんそれが彼女の眠りを妨げているのは言うまでもなかった。

 だがそこで焦ることなく冷静に対処できるのがこの学園の校長に若年ながら選ばれた所以。

 深夜ということもあり、他の生徒に悟られないように事の対処をしなければならない。故に彼女は校長室へと向かい、意識を研ぎ澄ませる。魔力に敏感な彼女からすれば他人の魔力の差異には気づくことができる。だからこそ今魔力を放っている人物が誰なのかも彼女からすれば感じ取ることは容易なこと。

「これは………確か転校してきたばかりの」

 あまり感じたことのない魔力だからか、すぐにそれが誰なのかは分かった。編入生とその近くにいるのはマイクラストとメイニー。どちらも彼らの編入したクラスの生徒たちだ。

 しかしなぜ彼らがこんな夜遅くに歩き回っているのだろう。

「どちらにしてもあの部屋にいさせるわけにはいかない」

 それにその中には感じたこともない魔力がある。良い兆しでないのは確かだ。

 すぐに彼女は机から中身の入った小さな瓶をポッケに入れると部屋を出る。校舎の地下二階。さらにその奥にある倉庫の隠された床下にある階段を抜けた先にその部屋はある。隠されるように配置されたそれが動かされた形跡はない。

 彼女はより焦りを感じた。ここが使われていないということが意味するところは一つしかないから。


「さて、君たちは何をしているのかな」

 それぞれが部屋を調べ始めた時だった。響いたその声に聞き覚えは無く、全員が一瞬体をこわばらせて声のした方へと顔を向けた。

 マントを羽織ったその青年は二階へと続く階段の手すりに肘を置いて、一様に眺めている。

 全員が警戒した中でただ一人、雪広だけは怯えた顔で持っていた本を落としその場にへたり込む。

「あれ、静じゃん。なーんて。数日前から知ってたけど、わざわざ泳がせた甲斐があったよ。ちゃーんとここまで来てくれるんだからさ」

 青年はへらへらとした笑いで彼女を眺めているが、当の本人はそれどころじゃないと言った様子でいる。やっと顔を上げた彼女は縋るような顔で彼に声をかけた。

「どうして、ここにいるの?」

「そりゃあここに用があるからだよ」

「なら、このまま一緒に帰ってくれるんだよね」

「いやぁ、それはちょっと難しいかな」

「それはどうして?」

「果たさないといけないことがあるから。それが終わったらまた一緒に過ごせるよ」

 彼は幼子の頭を撫でるように甘く彼女に語りかける。

 そんな漠然とした理由なのにまるですべてを理解したかのような顔で雪広は「うんっ!」とはつらつとした笑顔を見せた。見たこともないその笑顔に家接は理解が追い付かず、同時に彼が歩き出した時に靡いたマントの隙間から見えたその絶対的なトレードマークに一瞬で現実に引き戻される。

「あなたは、No.0の」

「そうだよ。僕がⅣの称号を持ってるんだ。とは言っても休暇中の彼女の空席に押し込められただけなんだけど」

 彼は歩みを止めずに雪広の前まで向かうと、その頬に触れてそのまま頭を撫でた。

 慈しみを込めたその行為に彼女は納得できない気持ちを押さえてしまう。

「それじゃあ、そろそろ僕の目的を果たすとしようかな」

 彼は、家接が何度も見たことのある構えをした。短剣を抜いたがそれでは間に合わない。

 画角から外れようとしたときにはもう既に彼の魔術は発動していた。

「四方印、東西」

「照らす五つ星に命ず。我が禁則領域にて空間魔術を使う者、その者の魔術を強制的に破棄せよ」

 家接たちにシャッターが斬られた瞬間、あとから乗り込んできた女の言葉によってすぐにその魔術は効果を失って消える。ガリッという音を立てながら入ってきたのは、校長である一時音だった。

「久しぶりだね時音。………そうか、まだその体質は治ってないんだ」

「四季が、どうしてここにいる」

 青年はその顔に懐かしさを覚えて浸っていたが、時音はといえばそんなことを感じる暇もなくただ単に彼を侵入者として警戒していた。

「僕はここに目的を持ってきた。時音も知ってるだろ?ここにはすべてがある。あらゆる魔術の原典が、そしてその術式が書かれた本がこの夜が続く限り永遠とやってくる場所。禁書目録がここにはあるんだから」

「やっぱりそれが目的なのね」

 彼女は小瓶に詰められたものを少し手に取って口に含んで嚙み砕く。

「照らす一つ星に命ず。我が目は正義、彼の目は悪。無影灯にて許すは正義。堕ちて躯の灰と為れ」

 一瞬で光が消える。すぐに視界を取り戻した時音は彼との距離を詰める。周りの四人も視界はすぐに晴れ、唯一彼だけがその視界を失ったままそこに立ち尽くしていた。

「音が聞こえてたら、意味ないでしょ。四方印、北」

 武器を構えた彼女の目の前、つまり両者の間に空間の歪みができる。勢い余った彼女はそのままそこに飛び込むことになる。そして出てきた先が、彼の両手の中だった。

「こんなことを友達にはしたくないんだけど、少し眠っていてもらおうかな」

「な、はな、、っせ!」

 首を片腕でで挟むように絞めたまま手にした武器を振るえないようにもう片方の手で押さえつける。

 家接はこのままだとまずいと思って雪広の方を見たが、彼女はとてもじゃないが戦える状態ではなかった。

「助けるぞ、家接」

 そんな時に声を掛けてきたのはマイクラストだった。彼はすでに杖をその手に握っていた。

「僕が前に出るから、二人は後衛で援護をお願いできる?」

「分かってる。近づくまでは絶対に手出しさせないから安心して走れ」

 家接は短剣を抜くと階段を直線で登っていく。その音が聞こえたのか、彼は腕にさらに力を込めると時音はより苦しそうな声をその口から漏らした。

「いい加減校長を離しな。水面に靡きし波紋よ、空を、地を、その情景に写れ。ゆらぎの間」

 空間が歪む。その瞬間に空間が爆ぜてまともにその攻撃を青年は喰らう。その時に両手は離されて顔面を抱えながら後ずさりする。

 階段を転がり落ちてそうになった校長を家接は先祖返りの力を使って抱えながらすぐにマイクラストの近くまで跳んで移動した。

「ははっ、中々痛いね」

 彼は額から血を流しながらやはり笑っていた。

 家接は校長を静かに地面に横たえさせると再び戦闘に復帰する。後方ではメイニーが校長の容態を確認していた。

「僕の初見殺しは、もう初見殺しじゃないんだな……」

 魔術が解けて視界が晴れたであろう彼はしっかりとこっちを見ながらまた構えている。

「時音は邪魔だから、少し退場しててもらうよ」

 二人が後ろを振り向いた瞬間、彼女に巻き込まれてメイニーもその場から消えていくのを見た。

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