交差する想い(一)
月曜日、今週何が、起きるかな。
一句読んでみたが、香澄と真衣は気が付く様子もない。朝のおしゃべりを楽しみながら駅へ向かっている。
香澄は三十分早起きして、恵子に手伝ってもらった新しい髪型にしていたが、真衣がそれに気が付く様子もない。
香澄も、真衣がいつもより十分寝坊して、雑なツインテールにしたことに、これまた気が付く様子も、ない。
梅雨明けも近い晴の日の今日は、暑くなりそうである。
蒸し暑い電車を降りて改札口を出る。木造駅舎を吹き抜ける風が涼しい。
夏近し、雑草元気に、育ってる。
駅前の記念碑の向こうに、真治の姿が見えた。
真衣は香澄の横腹をちょいちょいと突く。判っている。真治だ。香澄は頷いて歩道を走り出した。
笑って香澄を送り出した真衣は、きっと何やら話すであろう真治と香澄を置いて、そのまま真っすぐの道を進む。
真治が先に会釈した。それを見た香澄も、二メートル手前で歩きに変え、会釈を返した。
二人は立ち止まりもせず、挨拶もなく、そのまま歩き続ける。
改札口から、学校まで真っすぐに続く道には、沢山の生徒がいる。
しかし彼らから二人は、生い茂った雑草と、ボサボサのマキの木と、石碑の陰に隠れていて、良く見えない。
真治は歩きながらカバンの蓋を外すと、見覚えのある紙袋を取り出した。真治がカバンの蓋を開けるのを見て、香澄も自分のカバンの蓋を開けている。
真治は手に持った紙袋を、香澄が白い指で押し広げている、カバンの二段目に押し込んだ。
そこは『交換日記専用のスペース』となっている。もちろん、昨日香澄が決めたことだ。
二人は同時にカバンの蓋を閉めた。そしてフーと息を吐く。
その『お互いの息遣い』を見て、『そんなに緊張しなくても』と言いたげに、見つめ合って微笑んだ。
真治はゆっくりと歩いていたが、まだ香澄には速い。ちょこちょことスピードを上げて歩く。男子が女子のペースに合わせるべき、と言う人もいるだろう。だが、その時はそれで良かった。
香澄も、早く『日陰』に入りたかったからだ。
夏の日差しはまだ角度がある。それでも、アスファルトの『照り返し』は、それなりに熱かった。
目の前に銀行があって、そこに『日陰』がある。だから二人は、早くそこまで行きたかったのだ。
少しだけ先に『日陰』に入った真治が、香澄の到着を振り返って待っている。
それを見た香澄は更に早足となる。遂に『抑え切れない笑顔』になると、真治を見つめたまま『日陰』に飛び込んだ。




