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長い日曜日(三十六)

 チンジャオロースを作っていると、呼び鈴が鳴った。

「真衣、ちょっとお願い」「はーい」

 漫画を読んでいた真衣が返事をすると、のっそりと立ち上がる。

 母・真理子が振る中華鍋を横目に通り抜け、台所の片隅にある玄関へと向かう。


「香澄です」「なんだ、澄ちゃんかー」

 玄関からの声に、真衣が返事をした。直ぐにドアを開ける。

「なんだはないでしょー」

 中華鍋を振りながら、ちゃんと聞いていた真理子が真衣を叱る。

「高増屋のプリンじゃーん!」

 挨拶も無しで真衣が喜びの声をあげた。真理子のお叱りは、完全にスルーする。


「沢山頂いたので、どうぞ」

 香澄がそう言ってプリンの箱を差し出した。

 真衣はそれを受け取ったが、左方向に重さが偏っている。急いで蓋を開けて覗き込んだが、どう見ても二個である。


「なんだ、二個じゃーん」「こら、何てこと言うの!」

 中華鍋を振っていなかったら、即ゲンコが飛ぶ所だ。

「ごめんなさいねぇ」「いえいえ」

 香澄にしてみれば、コレ位はいつものことである。そう。真理子のお叱りまで含めて。


「どうぞ、あがって行って」「じゃぁ、ちょっとだけ」

 中華鍋を振り続ける真理子の言葉に、香澄が答えた。玄関に出しっぱなしの沢山の靴を押し分けて、香澄はハイヒールを脱ぐ。


「どうぞー」

 完成。真理子は中華鍋をコンロに置き、火を止めて振り返った。

 するとそこにいるのは、いつもの香澄ではない。

 ちょっと驚いて、それから直ぐ笑顔になり、香澄の上から下までを眺める。


「あらぁ、おしゃれしてどうしたの?」

 両手を腰にあて、笑顔の香澄に聞いた。

「木白行って来たんでしょ?」「はいっ」

 真衣の説明に、香澄が返事をして頷いた。そうですかぁ。


「さて、誰と行ってきたのでしょうかっ?」

 真衣からのクイズが出題された。真理子は右手を顎に添える。

「男の子?」「正解!」

 真理子が確認のために聞いた。すると、真衣が勝手に答える。


「あら、誰・か・し・ら」

 真理子は笑いながら香澄の恰好をもう一度見た。中学生なのでお化粧こそしていないものの、女の子らしさをアピールした姿だった。


「真ちゃんとだよねー」

 また勝手に答えを発表した真衣の言葉に、真理子は驚いた。

 心の中で、あら、真治あの子ったら、いつの間に! と、思った。

 一方、答えを言われた香澄は、右手で軽く真衣の肩を叩いただけで、にこにこしている。

 どうやら、楽しい一日を過ごしたようである。

 いや、半日か? 真理子は思わず時計を見た。

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