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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
2章 神出鬼没の発条人形

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からくり屋敷にて

  森の奥をしばらく進んでいると、いきなり開けた場所に出た。そこには少女と似たような顔貌をした子が数人、忙しなく作業を行っている。見ると石切場から石を持ち出して並べているのだろうか。用途が分からないのでなんとも言えないが、きっと意味のあることなんだろう。


「あれは、何をしているんですか?」


「対策です」


「この島に封印されている悪魔のためね」


「その通りです」


「じゃあ、あなたは違うってこと? それならさっきの事は謝るわ。ごめんなさい」


「気にしないでください。同じ機械な事に変わりは無いですから」


 雪広と家接は自然とその石が運ばれている方へと足が向かう。少女が先頭になって案内するように導かれて着いた先にはちょうど作業中の少女が数人いた。


 少女達がせっせと並べている石。それはよく見るととても細かな紋様が描かれていて、並べられている石にはそれぞれ全く異なった紋様が刻まれているがそれは積み重なり合わさることで一つの紋様へと繋がる。


「これは...…封印術でも行おうとしているの?」


「そうです。主がいなくても私たちの力だけで彼の悪魔の封印を維持出来るなら、きっと主もお喜びになるでしょうから」


 積み重なる石が作り上げる見た目はまるで神殿。だが、森の中にたたずむそれはまさにジャングルの遺跡の如く。そのまま二人は建設中の建物の隣を通されると、その奥には人が住んでいるような建物が建ち並ぶ場所に連れていかれる。


「ここが私たちの居住区です。いくら食べ物を食べなくてはいいとは言っても稼働時間に限界はありますからね」


 原始的な農村といった具合の建物が並んでいる。木材で建設されたそれはそれこそ数百年前の建築技術のように思え、そこから発展が起らなかった中世に迷いこんだようだ。雪広は水筒に入れた水を飲みながら少女に尋ねる。


「それで、ここに封印されている悪魔とやらはどこにいるの?」


「ああ、それでしたらあちらですよ」


 少女が指差したのは目の前にそびえ立つ丘のようにも見える山だった。少し盛り上がった大地には木々が埋め尽くされていて、とても何かが封印されているとは思えない。でも確かにその山には良くないような魔力が蔓延っているように感じるのも事実。


「あの山の中にあるの?」


「はい。主は時折あの山の中に一人で入っては祈りを捧げることで悪魔を鎮めていました。ですがその正確な場所までは私たちに教えることはなくその身を失ってしまい……」


 目を伏せた彼女の目は潤まない。それは彼女の体が人のものではないからなのか。一通りの紹介も終わり、気持ちを切り替えた彼女は二人を連れて一際大きな建物へと向かった。どういうわけかそれだけは世代が更新されたように現代建築じみていて、むしろ違和感を覚える。


「ここが主が生活を行っていた場所です」


「その主だけ随分といい場所に住んでいたのね」


「それは当たり前の権利では?」


 皮肉交じりに言ったつもりの雪広の言葉は、純粋な彼女には意味を成していなかった。歯切れが悪くなって雪広は一人で先に家の中に入るので家接も続いて入った。中は思っていたよりもシンプルな内装になっていて、頑丈なのはあくまで造りだけ。あとは他の家とさして違っているようには感じない。強いて言うなら少し広いなと感じるくらいだ。


 少女は先に上がると、キッチンの方に向かってお茶を淹れる。椅子に座るよう促された二人は席に着きながら周りを見渡す。ふと家接は自分の携帯に連絡が来ていたことに気が付いた。内容を確認するとそれはカラ爺からで「そこにいるからくりは魔力を持っているけど、悪魔の類じゃないから。雪広ちゃんに言っといて欲しいな」とのこと。すみません、すでに一度戦闘になりかけました。


