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テスト期間(ニ)

「正解!」

 こうなれば破れかぶれである。真治はそう答えて笑った。

 トランペットを『ギター』に見立てて弾き始める。


「一年生はぁ初めてぇの期末しけぇん。果たして何点とれるぅのぉ」

 適当に歌い始めた。香澄は、ちょっと頭悪そうだなと思って笑う。


「テスト、何点位なんですか?」

 右手を顎に付けたニヒルな顔で、香澄は真治に聞いた。

 真治はドキッとしたのか『ラララー』の所で歌が終わる。

 するとギターは、直ぐにトランペットへ戻った。


「すばり聞くねぇ」

 真治は口をへの字して、トランペットにバルブオイルを注ぐ。一番から二番、三番と順に二滴づつ。今度はピストンに上手く入った。


「何点? 何点? なんてーん?」

 香澄も『変な歌』を歌いながら、真治を覗き込む。

 真治はその香澄の顔を見ると、去年の期末テストを思い出すような仕草をする。目も閉じて、真顔である。


「んーとね。大体三百九十点位かなぁ」

 そう答えると、ピストンをトントンと叩いて調子を見る。良い。

「大体平均八十点位ですかぁ。そぉんなに悪い訳じゃないんですね」

 香澄が素早く計算し、にっこり笑った。頭悪い訳ではないらしい。

「どうも」

 渋い笑顔で真治が答えた。これで『質問は終わり』かと思ったのだろう。ピストンを三本の指でバタバタと叩いている。


「何が、どれくらいなんですか?」

 香澄の質問は終わらなかった。笑顔で聞いて来る。

 真治のピストン叩きが止まった。渋い笑顔のままトランペットから香澄に視線を移す。


「似たような点数。九十五から百ね」「九十五から百!」

「音楽、保健体育、美術、技術家庭が」「すっごいじゃないですか」

 そう言うと、またトランペットに視線を戻した。


 香澄は点数を聞いて驚いたのか、まだ話し続けている。

「もしかして、頭良かったんですかぁ? ちょっと勉強教えてって、えぇ? 技能教科ぁ?」


 香澄は一瞬笑顔になったが、直ぐに渋い顔になった。

 そしてまた、笑顔になった。なかなかに忙しい。

 半ば呆れて真治に問う。


「いやいやそっちじゃなくてぇ、五教科の方です。五教科! もー」


 通知表に学年内の順位が記載されるのだが、その順位は『五教科の点数のみ』で、計算されるのだ。

 だから、技能教科の点数は言い合わない。頼むよ先輩!


 真治はトランペットの方を見たまま、口をへの字にしながら答える。余り言いたくなさそうだ。溜息をした。


「そっちかー。あんまり良くなくて、大体三百八十点位」

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