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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
1.5章 初陣と邂逅

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夕暮れに陰る少年は

 カラ爺は体勢を少しずらしたおかげで、少年から受けた攻撃は腹を引き裂いた程度で済んだ。もちろんそれは程度というには深手過ぎるが、初めから目を狙われて視界を奪われるなんてことになるよりはずっとマシだった。傷口からは今も血が溢れていて、片手で押さえていても隙間から流れ出てくるそれは服をどんどんと重くしていく。


「僕は、少し疲れたから休憩することにするよ。後はお願いしても良いかな?」


「むしろそんな深手を負ってるのになんでまだ戦うつもりなの? 私も全然回復はしてないけど、重症のカラ爺よりはまだマシなんだから。それに、そいつは私のことを散々弄んだんだから。気が済むまでぼこっぼこにしてやるわ」


「ははっ! 面白い冗談を言うな。お前如きが僕を倒せるとでも? あの使い魔にすら勝てなかったお前が?」


「むっかついた~! あれは私が気を抜いてただけよ。本気を出せばあんなのなんて簡単に倒せるんだから」


 もちろん言い訳だ。あれは今でも対処できなかったと思うと雪広も分かってはいる。だけど、こんな奴の策に嵌まったなんていう自分がどうしても許せなくてつい見栄を張ってしまったのだ。それにだけど、私を捉えた上でわざわざ彼をここにおびき寄せた理由は何?


「あんた、なんで家接くんを狙うの」


 からりと懐中時計が揺れる音が聞こえてくる。それが何なのか、理解できないまま視線を少年に戻すとまるで何も分かっていないなと言いたげにしながら呆れた顔をこちらに向けていた。


「これを見ても何も分からないような奴に教えることなんてないよ。そんなこと言ってる暇があるなら、さっさとくたばれば?」


 彼は依然として素早い動きで雪広に迫ってくる。彼女は足に巻いたベルトからスティレットを抜くと立ち向かうように走る。同時に詠唱を始めると相手の注意を分散させると魔術が起動した。


「我が呼び声に従いて開け。御するは我が下した魔の遣いにて、出づるは厄の門。八方印の喚、北東」


 スティレットと短剣が交差する中、雪広は剣を交えたままゆっくりと向き合う方向を変えていく。もちろん、それは少年を鬼門の方角へと向かせるためだ。その方へと着いた瞬間、太い丸太二本で組まれた門が少年の背後に出現するとそれがゆっくりと開かれていく。その先には黒い靄がかかっていて様子を窺うことはできないが、何かがそこから出てくるのは見える。


「お前、運び屋を手なずけてるとか本当に趣味が悪いね」


「黙れ。あの子たちをそんな奴らと一緒にするな」


 棍棒を持った二体の鬼が門から出ると、後ろに鎮座し開いていた門がゆっくりと閉まっていく。


「お久しぶりよの、小娘」


「久しぶりね。でも、見ての通り手が離せないの。悪いけどお願いできる?」


「もちろんお安い御用だ」


 そう言うと鬼は少年をひょいと指で摘まみ上げると、お手玉のようにして空中に思い切り投げ飛ばした。そして二体の鬼は同時に大きくジャンプすると飛ばされた少年が打ち上がった到達点まで飛び上がる。目が合った鬼は少年に対して同情のようなものをかける。


「初めてお目にかかって申し訳ないがワシらを呼んだということはお前さん、小娘に相当に怒らせるようなことをしたな?」


「悪いが、これも必定。定めだと思いなされ」


 一言ずつお悔やみの言葉を述べた鬼たちだったが次の瞬間に少年を襲ったのはその手に握られた棍棒を両手で強く握って容赦なく振りかぶったということだった。両側から向かってくる棍棒に加えて、空中で身動きを取れない少年はなすすべなく攻撃を喰らう。血の雨が降り、少年だった断片が降り注ぐと傘をさすように鬼は片方ずつの手を重ねて雪広の上で彼女を濡れないようにした。


「すまんの。こんなやり方しか知らんで」


「良いよ。それよりもありがとう二人とも。これで、終わりだから」


 そう言って彼女は魔力を使い切ったのか、その場に伏せるようにして倒れるとその両隣に立っていた鬼もこちら側に顕現できなくなったようで瞬きの間にその姿を消した。


「これは申し訳ないことをしたな。雪広ちゃんには後でちゃんとお礼をしないといけなくなっちゃったね」


 戦いを見守っていたカラ爺は優しく彼女のことを抱えると血の雨がやんで戦いが終わったことを知らせた。遠くで力を使い果たした家接がコーヒーカップにもたれているのを傍目に見ながら雪広を抱えたカラ爺は近づいていく。既に力は使い果たしているみたいだけれども、こうして改めて見ると短期間で彼は魔術を人並以上に使いこなせるようになったんだなと深く感心する。


