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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
2章 神出鬼没の発条人形

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我楽多に成り果てるまで

 13の刀捌きは家接が思っていた以上に繊細でしなやかなものだった。敵の剣を使う方の発条人形が大振りに振り上げた瞬間にはその長い刀のリーチを生かして腰を目がけて振るい、逆に相手が反撃の構えを見せて攻撃を待っている時には13は距離を詰めずに逆に待ちの姿勢を取る。


「そんなに持久戦をお望みですか」


「……………」


 当然だが発条の人形には意思を伝達する器官がないため言葉を発することはない。だがその代わりに発条人形はその意思を行動ではっきりと示した。後ろの盾を操る発条人形が剣の方の動きに合わせながら的確に追尾が行われているように空中に浮きながら攻撃を防ぐために纏わりついている。


「錬炎、送り火と為りて守り給え」


 地面を辿って導火線のように放たれた火は13を囲むようにして炎が広がると、そこから空中に分散して発条人形に纏わりつく盾を射抜くように放たれた。燃え尽きて灰になったそれを投げ捨てるようにして背後の盾の発条人形は新たな盾を生成して周囲に展開させた。


「ありがとう」


「大丈夫。それよりも前っ!」


 すでにこちらに降りかかっていた攻撃を間一髪で避けた13はそのまま低い体勢のまま長刀を振るう。相手の足元を狙ったその攻撃に発条人形は防ぐよりも回避を優先するが、その一瞬を家接は逃さなかった。


「万象を拓く。風纏いて錬炎、彼の者を燃やし斬れ」


 風の刃は地面と垂直に浮いた駒を潰しにかかる。炎を纏いながら斬り裂くその攻撃は、盾の防御は間に合うがそれを燃やし尽くして剣の人形本体を攻撃した。斜め十字に斬り裂さかれた人形はその場で崩れ落ち、背後にいた人形もそれを瞬時に判断して攻防を入れ替えた。


「やっぱり再生するんだ」


「どうする?このままだとキリがないけど」


 発条が回る音が響くその崩れた本体を小さな盾で背後に投げつける盾の人形。盾はその数をさらに増やして全方位に展開される。発条を破壊しないといけないのにそれを阻止するように片方が破壊されると片方が再生の時間を稼ぐ。


「片方を無視して発条を破壊する?」


「でもそれだと片方を抑えないといけないけど」


「それなら私に任せて。少しだけ盾の方抑えといてくれる?あっちが邪魔だから」


「分かった」


 13が再び剣の人形の方に走っていく。もちろんそれをスルーするわけない盾の人形は小さな盾を走る彼女の方に向かって追尾させた。彼女は最初の数発を躱しながら人形に近づく。


「それ以上、追撃させないよ」


 執拗に追尾する残りの盾を家接は風の斬撃で撃ち落とす。炎を纏わせなかったのは時間稼ぎにはこっちのほうが良いと思ったから。盾の人形本体にも何度か斬撃を送り込むことで13への追撃に意識を割かせないようにしたつもりだったが、相手は人形。そこらへんはちゃんと並立思考ができるらしい。


「ダメか」


 人形への攻撃をやめて盾の攻撃を防ぐのに集中する。だが人形に攻撃したのがあだになって相手は13への追撃をしながらこちらにも攻撃をするようになってきた。


「最悪、だっ!」


 走りながらそれを避けてとにかく彼女に攻撃させないようにする。


 なんとか剣の人形のもとまでたどり着いた彼女は長刀で自分の指を切る。さっき大量に血を失ったからもうあまり使えないけど、一度くらいならどうにかなる。一瞬視界が乱れたが気を保って自分の陰にその指で一文字を引く。


