表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/272

長い日曜日(四十三)

 真治が搬入口に着くと『島田運送』のトラックが、丁度着いた所だった。

 トラックのバックライトが点灯した瞬間、運転手が真治に気が付いて右手をあげた。そして、窓を開けて顔を出す。


「もう着けちゃって良いかな?」「お願いします」

 真治はプラットホームから飛び降りると、トラックの後ろに回り込んだ。


「オラーイ。オラーイ。オラーイ」

 島田運輸の運転手『島田啓介』は、真治の従兄弟である。

 いつもの搬送ルート上にある三号店に、ブロック肉を運んで来る。


 トラックが壁際一メートルの所で止まった。

 二回切り返して、やっとプラットホームに正対する。真治は隅の階段を使ってプラットホームに上がり、声を張り上げた。


「オラーイ。オラーイ。あと五十、二十、十、ハイ、OKでーす」

 ハイの所で真治が右手を上げると、トラックは止まった。

 すると運転席から啓介が、納品伝票を持って飛び降りて来る。そして、一メートル程のプラットフォームにピョンと飛び乗った。


「お疲れ様です」「ちょっとトイレ貸してなー」

 真治の挨拶に右手を上げて返すと、振り下ろしたと同時に納品伝票を真治に渡す。そして奥に消えて行く。


 真治はトラックの扉を開けると、伝票に記載されているブロック肉を降ろし始めた。

 三号店に降ろす分は、キャスター付きのかご台車に乗せられており、真治でも降ろすことができる。

 そうでなければ啓介がする作業だ。


 ブロック肉を降ろすと、トラックの扉を閉めた。そして、もう一度伝票と降ろしたものを突合して検品する。

 うん。問題は無さそうだ。


 プラットホームの端にある机に向かうと、胸ポケットに挿しているボールペンを取り出し『小野寺』とサインした。

 そして、三枚複写の一番上にある納品書だけを切り離し、机の中にあるバインダに挟み込んだ。


「啓介兄さんは『コーヒー』だったな」

 そう言うと、隣にある冷蔵庫を開けて、冷えた缶コーヒーを取り出して、缶の底に付いている水滴を拭く。

 そして、下二枚の納品書控と請求書を置き、その上に文鎮代わりの缶コーヒーを置く。


 真治がブロック肉をバックヤードの精肉用冷蔵庫に押して行くと、ハンカチで手を拭きながら戻って来た啓介とすれ違った。


「顔缶の方、置いときました」「サンキュー」

 啓介は拭き終わったばかりの右手を、勢い良くあげて真治に礼を言った。真治は会釈。

 冷蔵庫には缶コーヒーが三種類常備されている。顔缶、ジョージア、そして、マーックスだ。

 ちなみに真治は、もうマックスを卒業している。


「次、四Gですか?」「おう」

「よろしくお願いします」「おうおう」

 二人は止まらずに会話してすれ違った。


 このままだと何だか判らないと思うので、短く交わされた二人の会話を、一応翻訳しておく。


『次は兄のいる四号店ですか?

 今から行くと、ちょっと渋滞してますから、

 ここでトイレに行っておかないと大変ですよね』


『はい。そうなんですよ。

 何かトイレ借りに来たみたいで恐縮です。

 いつも助かっています。本当に、ありがとうございます』


『いえいえ、こちらこそ。

 少ないのに遠回りして配達して頂き、ありがとうございます。

 これ、いつもと同じ缶コーヒーで、芸がなくてすいませんが、

 どうぞ車で飲んで下さい。

 あと一店、安全運転でよろしくお願いします』


『いやいや、丁度喉が渇いていたので助かります。

 いつもお気遣い、ありがとうございます。

 お兄さんには『真治君が元気でやってる』って、

 良く言っておきますね』


 こんな感じだ。多分。真治は精肉用冷蔵庫へ急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