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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
4章 ハック・アイズ

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鮮やかな罰

 崩壊は進んでいく。今のサイドゥンの攻撃でそれは決定的なものになってしまった。ギリギリで耐えていた建物は崩れ落ち、できるのは瓦礫の山とそこに立つ女の姿。

「このままだとマズい。雪広、僕をあの人の前まで飛ばしてくれる?」

「でもそうしたら家接が相手をしななくちゃならなくなるよ」

「大丈夫。それに一番頑丈なのは僕だし」

  先祖返りの力を使っていれば少しは時間を稼げる。

 今ここで倒せる人がいるとしたらサイドゥンさんだけ。彼女の簡易的な魔術でダメならもう少し時間を使ってより精密な魔術を撃ってもらう。

 霧に塗れて家接は女に寄ると、頬を削ぐように斬り掛かる。

 霧の中とは言え、直前になれば剣先が見える。

 体勢を反らしてその勢いのまま女は距離を取った。槍を回転させて霧を避けつつ間合いを測る。リーチが槍より短いからこうして奇襲紛いのことをしなければならないのだが、それでもこうしてすぐに対応されてしまうため厳しいものがある。

「なんだ、同じような技しか使えないのか。まだまだ未熟よの」

 否定はできない。僕は事実未熟な部類に入る。たとえ先祖返りというアドバンテージがあったとしても食いつくのが精一杯。ただ使う魔術がすべて戦闘向きにあるのが僕というだけで。

 二人は補助技としての魔術を豊富に持っているが僕はせいぜい霧で目くらましにするくらい。教えてもらえたら使えるのかもしれないけど僕自身自分の魔術が完璧じゃない時点でそんな四方に手を出すことはできない。霧を展開してまた時間を稼ぐ。

「そこまで言うなら早く倒してみてくださいよ」

 それならそれで僕としては彼女の魔眼の力を見抜いておきたかった。挑発をしたけど相手が乗ってくるかどうか。高貴に振る舞っているのを見ると乗ってこないきもするけど、その時はその時だ。

「あまりわれを舐めるなよ」

 雷槍がまるで僕の位置を見抜いているかのように投げ込まれた。幸いにもその位置はずれたけれど、もしそれが合っていたらと思うと震える。

 勢いで霧がどかされて一瞬僕の姿がさらされる。すぐに周りの霧が隠したが、彼女と目が合う。その異様な色の瞳に。

「われの目を見たな」

 霧の向こうで声がする。

 しくった。彼女の能力が分からないんだからもう少し警戒しておくべきだったのに。

 彼女の目を見てはいけないとスマホで雪広に送ろうとしたが、どうしてか力が入らない。

「なに、これ」

 持っていたスマホを地面に落として膝をつく。

 すぐに持てるようになってので目を見ちゃいけないという文字だけを送信する。

「お前には、恥ずべき屈辱を与えてくれる。せいぜい無様に生きることだな」

 彼女の足音は遠ざかっていく。僕は力がまた入らなくなって瞼を閉じる。

 呼び起こされたのは雪広の優しい声だった。

「あ、サイドゥン。目を覚ましたよ」

 盲目の彼女も近づいてくる。倒れていた僕はどこかに運ばれていたようで、ホテルの外で布を敷いて寝かせられていたみたい。

「怪我とかは無いですか?」

「うん。たぶん大丈夫だと思う」

 僕自分の声が変だなと思いつつ体を起こす。違和感を覚えて自分の胸に手を当てている僕の顔を見て異変に気が付いたのか隣にいた雪広が声を掛けてきた。

「何か変なところがありますか?たぶんあのホテルの死臭を吸ってしまったかもしれないですけど」

「それはたぶん大丈夫。ただ、なんでさっきからそんなに敬語なの?」

「え?」

「へぇ」

 雪広とサイドゥンは互いに違う反応を示した。それは愉快と困惑と異なっている。

 何かが噛み合ってない。僕は立ち上がってそこで初めて違和感の正体に気が付いた。続いて立ち上がった彼女の頭が見えなかった。

 僕は全身を慌てて触る。そして、あるはずのものがなくてないはずのものがあると理解した。

「なにこれ」

「もしかして、家接?」

「そうなんだけど、でもこれは」

 僕が僕じゃないなんて人生で思うことはあるんだな。

 彼女の魔眼の影響なのか、僕の体は性別が反転していた。

「いいじゃないか、可愛いよ」

 目の見えない彼女のジョークを笑う気にはまったくなれない。靴も服も若干でかい。挙句ズボンが落ちそうになって僕はしゃがみこむ。女の子座りなんて痛すぎてできないと思っていたのに今の体とできる。 

