長い日曜日(四十三)
真治が搬入口に着くと『島田運送』のトラックが、丁度着いた所だった。
トラックのバックライトが点灯した瞬間、運転手が真治に気が付いて右手をあげた。そして、窓を開けて顔を出す。
「もう着けちゃって良いかな?」「お願いします」
真治はプラットホームから飛び降りると、トラックの後ろに回り込んだ。
「オラーイ。オラーイ。オラーイ」
島田運輸の運転手『島田啓介』は、真治の従兄弟である。
いつもの搬送ルート上にある三号店に、ブロック肉を運んで来る。
トラックが壁際一メートルの所で止まった。
二回切り返して、やっとプラットホームに正対する。真治は隅の階段を使ってプラットホームに上がり、声を張り上げた。
「オラーイ。オラーイ。あと五十、二十、十、ハイ、OKでーす」
ハイの所で真治が右手を上げると、トラックは止まった。
すると運転席から啓介が、納品伝票を持って飛び降りて来る。そして、一メートル程のプラットフォームにピョンと飛び乗った。
「お疲れ様です」「ちょっとトイレ貸してなー」
真治の挨拶に右手を上げて返すと、振り下ろしたと同時に納品伝票を真治に渡す。そして奥に消えて行く。
真治はトラックの扉を開けると、伝票に記載されているブロック肉を降ろし始めた。
三号店に降ろす分は、キャスター付きのかご台車に乗せられており、真治でも降ろすことができる。
そうでなければ啓介がする作業だ。
ブロック肉を降ろすと、トラックの扉を閉めた。そして、もう一度伝票と降ろしたものを突合して検品する。
うん。問題は無さそうだ。
プラットホームの端にある机に向かうと、胸ポケットに挿しているボールペンを取り出し『小野寺』とサインした。
そして、三枚複写の一番上にある納品書だけを切り離し、机の中にあるバインダに挟み込んだ。
「啓介兄さんは『コーヒー』だったな」
そう言うと、隣にある冷蔵庫を開けて、冷えた缶コーヒーを取り出して、缶の底に付いている水滴を拭く。
そして、下二枚の納品書控と請求書を置き、その上に文鎮代わりの缶コーヒーを置く。
真治がブロック肉をバックヤードの精肉用冷蔵庫に押して行くと、ハンカチで手を拭きながら戻って来た啓介とすれ違った。
「顔缶の方、置いときました」「サンキュー」
啓介は拭き終わったばかりの右手を、勢い良くあげて真治に礼を言った。真治は会釈。
冷蔵庫には缶コーヒーが三種類常備されている。顔缶、ジョージア、そして、マーックスだ。
ちなみに真治は、もうマックスを卒業している。
「次、四Gですか?」「おう」
「よろしくお願いします」「おうおう」
二人は止まらずに会話してすれ違った。
このままだと何だか判らないと思うので、短く交わされた二人の会話を、一応翻訳しておく。
『次は兄のいる四号店ですか?
今から行くと、ちょっと渋滞してますから、
ここでトイレに行っておかないと大変ですよね』
『はい。そうなんですよ。
何かトイレ借りに来たみたいで恐縮です。
いつも助かっています。本当に、ありがとうございます』
『いえいえ、こちらこそ。
少ないのに遠回りして配達して頂き、ありがとうございます。
これ、いつもと同じ缶コーヒーで、芸がなくてすいませんが、
どうぞ車で飲んで下さい。
あと一店、安全運転でよろしくお願いします』
『いやいや、丁度喉が渇いていたので助かります。
いつもお気遣い、ありがとうございます。
お兄さんには『真治君が元気でやってる』って、
良く言っておきますね』
こんな感じだ。多分。真治は精肉用冷蔵庫へ急いだ。




