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長い日曜日(三十四)

「では、そろそろ失礼します」

 真治は腕時計と、リビングの時計を交互に見て立ち上がった。

「あら、お時間ですか?」「そうですね。そろそろ」

 真治がそう言うので、恵子も香澄も立ち上がった。

「家、二人なので、プリンお持ちになりますか?」


「あ、大丈夫です」「遠慮せずにぃ?」

 恵子は慌てて香澄の方を見た。今の声は香澄だ。

「ばかねっ」

 恵子が呆れて、右手を小さく振ってそう言うと、真治が笑ってクッキーを指さした。


「頂けるのでしたら、こちらをですね」

「あら、そんなもので? よろしいの?」「はい。是非」

 当たり前だ。真治にプリンを持ち帰る気はない。


「香澄さん、ビニールお願い」「はーい」

 それもそうかと思ったのか、香澄の『リカバリーポイント』を稼ごうと思ったのか。呆れた顔のまま指示を出す。

 上機嫌な香澄が、奥へすっ飛んで行くと、恵子はかごの下に曳いてあった紙で、残ったクッキーをそっと包む。


 直ぐにビニールを広げながら戻って来た香澄にパスをする。香澄は、そっとビニールの口を閉めると、笑顔で真治に手渡した。

 親子の見事な連携プレイだ。


「ありがとうございます。家族に自慢しながら頂きます」

「あらー。ご家族によろしくお伝え下さい」

 恵子が頭を下げたので、真治も「はい」と言って頭を下げた。

 その隙に、香澄はプリンの箱を手に取ると、また奥へ飛んで行く。

 何だかさっきから、動きが『猫』みたいだ。


「香澄さん、お見送りしなさぁい」

 反対方向へ走り去る香澄を見て、声をかけた。

 すると奥から「はーい」という声と『バタン』と冷蔵庫の閉まる音がして、香澄がまたプリンの箱を抱えて戻って来る。

 恵子と真治は、香澄の不思議な行動に、首を捻った。


 香澄はどうやら『プリンを一つ』冷蔵庫に入れたようだ。


「では失礼します」「真衣ちゃん家に行って来るね」

 二人が同時に言うものだから、恵子は頷くだけだった。


 三人はリビングを出て、玄関まで来ると、真治は自分の靴を、香澄は今朝一度履いたハイヒールを履く。

 恵子はそのまま玄関で二人を見送った。


 真治はもう一度「ごちそうさまでした」と挨拶をして、そっと玄関の扉を閉めた。香澄はドアの隙間から恵子に手を振っている。


 門扉までのアプローチを歩き始めると、御影石の僅かなゴツゴツで、ハイヒールはぐらつくようだ。

 真治が伸ばした手に香澄はしがみ付いた。にっこり笑う香澄。

 するとそこで、香澄が真治に聞く。


「ピアノ、習っていたんじゃないんですか?」

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