長い日曜日(三十八)
真衣の顔は『勝手に好みをバラすな』である。はいはい。その様子を笑いながら見ていた真理子は、エプロンを脱ぎ始める。
「木白まで、何を買いに行ったの?」
真理子の疑問はもっともである。実は先週、真衣と香澄は二人で、木白に行ったばかりだったのだ。
「『交換日記』を、買いに行ったんだよねー」
また答えを真衣に言われた香澄は、『言わないでよー』という感じで真衣を弱ーく、はたいた。
真理子は驚く。それって、もう『付き合っている』みたいなものじゃない。違うのかしら? どうかしら。
「『トランペットのノート』に、『澄ちゃん混ぜるの嫌だ』って言われちゃったから、仕方なく、買いに行ったんだよねー」
そう言われた香澄は、くねくねと揺れ始めたかと思うと、ちらちらと真理子の方を見て、照れ笑いしながら頷いた。
二人は良く見るのだが、真治には見せたことがない仕草だ。
何だ。『部活の日記』かしらと思いつつ、ちょっと反省。
「あらー。私が出しゃばって書いたのが悪かったのかしら?」
「そんなことないです」
香澄が目を丸くして慌てて答えた。手も横にブンブン振っている。
真理子は笑って二人を見た。それは申し訳ないというか、理由としては良かったと言うか。一応私にも、気を使ってくれたと言うか。まぁ良いか。
「どんなの買ったの? 見せてー」「もう書いて渡しちゃった」
香澄は肩を竦め、ちょっと腰を曲げてつま先を上げると『ベー』付きで答えた。
しかし、そんな『よわよわ』な『べー』は、真衣に効果なしだ。
「えー、見たかったなー。明日、真ちゃんに見せてもらおーっと」
「えー、ダメだよー」「そうよ。二人のなんだから」
香澄が慌てて、両手で真衣を揺さぶった。真理子も真衣を諭す。
「ちゃんと『鍵かかるやつ』なので、読ませません!」
照れながらも香澄が言うので、真衣はカチンと来た。
「読むなんて言ってないじゃん。見るだけだよ見るだけ」
「だめだよー絶対読むじゃーん」「澄ちゃんだって読んだじゃーん」
「あれは真衣ちゃんが『読めっ』て言ったからじゃーん」
二人共笑顔で言い合う。いつものことだ。
「あらあら。二人共仲良くね」
笑いながら真理子はパートに行く支度をし始めた。香澄と真衣は台所から奥の部屋に歩いて行く。
「書き終わったら、『焼却する』って言っててー」
香澄が両手の平を上に、肩まで持ち上げて言う。
「えー、なぁにそれー、ひどーい」「でっしょー」
真衣の同意に、香澄は右手の人差し指で、真衣を指さした。
真理子は『どきっ』として、二人の会話を聞いていた。
「もう。本当にやりそうだから、怖いわー」
真衣がそう言いながら仏壇の前に行くと、もう一度『チーン』と鳴らして拝むと、置いてあったプリンを持って座卓の前に座った。




