文武相応
その銃声は雪広がもたらしたものだった。銃弾は少年の持っていた杖に命中し、そのまま節にそって割れて崩れる。途端に魔術にゆらぎが起こって一瞬魔術が解除された。
すぐに持ち直したが、その時にはすでに雪広が少年を自分の間合いに引き込んでいる。
「常に不利な状況を考えないと、勝てるものも勝てないよ」
雪広は隠していた仕込み刀を首筋に当てると少年の魔術は今度こそ本当に解け、勝敗が決した。
「はははっ、さすがだな。さ、お前も謝るんだ」
「………あぁ、俺が悪かったよ」
そう言って少年は砕けた杖を拾って生徒たちの陰に消えた。その背後で少女に何か言われて拗ねている様子が見て取れた。
「彼は口こそあまり良くないが、このクラスではかなり優秀なんだ。だから急に入ってきた人に乱されたくなかっただけなんだと思う。許してやって欲しい」
先生は少しだけ申し訳なさそうな顔で雪広の肩を叩くと次の授業に向かうために生徒たちを引き連れて行ってしまう。
「雪広、行こうよ」
立ち止まって彼らの背中を見つめている雪広に家接は声を掛ける。ただ黙ったままでいる彼女の顔を覗き込むとなんとも言えない表情をしていて、言葉に詰まった。
「………行くよ家接」
急に彼女が歩き始めたのですぐに追いつこうと走る。
先生たちが向かっていた先は教室だった。黒板の恥には何やら紙が貼りつけられていて、そこには上から覆いかぶさるように「優勝!」と書かていている。先生は家接たちの席を案内した後に全員が席に着いたことを確認して黒板に魔導舞踏会とだけ大きく書いた。
「さて、転校生が入ってくるということもあったが明後日から始まるこの行事について改めて確認しておこうと思う」
先生の話によるとこの大会は4クラスの中から最も優れたクラスを決めるための大会らしい。
基本的には生徒たちの模擬試合形式での勝敗からポイント形式で決まるとのこと。
「転校生の二人は、申し訳ないけれど最初のこの競技に出ることにしてもらうよ」
そう言って冊子をページを開きながら渡される。競技名は「迷宮」。
学園内にそれぞれのクラスごとに指定された魔導書を学園の中から見つけ出して持っていくというもの。模擬試合が行われている中でもそれは続くみたいで、いわばお荷物が割り振られると思われるような競技だ。
「もちろんこの競技も配点は高いから、二人ともこころしてかかるように」
「はい」
「分かりました」
そのあとも最終確認のような感じで一つ一つの試合の注意事項を確認すると、その日は終わりということになった。家接と雪広はこのあとどうしようかと教室に残っていると先生に声をかけられる。
「そういえば、まだ校舎の案内とかはしていなかったな」
彼は教室にまだいた生徒を何人か呼ぶ。その中にはさっき雪広と戦った生徒もいた。
「ちょうどいい、マイクラストとメイニー来てくれ」
呼ばれた少年は雪広の顔を見てとても不機嫌になったが、隣の少女が背中を押したことでなんとか来てくれた。
「そんな顔するな。二人はまだこの学園に来たばかりだ。案内を頼んだぞ」
「先生がすればすればいいだろ、そんなこと」
「俺は明後日の準備で忙しいんだ、なんならお前だけこっちに手伝いに来るか?」
「………いや、それはいい」
「だろ?だからそっちは頼んだぞ」
そう言って彼は急ぎ足で教室を出ていく。残された四人はぎこちない空気だったが、メイニーと呼ばれた少女がなんとか場を和ませようと話をしながら学園の案内に向かってくれた。
「はぁ、さっさとついて来いよ」
マイクラストは不機嫌ながらも案内をしてくれるらしい。
以外にも手際が良く流れるような案内はすぐに終わりを迎えようとしていたが、家接は気になるものを見つけて足を止めた。
「ここは?」
「図書室だ。基本的には魔術の授業をするときに使うが、それ以外にはまぁ使わないな。もっと詳しく魔術を学びたいやつくらいしか籠ることはないな。それにこっちの扉は基本使わない。そこの角を曲がったところから基本入るんだ」
確かにここは廊下のつきあたり側。端にあるため、わざわざここから入る人はきっと少ないだろう。
「少し、覗いてみてもいいかな」
「別に構わないが。そのための案内だからな」
家接は扉に手をかけて開ける。
隙間からは、まるで冷風がかかったかのように足元を冷やす。中は想像していたよりも薄暗く陰鬱な雰囲気が漂っていて、あまり頻繁に入る場所ではないと家接は感じた。
「それにしても、本の装丁が変わってるわね」
彼女が一冊の本を手に取ろうとしたとき、それを制止するように訴える声が聞こえた。
「待て」
「なに?」
その相手は雪広に敗北した相手であり、いきなりの命令に少し苛立たし気に返事をする。
だがその相手はといえばそれどころではないといった様子でこの部屋を見つめていたため、彼女も態度を改めた。
「何かおかしなことでもあるの?」
「ある。……というよりここそのものがおかしい」
「どういうこと?」
理解しがたい返事に困惑していると、隣にいたメイニーも驚きを隠せないまま彼の言葉に補足する。
「何を言っているのか分からないかもしれないですけれど、ここは私やマイクラストが知っている図書館じゃないです。そんな本も一度だって私は見たことがない」
すぐに雪広は伸ばす手を引っ込めると、入口を確認した。まだ開いていた扉を見てすぐにシャッターを斬り退路を確保したうえで再度確認する。
「本当に知らないの?」
「ほんとの図書館はもっと落ち着いてる。こんな重苦しい雰囲気じゃねえよ」
どうやら本当らしい。だとしたらここはどこ?
「とりあえずここから出ましょう。閉じ込められたらどうなるか、分からないですから」
メイニーの言う通りまずはここから出た方が良い。
四人は走ってその部屋から出ると、すぐに扉は閉まった。すぐにまた扉を開けてみたけれど、そこに繋がっていたのはさっきマイクラストが言っていた落ち着いた雰囲気の図書館に繋がっているだけ。
「空間魔術、みたいだね」
さっきの部屋について全員が思考したが、そこに浮かんだのはきっと同じはず。
「あれが入ってはいけない部屋?」
何度閉じて開けても、もうそこにはつながらない。司書さんに怒られたので、その場を離れて歩きながら家接は呟いた。
「先生に聞いてみたら?」
「それは意味ねえよ。先生すらしらない秘密事項だ。つまり頼れるのは自分自身の目と耳だけってこと」
「なら、私たちであの部屋の秘密について解き明かしてみない?こうしてあの部屋を見つけたのも何かの縁だと思うの」
「僕は賛成だよ。あとは、二人の返事次第だけど」
両者は一瞬互いを見たが、すぐに頷き合うと「分かった」とそっけなく返事をした。
「なら決まりだね。僕たちであの部屋の秘密を暴いていこうか」
すでに禁則は犯された。今更失うものなんてない。
星の瞬き。すべてを照らしたその場所に、唯一灯されない悲しい星。
「相変わらず、あいつは面白いものを作るなぁ」
その部屋で一人、灯されることのない星が灯る瞬間を見ながら部屋を出ていく者がいた。




