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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
2章 神出鬼没の発条人形

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望まない願い

 一つ、情報を整理したときに事前に得ていたものと差異が生じていると感じる部分があった。まず雪広と家接はこの島に悪魔の封印が解かれたということで赴くことになった。しかし実際に訪れてみれば悪魔の封印は解かれておらず、さらに封印が解かれてしまった時のための対策まで用意されている状況だった。


 ここまで完璧な状態になっているのなら、どうして二人はここに来ることになったのか。さらに元を辿るのであれば、なぜ蝋火会にそのような要請が魔狩師協会から下ったのか。


「そうだ、もう一つ気になることがあったんだ」


 雪広を連れて外に出た家接は、作業中の少女に声をかける。彼女はすぐに作業を中断すると荷物を降ろして家接の話に耳を傾けた。


「どうかしましたか?」


「はい。一つ聞きたいんですけど、あなたたちの言っている主という人はもう亡くなっているんだよね。それなら、どこにお墓があるのか教えてもらうことはできないかな? 僕たちはその人に挨拶したいんだよ」


 しかし彼女は質問の意味を理解しているはずなのに、すぐに返事をすることはなかった。さらにしばらくしてから出た答えは「知らない」というもの。だけどさっき13が言っていた話ではこの島に封じられている絡繰りはその主という人が封印を維持していることでどうにかなっていたと言っていた。


 知らないなんてそんなことありえるのだろうか? 家接は他にも作業をしている人に聞いて回ってみたが返ってくる答えは変わらない。誰一人として彼の墓どころか死んだ姿を拝んだ人すらいないとのことだった。これは一体どうなっているんだ。


「全部嘘ってこと?」


 二人になって雪広は我慢できずに声を出す。13の目的が何なのかが不明瞭なのに、主と呼ばれる人の行方も分からないなんて。新たに分からない要素が出てきてこれじゃ事態の収拾なんてつけられようもない。


 やはり家に戻るしかないのか。未だにちゃんと情報を手に入れることができたのはあの二階しかない。13から拒絶にあっている限り、一番の最初の目的である封印された絡繰りに手を出すことは叶わない。どう思い再び家に戻った二人は二階に向かうともう一度くまなく部屋の中を調べる。


 しばらくして疲れ切った二人は中央にある円卓に備えられた椅子に座った。これだけ調べておいて、分かったのは何も分からなかったということだけ。これで万策は尽きた。せめて13の目的だけでも分かればどうにかなるかもしれないのに。


「カラ爺に連絡するしかないのかな…………。でも迷惑かけたくないし、どうしようかなぁ」


 雪広が悩みながら階段を降りるとベッドに寝転がって天井を仰いだ。もう手は一つしかないのは分かってはいるけれど、二人ともそれを簡単に選べる気概はない。時間稼ぎの結果として二人が選んだのは、家を出るということだった。


 もちろん最初は目的も無く歩き回っているだけだったが、結局は洞窟の前に着いていてその扉を叩く心づもりを整える。だが、足が自然とここに向かっていた時点で心づもりはとうにできていた。


「今度は家接くんも全力を出してよ。私が壁を破壊した瞬間に君の魔術で中を熱して。手加減はしなくていいから、どうせ機械なんだから壊れることなんてないだろうし。もし、何かあっても機械なら直る。私たちは治せないことだってあるんだから」


 雪広は崩壊して完全に塞がれてしまった壁をもう一度通れるようにするために破壊を試みる。空間を斬り裂いた瞬間にそれを飛ばすと土煙と共に道が見えてくる。その中を通ろうと家接が先陣を切ると、砂煙の奥でギラリと輝いて光るものが見えて反射的に洞窟から離れる。13は誰かがここに来るのを最初から察知していたようで、長刀を持ってこちらに向かって振りかぶってくる。


 残念なことに前回派手に振り回して感覚を身につけたからなのか、長刀を派手に振り回しているがそれは周りの岩にぶつかることはない。的確にこちらを狙ったまま13は後ろにあるものに近づけないように僕たちの前に立ちはだかった。


「僕たち分かったんですよ。あなたがそこまでしてこの場所を守る理由が」


「分かるわけがない。私は何も貴方達に伝えていないんだから」


 彼女は長刀を降ろし続けながら答える。やっぱり彼女の目には敵意が剥がれることはない。彼女の長刀に対抗するために持ってきた短剣だが、あまりのリーチの差に家接は心許ないなと感じつつなんとか攻撃に対処できているが今だ洞窟の外側に追いやられている。雪広もまた彼女を四方印で閉じ込めようとするも動きが大振りな事もあってなかなか視界に収めることができない。


「もし分かるのなら、今すぐ言ってみてください」


「あなたの言う、主がそこにいるんじゃないですか」


 上から押さえつけるような刀の重圧に耐えながら家接は答えた。明らかに鈍った剣を感じた家接はそのまま長刀をいなして避けると彼女の懐に入り込んだ。もちろん13も振り上げようとするも機械と言えど振り上げるのには十分に隙ができる。家接は持っていた短剣を彼女の首に突き立てた。


