長い日曜日(四十六)
結局、真治が家に帰ったのは二十時十二分だった。
総本店の閉店時間は過ぎていたが、最後の客が帰った所だった。後片付けをして自販機横のごみを片付け、シャッターを降ろして鍵をかけた時、時刻は二十時五十分になっていた。
「ごはん前に、早くお風呂入っちゃいなさい」「はい」
小野寺家の夕食は二十一時からである。
真治は既に眠っている小学生の妹が起きないように、そっと廊下を移動して、カラスの行水をした。
七分で夕食が終わり、食卓には本川根の『おくみどり』と『あさつゆ』の手もみひね茶が淹れられ、お茶の飲み比べ会が始まった。
舌の奥、両サイドに広がる川根茶独特の渋みを楽しんでいる最中に、真治は勇気を出して『今日、木白に行った』とだけ話をした。
すると両親は、既に『ピアノ教室のド偉い『恵子先生』の、大事な大事な一人娘、香澄ちゃん』と、出かけたことを知っていて、逆に真治が香澄の『母親の名前』を知った。
父上からは『人様の大事なお嬢さんなんだから、判ってんなっ』と釘を刺され、それは比喩だったが、『今度女の子泣かせたら、ぶっ殺すかんなっ』と睨まれた目は、本気だった。
プリンを買ったことも知っていて、それ所か『駅前の洋菓子店で一昨日プリンを買って行ったばっかりなのに、大丈夫だったか? 全く。気が利かないっ』と、小野寺家代表らしく、心配された。
すると母上からは『そんな前日に誘うからよ』とダメ出し。
続いて『もう小学生じゃないんだから』と注意され、『女の子も準備があるんだから、最低一週間前には、何処行くか伝えなさい』の後に『女の子でも、妹を連れ回すのとは、違うんだからねっ!』と、きつく、きつく念押しされた。
『何でもお兄さんに迷惑をかけるんじゃない』
『何でもお兄さんに迷惑をかけるんじゃない』
『ちゃんとお父さんに相談しなさい』
『ちゃんとお母さんに相談しなさい』
と両親揃って言われたからには、出世払いもバレていた。
その後は『ちゃんとゆっくり歩いてあげたのか』とか『ちゃんと話聞いてあげたのか』とか『ちゃんと明るい内に家に返せよ』とか『ちゃんと家まで送ったんだろうな』とか『ちゃんと系』の質問が続いていたが、真治が覚えていたのは最初の四つまでだ。
それでも、お土産のクッキーは、ちょっと意外に思ったようだ。
しかし、どのメーカーのクッキーとも一致しないことから、即、手作りとバレた。『ちゃんとお礼言ったのか』の問いに、真治が返事をすると『香澄ちゃんの手作りなんだろ。良かったな』と言って微笑み、手を伸ばして食べることはなかった。
母上の『ちゃんと今日中に全部食べて、明日お礼を言いなさい』の助言を無視し、一枚だけ食べて思い出に浸り、残りを厳重に保管したのだが、母上の警告通り、翌朝には鼻の利く妹が難なく発見し、何も知らずに平らげた。
真治は今が季節の『なすびの花』を想い浮かべ、猛省した。