「我が裏命は我が手足。現れよ、転陽臨みし影法師」


 血を得た影法師が現れる。その姿形は13そのもの。違うことがあるとすればそれは影の色を纏って黒く塗りつぶされていること。長刀を影から引き抜いて立ち上がった。


「よろしくね、もう一人の私」


 二人はハイタッチして13はその場を離れる。彼女の足元には影がなく影法師にも影は無い。


 再生が済んだ剣の人形は目の前の敵意ある存在に剣を振るった。


「このっ、めんどくさい!」


 盾の人形はもう剣の人形を守ることを止めて完全に家接に標的を定めた。空中に浮いていた盾はさらに

 小さく分かれてもはやそれは盾と呼べるのか分からないところまで細かくなって彼を襲う。破片になったそれはもうガラスが飛んできているのと変わらなくて、初撃でいくつかの場所を切って血を流す。


「大丈夫?」


 戻ってきた13は傷づいた彼を見てすぐに自身の袖を破いて傷の場所を巻いた。


「ありがとう」


「いいよ。それより、今は私の魔術でもう一人を抑えてるから今のうちにあいつをやっちゃおう」


「そうしよう。これ以上は時間をかけられない」


 三体も相手をしている雪広のことを考えたら。


 三体を相手にすることになった雪広はかなりの窮地に立たされていた。


「これは、無理じゃない?」


 二体の人形をシャッターに閉じ込めることに成功した雪広だが、残りの一体によって完全にじり貧に追い込まれている。


「弱そうなとこばっかりついてきてほんとにいやらしいね、お前」


 二体の人形は閉じ込めた隔絶された空間の壁を一点に狙って止まない攻撃をし続けている。ただでさえ魔力を消費し続けているのにその攻撃のせいで余計に魔力を取られる。なのに加えて、取りこぼした一体は私の視線を完全に警戒しまくってシャッターに収まらない。そして隙あらば遠隔攻撃で二体の人形を閉じ込めてる魔術を解除しようとしてくる。


「くそったれだよほんとに」


 このまま押さえつけるのはあんまりよくないね。雪広は視線に被らないようにしている人形を無視して閉じ込めた二体の人形が一直線になる場所に向かって走る。


「ここだ」


 そう、そうすれば自然とやつも射線上に乗るんだから。


「八方印、北東」


 両手を合わせて逆に動かす。


「くびきれ」


 三体同時にその胴体が捻じれるように千切れて破壊される。同時に魔術が途切れて残骸が地面に落ちる音がした。あっけないなと思いながら、急に魔力を使いすぎたこと反省する。体の節々が疲労で悲鳴を上げていた。


「家接のとこに行かないと」


 彼は大丈夫だろうか。心配ですぐにその場を離れようとする。


 発条の動く音が、彼女のもとでも響く。


 それは再生の負の音。


「それありなんだ」


 呆れ交じりに漏れた声はもはや笑うしかない。


「失敗したなぁ」


 それなら破壊するべきじゃなかった。もう半分以上魔力を使っちゃったし今からまた閉じ込めたらそれこそじり貧だ。


「しょうがない、耐えるか。四方印、東西」


 シャッターを斬って三体を捉える。そのうちの二体が先に再生が終わったが、さっきみたいに攻撃をしかけてこない。なぜか互いを見つめ合うようにして固まっている。


「何する気?」


 しばらくその様子を見ていると、片方がまるで操作されなくなった人形のように崩れ落ちる。それに呼応してもう片方の人形が動き出した。腕を空間の壁に当てると、そこに幾重にも重ねた魔法陣を築いていく。


「それはヤバそう」


 念のためにともう一重にシャッターを斬って対策を取ったが、魔術が起動してすぐにそれは意味がないと悟った。


「そりゃあ、封印されるよ」


 空間の断裂を衝撃波でいとも簡単に破壊してしまった。こうも立て続けに四方印の魔術が破られると、さすがに自信がなくなる。


「一応空間系の魔術なんだけどな」


 さっきまで殴って対抗していた人形が急に空間に干渉してきた。人形の右手は空間の歪みに伸ばされている。次の瞬間、再生途中の人形を閉じ込めた空間が破壊されてしまった。


「時間稼ぎ、頑張ろうかな。四方印、南」


 これは一人では勝てない。人形たちの叛逆が始まる。

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