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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
3章 消したい邪心、消えない純心

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彼女の望んだもの

 その攻撃は彼女の左肩を破壊する。

 痛みに持っていた銃を落として距離を置こうと離れる。それでも痛みには耐え切れないようで、だらりと垂れ下がった左腕を抑えながら息も荒く湯本を睨みつけた。

「絶対に許さない」

 腰から抜いた銀ナイフを投げるが、すべて明後日の方向に飛んで行って湯本には届かない。

 それが魔法陣を描くのは見え見えだというように彼女はその一本を蹴り上げる。それと同時に隙を狙ったかのようなナイフの攻撃が湯本に迫ると右拳で粉砕した。

 違う、ブラフ?

「家接君、下がって」

 彼女が言う前に術式は発動した。

 だがこのパターンは家接も知っている。術式の外にすでに出ていたため、その魔術は発動条件を満たしていなかったのか不発に終わる。いったんの手札を切った彼女は再び手札を配りなおすために口ずさむ。

「換われ、アーモリー」

 すると地面に刺さった銀ナイフも、使い終わったロケットランチャーや彼女が手放した武器がその場から消える。そして彼女のベルトには新たに武器が補充され、その手には手榴弾が握られていた。

「ここじゃ分が悪いから、場所を変えるよ」

 彼女はそのピンを抜くとこちらに向かって投げる。湯本は地面に転がされたそれを拾っている時間は無いと踏んで家接を抱えたままマンションを飛び降りた。直後、背後で爆発が起きて一瞬雨音が消える。思い出したように降り出した雨と巻き起こった煙で彼女の位置を完全に見失った。

「まだ魔力を追える。立てますか?行きましょう」

 雨の中での爆発、外に見ている人があまりいなかったことがあって随分と動きやすかった。

 ほとんど同じタイミングで屋上から脱出していたので彼女の場所はすぐにつかめる。雨の中余計に音を立てている方。車が走ってなかったので余計に響いた。

「纏、風の器」

 彼女の背後が見えた。湯本は両手を合わせると右手を振るう。風を纏ったその拳が空気を押し出すようにして空砲が放たれる。

 雨風を切って逃げる少女の左肩を追い打ちするように直撃する。ただでさえ痛みにこらえていた彼女は転がりながら水たまりに沈んだ。顔をあげる少女がこちらを見るとまるで涙を流しているように見えて一瞬気持ちが揺らぐ。それを制止するように湯本が言った。

「情を持ってはいけませんよ。私たちは相容れない存在なんですから」

「……分かってます」

 家接は短剣を引き抜くと炎を纏わせる。雨の中湯本が近づく足音がぴちゃぴちゃと反響した。

 そんな静かな場だからこそ、大きな音は全員の意識を一瞬逸らす。家接の携帯がけたたましく鳴り響いた。携帯を止めようと出すとそれは雪広からだった。

 なんだろうと電話に出ると、とても焦った様子で家接に訴えた。

「そっちに彼女が、鹿内さんが向かってる。とにかく戦いからは遠ざけるようにして!」

 随分と差し迫った様子なので分かったと言って電話を切る。少女はそれを隙だと思って倒れていた体を懸命に起こして走り出す。どうして前回のようにあの男が助けにこないんだろう。このまま彼女が走っても逃げ切れるとは到底思えない。

 遂には川沿いまでやってきて彼女は堤防をのぼる。わざわざ開けた場所に彼女は出たのに疑問を感じながら二人で挟みこむ。これでもう彼女は逃げることはできなくなった。雪広に言われた通り、周りを確認するが鹿内さんの姿はない。

「これで私の任務は終わる」

 任務が終わる?彼女たちの目的は夢原さんを連れていくことなんじゃ。周りを改めて見ても誰の姿もない。はったり、気を逸らすためか。

 だが彼女がアクションを起こす様子はない。どちらも詰めてこないこの膠着状態が狙いか。

 雨が止む。それは何かの前触れのようで、曇天の空は雨を溜めこむ。

「来た」

 彼女の視線の先。家接と湯本は同時にそちらを向く。雨で増水した川べりを歩く人影が突然現れる。

 見知った少女。何か思い悩んだように見える彼女は夢原さんだ。

 少女は左腕の痛みを忘れたかのように堤防を駆け下りていく。同時に見たこともない銃を取り出す。それはスナイパーのような形だが、前回まで彼女が使用していたのとは異なる。

「記憶を止めて、体を留める。我が御心に従いて其の魂を繋ぎ留めろ」

 気づいて振り返ったころにはもう遅い。その弾丸は彼女の存在しないはずの心の臓を貫いた。

 その場に倒れ込む夢原。絶対にたどり着かせまいと家接は短剣を振るって少女の体勢を崩し、それに合わせて湯本は拳を構えて襲い掛かる。少女はノールックでマントの下から銃を放った。閃光が周囲一帯を照らし尽くして二人が目を瞑っている隙に体勢を立て直した彼女が夢原のところまで追いついて手を伸ばす。

「させるわけ無いでしょ」

 その声は。

「雪広!」

 魔力の反応でこっちに転移していたのか。彼女の隣に転移先が用意されていて夢原は彼女の手に触れることなく済む。

 明確に舌打ちをした少女は、最後の博打に出たのだ。これで決めきれなかったのは彼女としてはとても手痛い。倒れた彼女に雪広が寄り添うが目覚める気配がない。さっきの弾丸に意味があるのだろうか。

「残念だけど、すでにその子は私の手中だよ」

 そう言うが彼女に変化はなく倒れてから起き上がることがない。必死に雪広がゆすってもその結果が変わらないのを見てさっきの弾丸に意味から推察する。彼女の言っていることは今度こそ張ったりじゃないんだろうな。

「なら、僕があなたを倒します」

 躊躇、というものが心のどこかにあった。

 それを越えてはいけないものがあると思って。人の死に耐えられるような強靭な精神を持ち合わせているわけでも、それを守り切ることのできる屈強な体躯を身に着けているわけでもなかった。

 だからこそもしかしたら、その一線を目にしてしまったことでズレてしまったんだと思う。

 自分の心がそれを無理矢理修正するために、倫理を無くした。

「他には用はない」

 狙撃銃が出現して構える。その瞬間、立ち上がった夢原を追うように雪広が立つ。射線が重なった。

 隣からはすでに湯本が接近している。このまま彼女がやられるのは明白。それならば最後に置手紙を残してやればいい。あとは彼がどうにかしてくれるから。

 発射した弾丸は夢原と雪広が重なった位置だが、どちらも貫通したとして死ぬのは雪広のみ。

 避ける間もない。魔術を発動させる猶予は彼女に残されていなかった。

 その前に飛び込む影さえなければ。

「パンッ!」

 人が倒れる音がした。手の止まった家接は振り返る。

 そのまま転がる様に堤防を倒れた少女は地に落ちていく。意識のなかった夢原は生き返ったかのように目を開けて、起こった光景を目の当たりにした。

「うそっ」

 走って彼女のもとに向かう。倒れたその少女のもとで彼女を起こそうとするも、彼女のからだはすでに半透明になっていてうまく抱き起せない。

「どうして、ねえ起きてよ真昼!」

「…………ごめん」

 最後に花菜の手を握って、彼女は静かに目を閉じた。

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