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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
2章 神出鬼没の発条人形

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一昨日来やがれ

 事件というのはそう続けて起きてはいけない。あれから数週間は何事もなく家接は雪広から魔術の指導を受ける日々が続いていた。


「ほら二人とも、おやつですよ」


 ヘタの取れたサクランボが小皿にたくさん盛られたものを三つ持って縁側にやってくるカラ爺。家接と雪広は練習を中断して並んで座るとサクランボを頬張った。


「おいしー。このジメジメした梅雨とおさらばして夏に近づいている感じがするー」


「そうだね。でも、サクランボってこんなにおいしいんですね」


「本当は取れたてが一番おいしいんだけどね。今度、みんなで山形まで行く?」


 そんな冗談を挟みながら談笑を交わす三人。だが、束の間の休息はそれまでと告げるように訪問客が訪れる音がした。インターホンが廊下にも響くのが聞こえるとカラ爺は小皿を手に持ったまま玄関へと向かう。


 遠くでは何やら聞こえているが二人きりになった縁側での会話は、自然とさっきの練習についてへと移り変わっていく。そもそもの練習量が足りない家接はとにかく魔力量だけはあるため回数を重ねるに限ると言われ、その通りだなと反省する。


 しばらくしてカラ爺が戻ってくると、その後ろには見覚えのある顔が着いてきていて目が合うと何故か逸らされた。


「何しに来たのアンタ」


 一度は共闘もした仲だというのにも関わらず雪広は敵意をむき出しにしながら訪問客を睨みつける。これには相手も売り言葉に買い言葉。言い返そうとするもなんとかその間にカラ爺が割って入ることができた。


「会って早々そんなにつんけんしないでよ。彼は蝋火会の久佐の伝言を預かって今日はここに来たみたいなんだからさ。……どうやらこの話、二人にも聞いておいて欲しいみたいでね。だから中まであげたんだよ。わかったかい、雪広ちゃん」


「……まあカラ爺がそこまで言うなら」


 彼女もそこまで言われては何も言えない。ふてくされて僕のサクランボもやけくそ気味に食べると、やっと聞く気になった。もう少し食べたかったな…………。


「それで話って?」


「これがその話だ」


 案外切り替えが早い二人はすぐにその話に移る。彼がその手でひらひらと見せびらかすように出したのは何かに乗るため二枚のチケットだった。いまいちそれだけではよく分からないけれど、無料券とかであるなら決して悪い話ではない気がする。


 彼はそれをカラ爺に渡すともう一つ手にしていた封筒を開けると中からファイルを取りだした。そこに挟まれているのは何枚かがホチキスで留められた書類であり、魔狩師関係の話だと分かるとさっきまで期待していた気持ちはどこかに流されていく。それは隣にいる雪広も同じだったようであからさまに態度に出ていた。


「というわけでだ、ボスから直々に預かってきた話だけど端的に言うなら祓魔依頼だな。誰が行くのかは分からないがとにかくある無人島に行って、そこにはびこっているという悪魔を祓うってやつだ。どうだ、単純な簡単だろ?」


 そりゃあ口で言うのはたやすいことではあるが、それならあなたが行ったらいいのでは?と内心思うも口に出さない。言ったら言ったで話がごちゃごちゃになりそうだしなにより僕はこの人が苦手だ。


「それでこのチケットってことね」


 雪広は白瀬から渡されたチケットを目の前でひらひらとさせる。同封されていたのはどうやらフェリーのチケットらしい。カラ爺は気まずそうな笑顔を浮かべながら白瀬の出した資料に一通り目を通す。すると、閉じたその書類を申し訳なさそうにしながら雪広へと渡した。


「ごめんね。これは僕が彼に付けた借りなんだけど、こんなにも早くに返してと言われるとは思ってなくて……。僕は今どうしても手が離せない仕事が入ってるんだ。どうだい、二人で行くつもりはない?見たところ二人でもどうにかなる事案だと思うんだよね」


「嘘でしょ…………。家接くんはどうするの」


「僕?」


 確かに最近は足を引っ張ってばかりだけどちゃんと練習は積み重ねてるし。確実に以前の自分よりは成長していると感じている。それを試してみたい気持ちは十分にある一方で、失敗してしまったときのことがやはり頭の片隅によぎる。少なくとも迷惑はかけられない。