 驚きはしたが自分のことながらそこまで動揺しなかった。とはいってもすぐにこれをどうにかしないといけないという危機意識ははっきりと存在している。

「これはどうしたらいいんだ」

「そういえば、さっきの女の人はどこに行ったの?」

「彼女と目が合った時に力が入らなくなって、それから先のことは思い出せないからたぶん気絶してたんだと思う」

「ていうことは、彼女の魔眼の力か何かかな。そうだとするならその異常も彼女を倒せば済むっていうことになる」

 それなら早く行こう。僕は立ち上がるが、全部がだらりと下がるので慌てて手で押さえる。

 こんな状態じゃとてもじゃないけど追いかけることはできない。

「もうだいぶ先に行ってるから、どっちにしても追いかけるのは無理だと思うよ」

 サイドゥンはあの後も魔眼で彼女のことを見ていたらしい。このホテルから去っていくのを見送ってから安全になった中を二人で探しに行ったという。

「こうなったのならもう仕方が無いから、私の服を貸してあげる。ちゃんと洗って返してよね」

「いや、でも」

 さすがにそれを了承することはできない。というよりそんなこと口が裂けてもありがとうございますなんて言えないし、一番嫌なはずの彼女がそう言わせてしまったことに申し訳なくなる。

「いいって、じゃないとあの女の人だって追いかけられないんだから」

 持ち出していたカバンから服を出すと家接に向かって投げる。それを受け取った彼を壊れかけの部屋に押し込んで無理矢理着替えさせる。

「ほんとにごめん。このお礼は必ず。欲しい服が合ったらなんでも言って、弁償のつもりで買うから」

「気にしすぎ。そこも笑ってないで準備して」

「分かったから。というかそれが盲目の人に言うセリフなの?」

「自分の持ち物にはマーキングしてる人が何言ってるの?」

「なんだ、ばれてたんだ」

 一応着替えは終わったけど違和感とそれ以上の申し訳なさで出たくない。

 だが無理矢理扉は開かれて、見定めるように上から下まで雪広に見られる。

「まぁ、悪くないんじゃない?」

「ほんとごめんね」

「しつこいと嫌われるよ」

「………ありがとう」

 ごめんは言うな、ありがとうと言えと誰かが言っていたのを思い出した。

 タクシーをすでに呼んでいたので駐車場にしばらくして停まる車が一台。崩壊したホテルから出てくる見た目は女の三人組に最初は驚いていたが、少し多めにお金を払うとそれに目がくらんでさして気にせずに市街地まで送ってくれた。

 道中サイドゥンは魔眼を行使して見つけられないかと辺りを見回していたが成果は上げられなかった。

 手掛かりを失った今、ほとんどは彼女の魔眼だよりになる。そのままとりあえず魔術協会に戻ることにした。

 彼女の部屋に入ってから一応カラ爺にもこれまでのことを手短に話した。

 それを聞いてからテンションの上がったカラ爺はどうしても顔が見たいと僕を映すように雪広に言う。

「絶対嫌です」

 断ったが彼女が四方印で僕を閉じ込めるなんて強硬手段を取ったので余すことなく晒された。

 へぇ、ほんとに女の子になっちゃったんだ。なんて呑気に感心している彼は自分が蚊帳の外だから楽しんでいるのだなぁと、彼と出会ってからしばらく経つが性格が見えてきた気がする。

「まぁ安心しなよ。魔眼の効果は無限というわけじゃないんだ。少なくとも持ち主を倒せば解除されるし死ぬことがあれば強制的に解除される。そのまま逃げられたら……そのままだけど、その時はその時だ。おっと僕はこう見えても忙しくてね。また連絡待っているよ」

 楽しむだけ楽しんで切った。

「ひとまずは、あの女の人を探すのが最優先だね」

「そういうこと。というわけで、私に着いてきてもらうよ」

 サイドゥンは僕たちがカラ爺に連絡するのを待っていてすでに次の行動は決まっていたらしい。

「魔術協会に喧嘩を売ったことを後悔させてあげるのさ」

 都合のいい時だけその虎の威を借りる少女であったが、部屋を出た途端、彼女の肩は一人の男に捕まれた。

「サイドゥン、話がある」

「え?」

「郊外のホテルが全壊した件についてだ」

 彼女は事務室に連れていかれ、日が暮れるまでそこから出てくることはなかった。

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