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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
3章 消したい邪心、消えない純心

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慣れ鳴れ

「………」

 カラ爺は彼女が自分から話すまではきかないことにした。傷口を広げてしまいたくなかったし、僕が聞いても意味がないから。

 こうして並んで座っているとなんだか彼女と初めて会った時を思い出す。

 泣き虫だった少女もいつの間にかこんなに大きくなっている。そんな彼女がまた崩れそうになるのを見てカラ爺は少しだけ悲しさを覚えた。笑っていられるように頑張ったんだけどなぁ。

 遂に彼女が尋ねるようにカラ爺に言った。

「今回も私が悪いのかな」

 すがるような、認めて欲しいようなその声に震えた彼女の手を握る。

「僕は何も見ていないから、結果だけじゃどうにも言えないかな」

 それを聞いて彼女は少しづつさっき起きた出来事を言う。結果として彼女の死はその代価として雪広の命を救うことになった。

 きっとあの瞬間、鹿内さんの目には夢原さんが生きているように見えたのかもしれない。とっさに庇おうとしたその体は幽霊の彼女を射殺すに至らずただ雪広を守る盾になったんだ。そしてそれによって幽霊になっていた彼女の願いは何らかの形で叶ったことで成仏していしまった。

 彼女とて立派な魔狩師だ。死と隣り合わせ、もしくはその瞬間に立ち会う場面なら今まで何度もある。ただ今回はタイミングが重なりすぎた。不幸に不幸を重ねた要因が自分自身だと思ってしまうくらいに関わっていた。それはもう当事者からすれば加害者と思ってしまう。

 そんな時ですら、泣かない理由は必要ないのに。

「僕らは先に帰っているよ。ちゃんと落ち着いたら帰っておいで」

 多くは語らなかった。説教も慰めも今したら安っぽい気がしたから。

 それに僕は雪広ちゃんが泣いてるよそでそんなことを語れる余裕なんてきっとない。その涙の分だけ強くなればいいんだよ。

 高架下から離れると、いつの間にか救急車が来ていた。サイレンも鳴らさなかったそれは人を余計に呼び寄せないためにだと思う。二人の男が担架を運びながら階段を降りてくる。

 もうすでに何分も経っていて回復する手立てはほとんどない。何より出血の量で無理だと判断された。彼らは手を合わせて二人がかりで担架に乗せると、そのまま救急車に乗せられて湯本さんになにやら話をして去っていった。

「こんな結果で終わってしまったのは本当に心苦しいですが、その分私たちは彼女の捕まえたあのNo.0の女からいろいろと情報を引き出しますので。また進展したら空咲さんにも共有しますね」

「うん、ありがとう」

「ではこれで失礼します」

 そう言って彼女も川べりから姿を消す。残ったのは、僕とカラ爺だけ。

 終わったという思いよりも、これでほんとに終わりなんだというどうしようもない気持ちが心に残る。

「僕は本当に成長しているのか、時々不安になるんです」

 言葉が漏れた。それはただ自分の心で純粋に感じたことで、今回の件に対してじゃなくてただ俯瞰的に見てカラ爺からしたら僕はどういう風に見えているんだろうと思っただけで。だから本人を目の前にそんなことを考えてしまったのが間違えなのかなと口にしてしまってから後悔した。

「別に、そんなことはない。君はよくやってくれてるよ」

 それは求めていた答えではなかった。彼から開かれたその言葉にどれほどの善意が含まれているのかは分からないけれど、真意ではないのは明らかだった。だからこそ悲しくもあり、嬉しくもあった。その優しさはどこから出てくるのか。僕には分からない。

「一夜明かせば、また変わるさ。僕らはこれからも魔狩を続けないといけないんだから」


 その言葉通り、次の朝。

 朝と言ってもいいのか分からないその時間帯に目を覚ました家接が居間に向かうとそこにはいつも通りの雪広がアイスを食べていた。

「え、雪広さん?」

「ねえ!敬語やめろって言ったよね。何回その段階に戻るの?」

「あ、あぁ間違えた雪広。おはよう」

「お・は・よ・う!」

 すっかり元通りになってしまった彼女に驚きながらも、見ると彼女の手にはすでに次の仕事を探すための運び屋の情報を漁っている。

 顔を洗って歯を磨き、取り置きされている朝食を食べ終わると着替えて居間に再び向かった。するとちょうど外から帰ってきたであろうカラ爺がなにやら嬉しそうに僕たちの向かいに座った。

「良い話と悪い話、どっちから聞きたい?」

 典型的な言い回し。僕は雪広と顔を合わせると僕から言えという圧を感じたのでカラ爺を見て選ぶ。

「じゃあ、悪い話から」

「そっちから選ぶのか。下げて上げるタイプは珍しいね」

 雪広を見ると「そっち?」と言った顔をされた。これって間違いとかないんじゃないの?

「まぁいいや。じゃあ悪い話からね。魔狩師協会から通達を受けて、僕たちの運び屋を管理する管轄が無くなりました。理由としては目に余る規則外の活動によるものが大きいみたい」

 挙げられた内容の前半はほとんど僕の先祖返りの力を制御できていない時のはなしで、後半は前回の地縛霊の少女の件。勝手に公安と手を組んで魔狩を行うなど許されないらしい。それはカラ爺の申告抜けのせいでは?とも思ったけど前半の件は純粋に不安因子を手元に置いたままにしておいてよいのかという疑問の分。あとは全体的に記憶処理が多すぎて費用が管轄に対して使いすぎているとのこと。

 つまりは規模が大きすぎたのだ。特に今回は都市での攻防もあったため人目に付く量も多かった。その分記憶改竄の処理を一般人には行うため大変なのだとカラ爺が懇切丁寧に教えてくれた。それには当の本人も耳にタコができるくらい言われて疲れたらしい。

「それでもう一つだけど」

 やっと良い話は聞けると思って顔を上げると、彼の手には謎のチケットが三枚。

「僕らは晴れて魔狩師協会の派遣部の所属になりました~」

 一人で盛り上がっているがなんのことかさっぱり分からない二人は頭の中がはてなで埋め尽くされている。

「なんですかそれ」

「簡単に言えば、何でも屋かな。もちろん魔狩がメインだけどその他の仕事も押し付けられる時がある。と言っても基本自由にしていいから今とはあんまり変わらないかな。強いて言うならここら辺は全部蝋火会の管轄だからすぐに手を出しちゃいけなくなったけど、代わりにどこにでもお助けという形で手を出せるようになったんだって」

 聞いていると新設された部署らしくて、カラ爺も資料を読みながら説明している。

 だけどカラ爺は肝心なことを説明していない。

「じゃあそのチケットはなに?」

 すかさず雪広が言うとカラ爺はあえて言っていなかった。待ってましたとでも言わんばかりに前のめりになってそのチケットを二人に渡す。

「さっきの話でその他の仕事も押し付けられるって言われてたでしょ?ある箱を、ある人に届けるために僕たちはフェリーに乗って海外に行くんです」

「楽しそうじゃん。それっていつ?」

「明後日です」

「うそっ、早すぎ!」

 雪広は慌てて自分の部屋に走って行って準備を始める。

 僕はそんな彼女を見て微笑ましく感じた。

 いつもの雪広に戻ってくれてよかった。僕はやっぱりしたを向いているよりも、前を向いて楽しくしてる彼女が好きだから。

 燻ぶったその思い出をいつか飲み込めるように。

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