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テスト期間(四)

「それ、聞くぅ?」「はい!」

 真治は抵抗を試みが、駄目だった。

 まったく。香澄には『遠慮』というものがないようだ。


 真治は右手の掃除用クロスをトランペットケースに放り込み、右手をパチンと頭に当てた。再び『テストの結果を思い出す仕草』をして、溜息をすると低い声で答える。


「えーっとね、国語、算数、理科、社会が九十点ぐらいー」

 人差し指と中指をおでこにあて、恰好付けたまま固まっている。


「今『算数』って。『数学』って言いましょうよ。え、みんな九十なら、結構、頭良いじゃないですか! 勉強教えて下さいよ!」

 香澄は言い始めは呆れていたものの、点数を聞いて目が輝いた。身を乗り出して真治にお願いする。


 しかし、真治はあまり嬉しそうにはしていない。その様子に、香澄も何だかおかしいと気が付いた。


「あれ、また四教科? あっ英語はどうしたんですか? ちょっと、え? 九十×四=三百六十。あれ? さっき三百八十って?」

 香澄は不思議な顔をして計算をしている。

 そして、『ピン』と来て、笑いだした。


「英語ひっく、え、英語二十? 計算合ってる? 合ってますよね? 英語二十? 本当ですか? 名前書き忘れたとかですかぁ?」

 右手の人差し指を伸ばして真治を指し、それを上下に振りながら聞いている。


「いや、二度聞かなくて、良いからー。英語二十点、正解でーす」

 真治は右手を下に降ろし、渋い顔をしてお願いする。香澄は真治の顔を見て、英語が二十点であることが、ちょっと不思議に思った。


「本当に二十点なんですか? 何でですか?」

 腕を振り過ぎてバランスが崩れたのか、香澄は右手を横に置いた。


「んー。何かね、教科書を最初に見て『ハローロイ』『ハローエレン』『コレハ、ナンデスカ?』『コレハペンデス』って見た時に、『こいつら、中学生の男女で何言ってんだ?』言わねぇだろ。『英語の表現力ってその程度?』て、思ったら、やる気なくなったぁ」

 真治は教科書の内容を思い出し、茶化すように一人二役をこなして答えた。


「違うでしょー、勉強しましょーよー」

 香澄が机に置いていた両手をうえに上げ訴えた。だめだこりゃ。

「そうなのぉ? だって、英語には『ジョーク』も、『エロい表現』も、ないんでしょ?」

 真顔に戻った真治が、英語について語っている。

「何言ってるんですかぁ。ちゃんとありますよー。大丈夫ですよー」

「えー本当ぉ? そんなの、教科書のどこにもなかったですよー」

「そりゃあ、教科書には載ってる訳、ないですよぉっ」

 香澄は呆れた。本当に、こりゃだめだと、思った。

 考えていることはきっと違うが、真治も渋い顔のままだ。


「勉強しましょーよー」

 香澄は『こんな理由で』と思いながら、腕を振り続けた。

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