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アンハッピー・アライブ  作者: 八千夜
1.5章 初陣と邂逅

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蟒蛇に飲まれて

 雪広はかっちり身支度を済ませると、きっちり30分後に家を出た。もたもたしている家接をせかすようにして声を掛ける雪広も思惑通り家接は焦った様子で部屋を出てくる。


「ほら、ぼーっとしてないで行くよ」


 魔狩師協会の開発したとされる運び屋の出現予報のアプリの正確性というのは的中率が異様に高く、そのくせ肝心の運び屋を検出するための原理については明らかにされていない。そのため信頼性が高いとはいいつつも、それそのものは信用性は無いという協会でも非常によく分からない立ち位置にある。そういうこともあって補修やメンテナンスは不可能であり、ある意味でパンドラの箱の扱いを受けている。今回その運び屋が現れると予測された地点は、隣町のある商店街。


「お願いだから、今日はこないだみたいに暴走なんてしないでよ」


「…………うん。できるだけ気を付けるようにはするよ」


 自分ではどうにもならないというのが正直なところだけど、少なくとも感覚だけはこの間の酒花さんとの修行で得ることができた。以前よりは自分に自信をもって答えられるような気がする。彼女は家を出ると、当然のように車庫に向かってガレージを開けながら車の鍵を使ってロックを外した。運転席に座ってエンジンを入れる雪広を前に立ち尽くしていると窓を開けて顔を出しながら声が投げかけられた。


「何してるの? 早く乗ってよ」


「あ、うん。ごめん」


 あまりにも手馴れていたためにそういうものかと納得するとすぐに助手席に座る。彼女はハンドルを握ってサイドブレーキを動かし、アクセルを踏んで公道に乗り出して運転を始めた。殊の外運転が上手なんだなと雪広の安定した運転に驚きを感じながら十数分の運転時間の間、家接はどうしても気になることを雪広に尋ねた。


「一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「なに。まさか怖気づいたとか言うんじゃないでしょうね。言っとくけどそんなことじゃ魔狩師になるなんて難しいんだから。それくらいは我慢しなさい」


「いやいや、それは大丈夫だよ。ちゃんとそういうことをする仕事なんだっていうのは納得しているつもりだから。そういうんじゃなくて、雪広さんは免許を持っているのかなって気になったんだ」


 赤信号になり、ゆっくりとブレーキを踏む。完全に停止するとハンドルに手をかけたまま彼女はこちらを向いた。不機嫌そうな表情で答えた。


「持ってないけど。どうして免許なんているの?」


「え、だって運転するんだったら免許ないと捕まっちゃうんじゃ」


「じゃあ家接くんは持ってるの? その免許ってやつを」


「一応持ってますよ。この間取ったばかりですけど」


 ふーん。


 そんな興味があるのかないのか分からないような返事をしている間に信号は青信号になる。それを確認した雪広は再びアクセルを踏んだ。絶賛無免許運転中にもかかわらず、彼女はそれを気にした様子もなく割と豪快な運転をしている。というより、無免許運転が悪いことは誰でも分かることなんじゃ。そう思ってもう一度言おうとした時だった。


「ならいいじゃない。いざという時はあなたの免許を見せればいいだけなんだから」


 運転しているのは雪広さんなのに? なんてことを言いだすんだ。結局、何も解決してはいないけど目的地には着々と近づいていく。幸いなことに検問もなく警察にお世話になることだけは避けることができて安心した。


「ここらへんね」


 着いたのは一軒の小さな銭湯。外からでも漂う独特の匂いがお風呂に入りたい欲をそそらせる。隣にいる彼女もそれは同じらしく、目が合うとそれを悟られないようにとそそくさと先に中に入っていってしまう。


 中はいかにもという良い意味で時代に取り残された空間。おじいさんやおばあさんしかいないというのがその証拠で、逆に二人はその空間では浮いたような存在になる。


「あら、若い子なんて珍しい。でも何も持っていないのに風呂に入り来たのかい? 悪いがここは貸出しはしてないよ」


 受付のようなところで端に置かれたテレビを熱心に見ていたおばあさんが来客があったとちゅうだんしてこちらを見て感想を交えながら言った。


「大丈夫です。トイレをお借りしたいだけなんで。いいですか」


「ああ、もちろんもちろん。それならそこを突きあたって右に曲がったところだよ」


「ありがとうございます」


 お礼を言うとくつろいでいるおじいさんたちの横を通りながら廊下へと向かう。ミシミシと時折床張りの板が軋む音がした。そこにはもちろん多目的トイレなんてあるはずもなく、雪広は仕方がなく家接を引っ張るようにして男子トイレの個室に入った。


「なんで雪広さんも男子トイレに!?」


「ちょっと! いいから黙りなさい。四方印、南」


 彼女の魔術で転移した先は、人の生活感が漂うどこかの家の中だった。雪広はすぐさま辺りの様子を伺いながら身を壁に寄せる。誰もいないと分かると普段立てることのないであろう靴の音をフローリングに響かせながら、奥を探るように魔力探知を頼りにして進んでいく。