「どっちなの。はっきりしてよ」


 だが、彼女はそんなどっちつかずな意見を聞くのを好まない。うじうじとしていればきっとまた怒られてしまうだろう。


「じゃあ行くよ」


「じゃあ? さっき言ったこともう忘れてるじゃない。最初から一緒に行くつもりだったわよ」


 そう言うと雪広はカラ爺から受け取ったチケットを一枚、家接に渡して部屋へと行ってしまった。ありがとね、とカラ爺は白瀬に言いながら玄関まで見送ると彼は帰る。残ったのは、彼が持ってきたチケットとその悪魔について記された資料だ。


「家接くん、今回は君達ふたりで行くんだから自分の部屋で見てくれても構わないんだよ?僕はそろそろ作業にもどらないといけないから」


 小皿を片手に彼はまた自分の部屋に戻っていく。僕もそうしよう。資料を持って自分の部屋に戻ると、資料を一ページ目から見ていく。


 今回僕たちが向かう場所は、信川四蔵という人物が何年もかけて暮らした場所であり通称からくり島と呼ばれている。数百年前の彼が作り上げた五体の発条人形は、作者の思いが込められすぎた結果として魔力を帯びるようになってしまい機械でありながら半悪魔化してしまう。それを近くの漁村にいた神主がなんとか封印することで災いを防いだのだという。


「そして、その封印の管理を神主の一族が執り行っていたが今回その血筋が途絶えたことで封印が解かれてしまったと」


 この資料からではどれだけの危険度なのかということが全く理解することができないけれど、とりあえずカラ爺がああ言ってくれたのだからきっと大丈夫なんだろう。


 ん?


 家接は読み進めていくうちに一つだけ気づいたことがあった。いや、むしろそれは当日まで気づかなくても良かったことなのかもしれない。


「無人島?」


 そのころ、ほとんど同時に雪広はその事実に気づいたことで二つ返事をして家接と一緒に行くことを決めてしまったことを後悔していた。


「え? てことはてことはその人形だかなんだか知らないけど祓うまで二人きりで島にいるってことよね?」


 脳内では色々な事が思い浮かぶもそれを掻き消すようにいて頭を振るう。だがそれでも妄想は止まらず、雪広は布団の中で悶絶を続けた。


 しばらくして落ち着いたは良いものの、こうなったら徹底的に準備をしないと私のメンタルが持たないということに気がついた。そうと決まれば買い出しに早く行かないと。財布とスマホとポーチを鞄に入れて勢いよく襖を開けて廊下に出ると、同時に誰かが廊下に出る音が聞こえた。


「家接くん!?」


「雪広さん、どうしましたか」


「待って!」


 近づいてこようとする彼を大きな声で止めながら両手を出す。そのまま家接に何も言わせないまま雪広は全速力で反対側に向かって走り出す。後ろで引き留めようとする声が聞こえるけれどすべて無視、家を出てしまえばこっちの勝ちだと走り続けた。裏口から外に出ると、宵闇にまぎれるように住宅街を抜けて商店街まで着く。


「さすがにいつもの通りにはいかないよね」


 今の彼女の頭の中は、悪魔をどうやって祓うかよりも家接に変な所を見せずにこの仕事を終わらせて見せるという使命感の方が勝っている。色々言い繕ってはいるが、要するに恥ずかしいのだ。家の中ではかかることのないバイアスによって雪広は変に意識している。


「よし、まずはどこから行こう」


 そうして一日買い回った翌日。雪広は我に返って、しばらく節約を余儀なくされた。


 家接と言えば、突然雪広が走っていってしまった理由も分からないまま自分の部屋に戻って資料を読み返す。さっきのことは明日聞こう。それよりも今からでも準備できることがあるだろうし、カラ爺にでも聞いておこう。


 カラ爺は色々な札を持っているし、一枚くらい貸してくれるかもしれない。そんな軽い機体で彼の元へと向かった家接だったが、カラ爺は夕食になるまで出てくることはなかった。

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