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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
3章 消したい邪心、消えない純心

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待てど暮らせど

 公安の部所に戻ってきたときには、全員がどこかしらを負傷していた。

 特に湯本さんの左肩に追った銃弾を受けた場所は重症で、むしろ警察によく戻ってこられたと言えるくらいひどくそのまま救急車に運ばれて入院することになった。

 男の話によると幸い命に別状はなく、そのまま安静にしていれば完治するとのことだった。

「そういうこともある。彼女もそれを分かって現場にいたんだ。お前たちが気にすることじゃないよ」

 そう男は言いながら僕の肩を叩くと、扉の向こう側で仲間たちと再び作業に取り掛かっている。警察ではそんなこと当たり前なのか、それとも男が仕事と私情を割り切ることができるからなのか、家接にはすぐに気持ちを切り替えることはできない。

 奥の部屋で話をしていた雪広とカラ爺が戻ってくる。僕と湯本さんがあったのは以前から確認していたスナイパーの方。だけど二人が戦って、僕が最後に彼女を取り逃がすときに会ったあの男は公安にも情報としてなかったので詳しいは話を離していた。

「彼女のことは残念だった、けど気にしないことだ。明日は我が身。そういうのが付きまとう世界だというのは君も十分理解しているはずだ」

「そうですね。引き摺っていたら、彼らを倒すどころか地縛霊の人すら助けれられないですもんね」

 今の状況と言うのは、夢原さんを探す良い期間なのは間違いない。

 こちらは湯本さんが大けがを負ったが、相手もスナイパーがかなりの火傷を負った。怪我をしたのが男の方ではないのに意味がある。スナイパーがいないということは、少なくとも意識外からの攻撃はないということ。前回夢原さんを探しに行ったのとは状況そのものが異なっていた。

「ちゃんと男の方の瓶も作ってもらったわけだし、邪魔が入らないうちに仕事を終わらせよう」

 そういえば、雪広はどこに行ったんだろう。周りを見てもいない。

 すると奥からだいぶ疲れた様子の雪広が出てくる。10秒でカロリーを摂取できるやつをほとんど飲み干して元気を取り戻そうとしていた。

「どうしたの、そんなにやつれて?」

「どうしたもこうしたもないよ。ただ、ちょっと魔力使いすぎたからその分補給してるの。きみはいいね、魔力をたくさん持ってて」

 そんな調子の彼女も一緒に行くのかと心配になったが、休むように言うと「私を置いていくの?」と縋るような声で言われたので断れなかった。

「どっちにしても、雪広ちゃんは無理しちゃだめだからね」

「分かってる。もう無理はしない」

 事故が起こったであろう駅に着いて三人は降りる。今日はちょうどその事件が起こってから5年だ。

 改札を通って駅のホームに向かう。まばらな人の中で、一人花束を持った人がいたのが目に入る。その人はそのままホームの黄色の線の前に立つと花束を置いた。

 ゆっくりと膝をついて手を合わせる少女に、誰も見向きはしない。彼女に興味もなければその行動の意味すら彼らは知らないのだから。二人もそれに気が付いて不用意に近づくことはしない。

 しばらく手を合わせていたが、ホームに電車が入ってくるアナウンスが聞こえてくると彼女は花束を持って立ち上がり改札に向い始めた。彼女を追いかけて駅を出てから僕は彼女に声を掛けた。

「あの、少しいいですか?」

「……はい?」

 そう言って振り返った彼女は泣いていた。慌ててハンカチで涙を拭く彼女は、その花束を握りしめて答える。

「すみません。私に何か用ですか?」

 後ろに二人もいることからそれがただごとではないことはきっと彼女自身も理解している。だから僕は努めて丁寧にあの場所で手を合わせていた理由を聞いた。

「そう、ですね。こんなところもなんなんでどこかでお茶でも飲みながらにしませんか」

「分かりました、いいですよねカラ爺?……あれ、どこに行ったの?」

「忘れ物みたいだから先に行きましょう」

 雪広がそのまま彼女と一緒に近場のカフェに入ってしまう。携帯を見ると「ごめんね」という絵文字付きの謝罪文が送られていた。彼女に気を遣ったのかな。

「ほら、行くよ家接くん」

「ごめんすぐ行く」

 遅れて店内に入った。

 水を持ってきてくれた女性の店員は、三人の構図にとても気まずそうにしてすぐにその場を離れていった。目が赤くはれている人がいて男1女2の人数比は冷静に考えるとやばい。今からでもカラ爺を呼ぶべきなんじゃないかと思うほどだ。

「お二人は、五年前にあった事故のことをご存じですか?」

「うん。そのことを調べるためにあの駅を訪れたんだ」

「私は事故で亡くなった夢原さんの友達でした」

 話を聞いていくうちに、二人は友達以上の関係だと知ることになる。

 幼稚園の時に出会った二人はそのまま小学校、中学、高校、そして大学に至るまでずっと同じ道を進んでいた。仲が悪くなるはずなんてなくてむしろ互いにいないと生きていけないくらいに好きだった。

「今でも彼女のことを忘れた日は一日としてないし、夢に何度も出てきます。私と花菜は大学生の頃は一緒に暮らしていたんですよ」

 あの部屋にはもう一人住人がいたのか。この子との繋がりに縛られてきっと彼女は地縛霊になったんだ。思いが強すぎるがゆえに、その気持ちは死んでもなお途切れることはない。

「だから私は逃げたんです。あの部屋にもう一度入ったら彼女が消えてしまう気がして。もう死んでいるのにおかしな話ですよね?」

 続いた沈黙に耐え切れなくなったのか、雪広は店員さんを呼んでそれぞれ飲み物を頼んだ。

 飲み物が来るまでのあいだ雪広は意を決して言うことにした。

「それなら、今から行きませんか。もしかしたら夢原さんはずっと家で待っているのかもしれないですよ」

 雪広の言葉に目を見張る彼女。勇気を振り絞るきっかけを手繰り寄せようと提案したそれに彼女は二つ返事で決める気持ちの整理はついていない。だけど、

「そうですね。このままずっと蓋をしていてもどうにもなりませんよね。ちょうど今日は花菜の命日です。花を渡しに行きましょう」

 席を立って会計を済ませる。なぜかさっきよりも全員の顔が明るいのを不穏に思う店員を置いて三人は店を出た。

「そういえば名前言ってなかったですね。僕は家接孝也。それでこっちが」

「雪広静。よろしく」

「私は鹿内真昼です。よろしくお願いします」

 互いに挨拶を済ませたところで、目の前の歩道に寄せて止めた車が一台。そこから和装の男が出てきてこちらに近づいてきた。

「話はうまくまとまったかな?」

「まぁぼちぼちね」

「なら良いんだ。僕は空咲譲、よろしくね。ところで今から車でアパートまで連れていくけどいいかな?」

 挨拶もそのままに、車に乗ってもらい運転する。道中でいろいろと話はしたのでだいたいのことはカラ爺にも伝わる。だからまさか彼がそのことについて触れるとは家接も雪広も思っていなかった。

「ところで、鹿内さんは幽霊というものを信じているかい?」

 バックミラーで彼女を見つめながら運び屋のことについて彼女に話そうとしていた。

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