「…………たぶんこの先にいる。家接くん、気を付けてよ」


 おそらくここは銭湯を経営しているあの受付のおばあさんが住んでいる場所なんだ。上なのか下なのかはあまり分からないけれど、大きな音を立てて迷惑をかけることはできない。二人は階段を慎重に昇ると部屋を端から一つずつ調べてみたが、特に病魔やそういったものは見つからない。おかしいなと思いながらも、もう一度同じ場所を調べてみるが思うような結果を得ることはできなかった。


「おかしい。確かに魔力は感じるのに」


 雪広は自分がその正体に迫れないことに苛立ちを覚えながらも冷静に考え直す。


「一度戻りませんか? さすがにこれだけ時間が経っても出てこなかったら、受付の人が心配してトイレまで見に行っちゃうんじゃ。そしたらさすがに言い逃れできませんよ」


「そんなこと言われなくても分かってるわよ。こうなったら見つけるまでは戻らない。…………あと、敬語はやめて。なんかイライラするから」


 すでにイライラしている雪広から理不尽な要求を突き付けられて、家接は仕方なく階段の方を見張ることにした。最低限、不法侵入してしまっていることはばれないようにするためだ。雪広はというと、もうばれてもいいというのを覚悟でこそこそするのはやめて部屋の電気をつけてその気配の正体を意地でも見つけようとしている。


「やっぱり、何もいない。…………どうして?」


「来てくだs、来て、雪広さん!」


 結局どこにも魔力の気配の正体が見つからず、苛立ちが困惑に変わった頃だった。家接の声が遠くから響いてくる。あれだけ静かにしようと言っていたはずだった家接が叫ぶなんておかしい。これは何かあったんだと、慌てて彼のもとに向かうとそこには確かに急を要する物が発生してた。


「これが、その魔力の正体ってことね」


 そこには大きく口を開けた大蛇、すなわち蟒蛇が二人の体を丸飲みしてしまおうと威嚇しながらこちらの様子を窺っていた。倒すことはおろか、下に続くための通路を塞ぐようにしている蟒蛇はシュルシュルと舌を動かす音を立てながらこちらにゆっくりと迫ってくる。


「とりあえず逃げましょう。ここじゃ狭すぎて相手の思うつぼだわ」


「でもどうやって」


「そんなの、窓から逃げればいいじゃない」


 彼女は階段で待ち伏せしている蛇のことなど放っておいて、電気の点いた部屋に向かうとそこにある窓を全開にした。だが雪広はそこで動きを止めてしまった。


「やれれた」


「外になにかいるんですか?」


 結局言葉遣いが敬語に戻ってしまった家接は、立ち尽くしている雪広が覗く窓の外の方を見た。そこにはピンクに染まった肉壁が窓の外を完全に埋め尽くしていて、どう考えても外に繋がる道のようには思えない。


「さっきの蛇は?」


 雪広は慌てて階段の方へと戻ったが、そこに蛇の姿はない。代わりにあったのは階段などではなく長く長く続いている窓の外と同じような光景だった。さらに振り返るとその部屋すらなくなっていて、前後には長く伸びる道だけが残っていた。


「これは一体…………」


「さぁね。でも、予想するとしたらさっきの蛇の体内とかなんじゃない? 何かを魔術の発動条件に設定しないとこんなにも精巧な結界を作り上げるなんて無理だもの」


「それでこんなこともできるんだ」


 単に感心している家接とは対照的に、無知な反応の彼を見て雪広は諦めたようなため息をついている。だがここで蹲っている場合ではない。早くこの結界から出るための方法を見つけ出さなくては自分たちの命が危うい。


「誰なのかは知らないけど、魔狩師協会の予報を利用して魔狩師を嵌めようとした人がいる。きっとあなたが狙われたんでしょうけど、これは多分捕獲じゃなくて殺すためのもの。このまま進んで消化までされちゃったら私たちは死ぬだけだから」


「じゃあ急いでここから出る方法を考えないと」


「もう既に試してるわよ。だけどここじゃ少なくとも四方印では出れない。絶対何か細工をしているはずだからそれを見つけて解かないと。術者を見つけられるのが一番簡単なけどね…………」


 つまりはこの蟒蛇の中で術者本人もしくはその原因になっているものを見つけて解除するなり倒するなりをしないといけないということ。それも時間制限付きで。初仕事にしてハードすぎるような気もするけどやるしかない。


「あなた、いろんな人に好かれてんのね」


「その言い方は、あんまり嬉しくないかな」


 その原因を見つけようと動き出すと、再び二人の目の前に一番最初に見たあの蛇が現れた。


「あんたの契約者は誰なの」


 そう言いながら彼女は現れた蛇を容赦なく踏み殺した。グロテスクな音とそれに合わせて飛び散っていく血。靴の裏にはべっとりとその血が張り付いて彼女の歩く道には跡がはっきりと残る。どうやら彼女は怒っているらしい。


「そこまでしなくても……」


「こんな姑息な手で襲撃してくるやつなんかに同情する必要なんてない。大体ねぇ、正々堂々とやれないなら最初からするなって話よ。これもどうせ聞いているんだからさっさと出てきてくれれば痛いようにはしないのに」


 彼女の言葉は聞き届けられなかったのか、罪のない? 蛇が殺されて静まり返った蟒蛇の体の中が時折波打ったように動き続けるだけで変化はない。こうして静かに蟒蛇の身体の中での攻防が始まった。

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