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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
3章 消したい邪心、消えない純心

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境の向こう側

 その意味をカラ爺が伝えたことを知ることになるのは、その後の結末を知っていたからなのかどうかは分からない。だけど一つ言えることは彼がそれを彼女に伝えなければそこへは絶対にたどり着かなかったと思うということ。それはいい意味でも悪い意味でもなく、誰一人として彼を責めることはできない。

 なぜなら、最善の選択は気づかないうちに踏み荒らされていたから。


「信じているわけじゃないですけど、まさか幽霊になって花菜が出てきたなんて言いませんよね?」

 その言葉にはどこか不安が入り混じっている。てっきり彼女に会えると喜ぶのかと思ったけれど普通に考えればやっぱり恐怖の方が勝つものなのかな。

 彼は運転を続けたまま、調子を変えずに続ける。

「そういうことになるね。別に隠すことでもないから言うけど、僕たちの仕事っていうのは幽霊とか悪魔とかそういうのを相手にする仕事なんだよ」

 カラ爺もこれが禁則事項に触れているのは重々承知の上だった。だけど、どうしても彼女に逃げられるわけにはいかない。これ以上彼女を成仏させるのに時間をかけることはできないのだ。

 今度こそ彼女は成仏される前に彼らに奪われてしまうかもしれないから。

「信じなかったとしても百聞は一見に如かず。その目で全てを決めればいい」

 車を降りる。そこは、何でもないような小さな公園。魔力すら感じないここにどうして彼が降りたのか。

 疑問に思いながら降りる家接や雪広とは異なって、鹿内はどうしてここなんだと違う意味の疑問をカラ爺に投げかける。

「どうしてここを知っているんですか?」

 カラ爺はそれを聞いていたずらに返す。

「どうしてだと思う?」

「……帰ります」

「ちょ、ちょっと待って。嘘だよ。悪いとは思ったけど、君の心を読んだんだ」

 踵を返していた彼女の足が止まる。その表情は明確に今までとは異なっている。引き攣ったその顔には焦りどころか、まるで死んでしまいそうなくらいに青白くなっていた。

 からくりを言えば、カラ爺は酒花から妖の力を一回分借りたのだ。覚のさとりを札に閉じ込めることで札を使って一度だけその力を使えるようにする。彼の持つ妖で一番有用性があると言ってもいい。本体には遠く及ばないが、視線を合わせるだけで相手の心を読めるというのはどちらにせよ今の状況では有効打が過ぎた。

「どこまで、読んだんですか」

 それを言ってしまえば彼女が返ってしまうことは分かっていても正直に言ってしまうのがカラ爺の性分だった。

「躓いたところまでかな」

 それから鹿内は全てを受け入れらかのように黙ってカラ爺に従っていた。魂の抜けたようなその黒瞳は絶望だけを見ている。

 カラ爺としては、彼女がいてくれればきっと出てくると踏んでいた。けれどまだその姿は見えない。

 夕日が暮れかけた時だった。三人は待ちくたびれてそろそろ付き合わせてしまった鹿内さんにも悪いと思い解散しようと立ち上がったところで今日初めて魔力の出現を感じ取った。

「来た」

 魔力はゆっくりとこちらに向かってきている。ガラスの瓶にも異常は見られない。ということはきっとその魔力は夢中さんのものだ。

 木の茂みから降りてくるように出てきた少女は地に足を付けず、ブランコを持ってゆらゆらと悲しそうに下を向きながら漕ぎ始めた。どうやらこちらには気づいていないのか。

「え、花菜?……本当に?」

 ブランコの音がして顔を上げた鹿内は、ブランコを漕いでいるその子の姿を見た途端に声を震わせながらベンチから立ち上がった。ゆっくりと近づいた彼女に夢原が気が付いたのはゆっくりと漕いでいた正面から受け止められたから。

 突然抱き寄せられた夢原は何が何だか分からないまま困惑している。

 顔を埋めた鹿内が顔を上げると、その涙で濡れた顔に笑顔を向けた。

「久しぶり、真昼」

「ごめん。ホントにごめん」

 とにかく彼女はその涙が枯れるまで泣き続けた。

 夢中はなだめようとその手を伸ばしかけて止めたが、ゆっくりと頭を撫でると彼女の髪が揺れるのを見て優しくさする。

 落ち着いてきて鹿内さんは涙をハンカチで拭く。それを黙って見ていた三人に顔を合わせるのが急に恥ずかしくなってきて夢中の後ろに隠れようとするが彼女の体は半透明なので隠れられない。

「死因がそんなことだったとは思いもよらなかったですよ」

 カラ爺が彼女らに言うと、夢原は嫌な顔一つせずに笑って流すように言う。

「そんなのは別にいいんですよ。あれは事故です。真昼がそんなことをわざとするはずがないもの。死んでもそこだけはきっと変わらないよ、ね?」

「うん。今でも親友だよ」

 死んでしまった彼女にそう言われたら、もはや憂いていることが申し訳ないことなんだと彼女の暗かった表情は明るくなった。

 それでようやくカラ爺が種明かしをした。

 彼女の事故の原因は躓いてしまったこと、鹿内さんが。

 駅で見つけた鹿内さんは夢原さんを見つけて声を掛けようとした。その時に躓いてしまい、ホームの黄色い線に立っていた彼女を押してしまう。倒れた彼女がそのまま轢かれてしまったというのが事故の真相だった。

「だから彼女はカラ爺に指摘されてからずっと怯えていたのね」

 合点がいっている彼女の背後では、まるで当時を懐かしむかのように話で盛り上がっている二人がいる。これですべて解決していると誰もが思っていた。

 日が暮れて夜、二人の盛り上がっていた話にもいったんの終わりが迎える。

「もう十分話をすることはできたかな?」

「はい。もう話したい事は話せました」

「…………。」

 鹿内の返事は明るいものだったのに対して、夢原の返事はない。

 どうしたの、と隣にいた鹿内が彼女の様子を伺うがそれでも言葉を発さない。

 やがて彼女は静かに言葉を紡ぎ始めた。

「私、まだ満足できていないみたいなの。でもどうしてか分からなくて。真昼に会って話したい事を話したらもう未練はなくなると思ってたのに、どうしてなんだろう」

 ぽろぽろと溢れる彼女の涙は、落ちても落ちても地面を濡らさない。

 そして地縛霊の成仏の条件はたった一つ。その霊が生前最もやり残したことをやること。

 彼女の本当に遂げたい願いとは、自責の念に駆られている鹿内の誤解を解くことじゃなかったということ。だとするのなら、彼女が本当に遂げたい願いとはなんなんだろう。

 自分にも分からないその願いに気づくことができるのは一体誰だ。考えても答えは出てこない。

「もう時間だね。また明日ここに集合しよう。君だけじゃなく、僕たちも君が無事に成仏できることを望んでいるよ」

 そんなきれいごとを並べても何も解決はしないと分かっていてもそうするほかに選択肢が浮かばなかった。未来の自分ならきっともっといい考えが浮かぶはず。

 ことを後回しにするのが嫌いなカラ爺でもそれを選んでしまった。

 できるだけ後ろ向きに物事を考えないようにするために。

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