交差する想い(八)
六月二十一日(火)
あれ、何度も確認したんですけど、鍵かかってなかったですかね。
初っ端からごめんなさい。
ご相談の件ですが、トランペットも一人では寂しいです。
ご指摘の通り和音も出ませんし。
一応、頭の中では伴奏を付けて演奏したりしているのですが、
それは本質的なことではありませんよね。
でも、正直に言うと、合奏が苦手です。
単音で耳に入って来た時は、何の音か判るのですが、
メロディーになった途端、ドレミが判ると言うか、
今まで『ソラシ』だった音感が、
強制的に『ドレミ』の音階が浮かんでしまい、
そうなると混乱してしまうのです。
私はこれを一人で『ドレミ病』と呼んでいます。
小石川さんが、すらすらと転調して演奏しているのを拝見すると、
とても羨ましいです。
トランペットは、父から譲り受けたものですが、
父の演奏を聞いたことはありません。
まぁそれは、トランペットって練習しないと、
すぐに音が出なくなってしまうので、仕方がないと思っています。
ただ、父が死の間際に、
「このトランペットが俺の声だと思え」
と、言っていたので、それが一体どんな声なのか。
自問自答する日々です。
小石川さんも、お父様からクラリネットを譲り受けたと
言われていましたが、演奏は聞かれたことがありますか?
きっと、小石川さんのことを想い、
素敵な演奏をしてくれたと思います。
練習の辛さで忘れているだけで、きっと心の中に『理想の音』が
眠っているはずです。
何かのきっかけで、呼び出せると良いですね。
音色についてですが、クラッシックの演奏だと、
硬い音が求められるので、ジャズやブルースのクラリネットを
真似てみるのも面白いです。
上手なクラリネットを何曲も聞いていると、
『なんだかトランペットと似ているなぁ』と、思うことがあります。
気のせいなんでしょうけど。
今度席にお邪魔しますので、リードの具合とか探ってみましょう。
よろしければクラリネット吹いてみましょうか?
あっ、これは流石に『関係を壊したくない』で、
お断りされても仕方ないですね。
来週からテスト期間になってしまうので、
テストが終わったら、また木白行きましょうね。




