長い日曜日(四十四)
「レジ補助入りまーす」
手を洗ってバックヤードを出た真治は、サービスカウンター内にいるレジ責任者の小野寺由美子に声をかけた。
店長の妻で、母上の妹君である。
「あ、真ちゃんおかえり。早かったのね」「はい。つつがなく」
由美子は『今日の朝礼』での、真治と精肉部島田の『外出願い』の一コマを思い出して、笑った。
「それじゃ、五番レジに入って」「判りました」
真治は直ぐに五番レジへ向かった。行列で並んでいる客の間を、会釈しながらすり抜けて、五番レジに入る。
「補助入りまーす」
その声に振り返ったのは、パートに来ていた真理子だった。
「小野寺さん、助かります」
その声がけ、正解である。
真治の胸には『小野寺』と書かれたネームプレートがあったし、真理子の胸には『進藤』とある。
二人が十年間一緒に暮らしていたことなど、レジに並んでいる人達が知る由もない。興味もないだろう。
真理子がレジ打ちした商品を真治がビニール袋に入れて行く。
重たいものを下に、軽い物、壊れ物を上にテキパキと袋詰めし、かごに入れて客に返す。
「三千七百二十一円です。駐車場のご利用はございませんか?」
「はい」
返事をしてくれる方がましな客である。だいたいが黙って頷く位だ。金銭のやり取りをしてお辞儀。
「ありがとうございました」「ありがとうございました」
そしてまた、直ぐにレジ打ちに戻った。
レジ内にいる二人だが、立場の違いはある。
真理子はレジ係として自給七百五十円で働いているが、真治はただの『家のお手伝い』であり、時給は発生しない。
名目上『店長付き』となっているが、名刺がある訳でもなく、権限がある訳でもない。
そんな二人が協力してレジ業務をこなしていると、レジ待ちの列がどんどん短くなって、ついにゼロ人となった。
真治が時計を見る。一七時四十三分になっていた。正解。
「じゃぁ、雨備品のチェックに行きます」
「判りました。ありがとうございました」
真理子は笑顔で真治に頭を下げた。真治も真理子に頭を下げて五番レジを出る。
そして、サービスカウンターの由美子に声をかけた。
「一息付いたので、雨備品のチェックに行きます」
「判りました。よろしくお願いします」
由美子は贈答品を包装しながら真治に答えた。真治は会釈して、再びバックヤードに向かう。
「いらっしゃいませー」
買い物途中の客に、笑顔で声がけをしつつ歩く。
そして、バックヤード手前のウエスタン風扉の前に立つと振り返り、売り場に一礼してから奥に消えた。