 だが彼女の戦意はその程度で止まるものではないのだと遅れて気がついた。カランッ、と長刀が手から離れる音がして見ると13の掌からは血のように赤い液体が滴り落ちている。


「何をしてるの? 家接も、離れて!」


 雪広がすぐに彼女をシャッターで斬り取るが、すでに垂れた液体は予め地面に刻んで用意してあった魔法陣へと流れ込んでいく。その液体は紋様を染め上げ、完成へと至らせる。


「ちょっとこれ止めてよ! 今ならまだできるでしょ?」


「誤解です13。僕たちは別に敵になりたいわけじゃ」


「うるさい」


 そんな二人の言葉はたった一言で説き伏せられてしまう。彼女は満たされた魔方陣の上で目を閉じながらぶつぶつと詠唱を始める。そのうちに彼女を閉じ込めていた雪広の魔術は、あの家の二階の時みたいにガラスが割れるような音で破壊された。


「…………そういうこと。あなたが」


 彼女自身がその魔術の使用者だということに気づいたのが一足遅かった。雪広では彼女を止めることはできない。13は手から離した長刀を再び握ると肩から掌をなぞる様に刃を滑らせた。一瞬にして左腕は真紅に染まり、地面には鮮血に似た何かが濁流のように流れていく。


「うるさいうるさいうるさい!私は主をこの目で!」


 そう言うとまるで失血によって意識を失ったように彼女は倒れる。立ち塞がった彼女の後ろを見ることはできたが、結局そこに主と呼ばれる人の姿はなかった。


「ここじゃ魔術に巻き込まれて死んじゃう。早く出るよ家接くん」


「でも13が」


「私たちの命を脅かした相手よ。それに、あれだけ四肢が傷ついているのに直せるかも分からない。自分の命よりもそれは大事なことなの?」


 雪広は半ば強引に家接の腕を引っ張ると、走って洞窟の外まで急いだ。なんとかぎりぎりで二人は脱出することができたが、中では地響きのような音が反響して外にまで聞こえている。直後、洞窟の中が崩壊する音がしたかと思うと山全体がざわめき始めた。


 直感的に何か嫌なことが起こる気がすると感じて、自然と二人の足を逃げるよう動かす。どこまで走ってもその予感は薄れることはなく、森の中まで入ったくらいのときだった。まるで噴火が起きたような、そんな爆音と共に強烈な風が吹き荒れた。


 森の中にいた二人はさっきまでいた洞窟の方に一瞬顔を向けるが木々を倒しかねない勢いの風に体を支えられずに体を支えられない。なんとか木にしがみついてその場に留まることができたが、いくつかの木は根元から剥がれるようにして家接と雪広をめがけて吹き飛んでくる。


「家接、危ないっ!」


 雪広が家接を押し倒す。飛んできた木は間一髪で二人を避けた。ちょうど頑丈な木の影になったことで立て続けにいくつもの岩が飛んでくるも無事でいられた。だがいつまでたってもこうしてはいられない。木を影にしながら少しづつその発生源に向かって近づいていく。


「…………そんな」


 手遅れだった。隕石が落ちてきたかのようにあの洞窟の周りは全てがえぐり取られていた。中心にある13が起動した魔法陣は今もその魔術を維持したままで、地中深くにある蛸壺のようなものに貼り付けられた札を外そうと術式がまとわりついていた。クレーターの中央には13が倒れていて、ぐったりとして動く気配が無い。


「あの術式、封印を解こうとしてる。早く止めないと!」


 言うより早く家接は握っている短剣に魔力を込めると魔方陣に向かって走って行く。


「錬炎、悉く焼き尽くせ」


 全速力で走る家接は無意識のうちに先祖返りの力を解放しかけている。だがそれでもってしても魔方陣に届かせるためには明らかに距離が足りない。このままだと封印が解かれる方が先になってしまう…………。


「大丈夫。私がいるじゃない。四方印、南」


 彼女の導いた魔術で繋いだ空間は、封印された場所と走り続ける家接とを結びつける。足を止めない家接はそのまま魔方陣の目の前まで転移すると握っていた短剣を振るった。


「ヨシッ!」


 雪広のガッツポーズと共に短剣は振り下ろした斬撃が拡散したように魔法陣を燃や尽くした。そうして導火線のように滝つぼに纏わりつく術式へと燃え移り始めた時だった。術式は蛸壺に纏わりつくことを急に止めたかと思うと短剣の炎に全て燃やされる。


 だがこれで終わり、なんてことにはならなかった。


 術式が蛸壺から離れたのはただ単に魔法陣が燃やされてしまったことで効力を失ったからではなかった。即ちそれは、すでに封印を解くことができてしまったという証明だったのだ。


 蛸壺についた札ははらりと剥がれ落ち、その中から何かが息を吹き返したように激しくひびが入ると完全に割れてしまった。煙が巻き起こると共に、そこには五つの影が現れる。


「あれが、封印されていた五体の絡繰り」


 名称:不明。能力:不明。五体の発条人形は、再び悪魔として再臨する。

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