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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
4章 ハック・アイズ

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私に死角はない

 半壊したホテルに、崩壊の発端を引き起こした人物は杖を向けたまま動かない。

「他にも邪魔をする者がいるとは思わなんだぞ」

「私の趣味の一環だよ。気にしないで」

 それでホテル一つを半壊にさせている時点でかなりヤバいのは相手も理解する。タガが外れている人に対して常識というものは意味を成さない。

「まぁいい。おぬしを始末するのも些事にすぎん。手間が一つ増えるだけだ」

「そう。でもあいにく私はあなたのその魔眼に興味があるんだよ」

 そこで初めて彼女は余裕を崩した。視線の端にいた家接はその彼女の隙をついて死角に回る。恐らくサイドゥンさんは僕たちが戦いになる間合いには入っていない体で事を進めているはず。そこに僕たちがいては邪魔になるだけ。そして相手も彼女が自分自身に指摘をした相手を放って僕たちを追うほど余裕はない。

 それにしても、あの人がサイドゥンさんが探していた魔眼を持っている人。一瞬目を見たけど特段普通の目と違うところはないような。

 もっと彼女から魔眼について聞いておくべきだったと思う。

 崩れるホテルを眺めながら、女は一階に飛び降りた。ドレスについた埃を掃いながら目隠しをしているのに対峙している少女に目を細める。

「おぬし、われが見えているのか?」

「さてどうでしょう」

 彼女は目隠しをしたまま動かない。というより動けない。

 サイドゥンの攻撃はその場から動かずに放った無差別砲。さっきの発言が正しいのだとしたら、魔眼が見えた方に向かって適当に魔術を放ったに過ぎない。つまり今の地形がどうなっているのかも分からないし、魔眼を開いていたとしても僕とあの女くらいしかその目には映っていないはず。

「揶揄う余裕もあるようだな。いいだろう、さっさと息の根を止めてくれる」

 魔力の質が変わった。こうなるとサイドゥンのことにまで気を回せない。一番は気絶した雪広を安全な場所まで連れていくことだ。霧を展開して位置を悟られないようにする。幸いサイドゥンには僕の位置は把握されているからあとはあの女にばれさえしなかったらここを離脱できるはず。だが、抱えられた彼女の手が動いた。

「魔術を使うまでもない」

 女は杖を構えたままのサイドゥンに向かって魔眼を解放する。

 だが、彼女には何の変化も訪れない。それどころか逆に何かを失った感覚に陥った。

「言うのが遅れたけど、さっき趣味があると言ったよね。あれは魔眼収集だ」

「っ!まさか、おぬしあの魔眼収集社の」

「おっとそれ以上はいけない。あくまで秘密結社なんだからさ」

 魔眼が一瞬で封じられた女は次の手として詠唱を始めるが、それでいうのであればほとんど詠唱を必要としない力押しの彼女には速さで負ける。

「我が怒りは天の怒り、その悲しみを天より堕ちろ」

「われの魔術を」

「真似れば誰でも使えるもんだよ」

 崩れ落ちたホテルの内部には穴が開いている。空は見えて灰色に染まる。

 揺れた雨雲に降り注ぐ雨粒は、対峙する二人の頬を伝う。

「くそっ、仕方あるまい」

 女が指を鳴らすと、その手には槍が握られる。

 それを回して構えなおして天に向かってその槍を掲げた。

 瞬間光が走り、それとほぼ同時に轟音が響く。

「だが甘いな。われはそれすら自らの力へと昇華させる」

 槍を持った女は距離を詰めながら突く。瓦礫の山を飛び移りながらやってくるのに対してサイドゥンは分かっていたが周りの状況が分からない以上、下手に動けない。

 やるなら反撃するしかない。

「四方印、北」

 槍が彼女の眼前まで迫った瞬間、一瞬遅れた杖の光を以って彼女を強制的に転移させた。

 転移先は僕たちの目の前。サイドゥンは表情が読み取れないが「はっ、はっ」と息が切れて崩れるように座り込む。

「ありがとう、静」

「お互い様ね」

 雪広は起き上がっていて、敗北を喫した相手に向かって睨みつけている。

「あら、起き上がるなんて。随分と頑丈なのね」

「カラ爺に鍛えられてるから当たり前だよ」

「………そんなやつは知らんな」

 そりゃそうだ。遥か海の先にいるおじさんのことなんて知るわけがない。

 だが雪広一人で勝てなかったとしても三人寄れば文殊の知恵。

 もしかしたら勝てるかもしれないという淡い期待を持ちながら家接も短剣を抜く。

「取り乱してごめん。私はほとんど戦力になり得ないから、ちょっと離れたところで砲台になっておくよ」

「それでいい。私たちは見えないかもしれないけど、魔眼なら見えるんでしょ?ならあいつには当てられるってことなんだから、じゃんじゃん撃って。私たちは臨機応変に動くから気にしなくてもいい」

「僕も、先祖返りの状態なら避けるくらいの機動力はあるので安心して下さい」

 さっきのを見る限り、魔術の光線はかなりの威力がある。直撃すればかなりのダメージになるが、気になるのは彼女の持つ魔眼。未だに内容が分からない。サイドゥン自身の魔眼も内容は把握されていないみたいだけど、彼女のはもともと戦闘向きじゃない。ただ単に場所が分かるという代物なだけに一方的に見通せるだけ。

「全く、面白みに欠ける」

 雷を帯びた槍で、一番機動力に長けている家接に向かって攻撃をしかける女。

 咄嗟に感じた気配に短剣に風を帯びさせていなすと家接の体が浮く。

 その瞬間に槍を回転させて突きで彼の体を貫こうとしたが、そこは雪広の四方印で突いたのとは反対の方向に転移する。逆に家接が女の懐に一撃を浴びせる形になって咄嗟に避けるように家接の腹を蹴り飛ばして彼女の服を斬り裂くに至った。

「ダメだ。あと一歩足りない」

 滑る足元に注意しながら立ち上がる。

 この地形自体が彼女に有利だ。さすが彼女が用いている魔術と言ったところ。雷と水の相性は僕たちには不利すぎる。

「転換しろ、コンバート」

 シンプルな詠唱。サイドゥンのそれは天に向かって一本の光を飛ばす。

 それが雲に到達すると、振っていた雨が止み塞がれていた空が晴れて星が見えるようになった。

「ありがとうサイドゥン」

「これくらいお安い御用だよ」

 挟み込む形になった二人の間にいる女。だが彼女の表情に曇りは一切ない。敗北のビジョンが見えていないかのように。

 そして雪広もライフルを抜いた。三面からの体勢に彼女はどう対処するつもりなのか。

 ぽたぽたと水滴の垂れる音。女の目の前に一滴、落ちた。

「迸れ、雷鳴の咆哮」

 槍を地面に突き立てると濡れた地面に雷が走る。それは僕たちの立つ地面にも、もちろん届き二人は跳ぶ。そしてそれをカバーするためにサイドゥンの砲撃が届く。

「魔弾、掃射」

 煌めきは光線となって彼女に襲い掛かる。逃げ場を無くすように家接と雪広はあえて彼女に当たらない位置に銃弾と斬撃を放つ。

「面白みに欠けると、言わなかったか?」

 すべては意味がない。光線が直撃して煙が舞う。

 しかしシルエットの後に現れた彼女には、何一つとして攻撃は通じていなかった。

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