 お茶の準備が完了した彼女は桶に湯気のたった茶が三杯置かれているものを運んで机に置く。


「お茶です」


「ありがとう。あなたも座ったら?」


「いいえ。あなた方二人はお客様ですので」


「? ていうか座ってよ、落ち着かないから」


「そこまでおっしゃるのでしたら」


 そう言って彼女はやっと椅子に腰かける。さっきまで妙に緊張していた雪広はやっと心の糸が解けたみたいで気軽に話しかけることができるようになった。


「そういえばまだ名前聞いてなかった。私は雪広静。それでこっちが」


「家接孝也です。よろしく」


「私は、、そうですね。13とお呼びください」


「13?」


「はい。私はこの集落で言えば13番目にできた個体なので」


 淡々とした説明だが、はっきりと彼女が機械だということが分かる。だけどやっぱり気になるな。この島には悪魔を祓うという目的できたということには変わりないのだけれど、彼女のような絡繰りはどうしてこんなに数がいて、そしてなんの目的を果たすために作られたのか。封印されているものも絡繰りということもあってどうにも関係が無いとは思えない。


 しばらくはこの島の事を聞いたりなど彼女に関係ないことで話が盛り上がる。いつの間にかお茶は空っぽになっていて、日も傾き始めていた。


「お二人は、本日体を休める場所はありますでしょうか」


「そういえば、拠点を決めようと思って歩いていた矢先にあなたに会ったからまだ見つけてないわね」


「でしたらここをお使いください。おそらくこちらの家の方がお二人の生活になじみがあるようですし、我々がいてはお邪魔でしょうから」


 他の人の家にお邪魔になるよりは確かにいいかな。迷惑をあんまりかけたくないし。でもここ、元は主と言われていた人の家なんだよね。そんな簡単に貸して良いものなのかな。


「そうね。それなら遠慮なく使わせてもらうわ」


「え、でも」


「いいからっ」


 聞こうとした家接の口を雪広は必死に塞ぐ。なんで? という視線を雪広に送るもそれすら無視された。そんな二人のやり取りを見ている13もただ微笑ましい笑顔を見せるだけだ。だがその笑みは少し意味合いが違ったみたいだ。


「はい。では私もそろそろ作業に戻らないといけないので」


「……待って13! 違うから、そんなんじゃないからね!」


「はい、分かってますよ」


 そう言って彼女は玄関に向かう。家を出る前に彼女は足を止めて振り返り、二人を交互に見てにっこりと笑った。だが止まったのには理由があった。一つだけ伝え忘れた事があるらしい。


「まあそれは冗談です。最後に一つだけよろしいですか」


「いいけど、何よ」


「二階にだけは何があっても絶対に上がらないでください」


「…………何かあるの?」


「いえ申し訳ありません。私もそれについては存じていないのです。ただ、主は少々のことはお許しになってくれましたがこの家の二階に行くことだけは何があっても許してくださいませんでした。理由も今となっては知る由もなく。ですからくれぐれも、よろしくお願いしますね」


 最後に謎だけ置いて彼女は行ってしまった。


 二人は居間に戻ると向かい合うようにして椅子に座る。彼女が最後に注いでくれたお茶を飲み干してしばらく考え込む彼女を見ていると、こちらの視線に気がついて立ち上がった。そして宣言するように彼女は言う。


「いい、今から魔狩師としての仕事は後回しにするから」


「それは、どういうこと?」


「家接くんも気にならないの?」


 まぁ、だいたいなんのことを言っているのかは言わずとも分かるので静かに首肯する。


「だよね?そもそもこんな精巧なからくりなんてあるはずがない。私は見たことがないもの。それも術者の支配下になくて自律型なんてもっとあり得ない。AIを使った代物ならまだ分かるけどあれはもっと前から存在している絡繰り。絶対にからくりがあるはずよ」


「でもいいの?いつ悪魔が封印から解かれるか分からないのに」


 あくまでも最優先はそちらだと家接は主張するが、彼女には届かない。


「封印場所が分からないんじゃどうしようもないもの。それなら、このからくりの謎を解く方が有意義よ。それに、たぶんだけどその秘密に近づけばおのずと悪魔を封印していた人に近づくことができるでしょうし。後はあのせっせと働いている絡繰り達に期待しましょ」


 そう言って彼女は天井を見上げた。その上には絶対に入ってはいけないと言われていた部屋が存在し、部屋の端には二回へと続く階段がはっきりと見えている。申し訳程度に棚で防がれているが、すぐに入れるだろう。


「それなら、僕も協力するよ」


「何言ってるの?」


 まるで何も分かっていないというように彼女は自分のスーツケースから札を一枚取り出すと床に貼り付けた。


「あなたはもともと、私の共犯者よ」

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