長い日曜日(三十七)
「それにしても早かったのね」「そうなんですよ」
丁度四時になり、鳩が何故か『カッコウ』と四回歌った。
「お茶位したかったよねー」
残念そうにする香澄に、真衣が同調するように言った。
「『おやつ買って帰ろう』ってなって、帰ってきちゃったんですよ」
「それでプリン買ってきたのね」「そうなんです」
香澄が言うと、真理子が頷いた。
「それで、家で食べました」「あら、じゃぁ良かったじゃない」
ちょっと不満気に香澄が言うので、真理子は慰めた。
「違うよねー」「ねー」
真理子の意見に、真衣と香澄は同調する様子はない。
そりゃぁ、男の子と二人でお茶した方が、楽しいのは判る。それもそうなのだろうけれど。真理子は苦笑いだ。
「でも、何か、みんなの分を買ってくるの、らしいわよね」
真理子がプリンの箱をみつめた。
「そこは気が利いてるよねぇー」
真衣が褒めるのは、珍しいことだ。
「プリンにしようって言ったのは、私なんですけど」
香澄が自分を指さして得意げに言った。
「なんだ、やっぱりダメじゃん」
真衣が褒めた前言を撤回した。真理子も笑う。
「ありがとうね」「いえいえ」
真理子にお礼を言われて、香澄が右手を顔の前で左右に振った。
「じゃぁ、冷蔵庫にしまって置きなさい」「えー、今食べるよ」
真衣に言われて、真理子はもう一度時計を見た。
「あらそう? お母さんこれからパートだから、お父さんに譲るわ」
「はーい」
真衣は箱からプリンを一つ取り出し、冷蔵庫を開けて隙間を作り収納すると、扉をバタンと閉めた。
残り一つになったプリンの箱を、父が待つ奥の部屋へ持って行く。
「香澄ちゃん、夕飯食べてく?」「あっ、いいえ」
珍しく、香澄が真衣と一緒に夕飯を食べて行くのを断った。
「今日は、お母さんにお願いしたいことがあるので、家で食べます」
何だ。そういうことか。真理子は頷く。
「そう。じゃぁ、チンジャオロース持ってく?」
「はい頂きます! おばさんの美味しいからっ」
「あら嬉しいわ。じゃぁ、このタッパーに詰めてね」
そう言って、直ぐに出す。後は、えっと、こっち。
「あと、はい、フォーク」「ありがとうございます」
香澄はタッパーを受け取ると、フォークでタッパーにチンジャオロースを詰め込んだ。
奥の部屋から『チーン』という音が聞こえてくる。
どうやら仏壇に、プリンをお供えしたようだ。
「でき立てで熱いから、ちょっと蓋開けときましょうか」「はい」
「どうせ今日中に食べちゃうでしょ」「そんなこと言わないの」
口の悪い真衣が、台所に戻って来た。
「もっと持って行って良いのよ」「大丈夫です」
すると真衣が手を振ると、あからさまな嫌な顔をして言う。
「家、暫くチンジャオロースだからさー」「あんた好きでしょー」
真理子に本当のことを言われて、真衣は直ぐに口を尖がらせた。