「キミも疲れたでしょう。お疲れ様」


「…………はい。でも二人ほどじゃないです。僕なんてまだまだですから」


 戦いの終わりを見届けて三人は家路についた。突然の出来事だったが、終わりもあっけのないものだと家接は思っていたが、その中でカラ爺は心残りがあった。それがどうしても引っかかって、解決したとはいえ気分が晴れない。


「僕の知らない間にここまで進んでいたなんて」


 言葉以上にカラ爺は焦っていた。戦いが終わってからようやく応援に来てくれた蝋火会の人達がやってきてカラ爺を見つけると、二人を抱えて家まで送ってもらえることになった。カラ爺は遊園地に残った魔術的処理をしてから帰ること伝言に頼んで先に帰ってもらうことにする。


 戦いの跡地である現場に残されたものはそう多くはない。園内を歩いて回っても、そこにあるのはたくさんの血の跡とそれに付随した肉体のみ。どれもまだ新鮮と言うと気分は良くないが死臭がするほどではない。しばらく歩いているとあの少年が見事に爆ぜた場所に着いた。


 ちょうどそこには彼だったであろう血肉の塊があり、その中から銀光沢のあるものをいじくるように取り出した。まだ少しだけぬくもりが残っているところに不快感を感じながらも血を拭って懐中時計の裏を見るとそこにはあの紋様があり、先ほど少年が見せびらかしていたものだと分かる。


 ボタンを押せば懐中時計は開き、血に塗れていない中が見えてくる。幸いあの剛力でも壊れてはいなかったようだ。いや、むしろ壊れない作りだったのかもしれない。真偽は分からないが、この懐中時計の中には何かの術式が刻みこまれていた。


「なんだか解読しがいのあるものを残してくれたね少年」


 No.0の情報はいまだにほとんどない。その組織の実体すらつかめない今、この懐中時計に仕込まれている術式はきっと大きな手掛かりになるはずだ。


「もうあんな惨状は見たくないからね」


 呟くカラ爺の目には遠い過去が映っている。今よりも生き生きとしていた時代の彼が見たものは年老いた今になっても鮮明に思い出すことができた。懐中時計をハンカチで包んで袖に入れると、カラ爺もまた家に帰っていった。後日、ニュースでは一瞬だけ遊園地のことが流れていた。突然光り出した遊園地の映像とそれを好奇心で満ちた様子で実況する声。そして近寄ることのできない山。


 かつて遊園地に行ったことのある人々はその記憶を思い出し、忘れ去られた廃墟はもう一度皆の記憶に刻まれた。復興計画なんてものも立てられたが、それも風の噂のようにいつの間にか流されて消えてしまった。


「おはよう、二人とも。昨日は本当にお疲れ様だったね。色々あったと思うけど今日から切り替えて頑張っていこうか」


 包帯をいくつも巻いた二人が襖から顔を覗かせてリビングに入ってくる。三人でこうやって食卓を囲むのは、案外珍しいような気がした。ニュースを見ながらカラ爺は二人に話があると声を掛けた。


「お昼になったら二人には話しておかないといけないことがあるから、ご飯の前に僕の部屋まで来てくれないかな」


「何かあるんですか?」


「それって私にも話さないといけないことなの?」


「そうあんまりカッかしないでよ雪広ちゃん。ちゃんとすぐ終わるからさ。それに、昨日のことだってまだ気にかかってるでしょ?」


 朝ご飯の食べていた箸が急に止まる。それはしっかりと図星のようだった。


「はいはい、行けばいいんでしょ行けばっ!」


 食事も終わって、各々が家事を執り行う。一か月も経つと分担をして生活をするというのが良いということに気が付いて当番制で食事、洗濯、掃除を交代して行うことになっていた。


 食器を洗い終えたカラ爺はタオルで手を拭くと自室に戻って話の準備を行った。昨日から考えてはいたが、もうこれは話すべき時になってしまっているのかもしれない。だからこそこれから起こるだろう未来と、過去に起きた出来事を二人には言わなくては。

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