長い日曜日(二十九)
「そっと開けなさい。どうもすいませんね。ガサツな子で」
真治は苦笑いをしながら、右手を左右に振る。
「お母さん、私、紅茶が良い!」「みんな紅茶ですよ」
そう言いながらポットを指さした。
「自分で淹れる!」「熱いから気を付けなさい」
「私が淹れましょう」
三人共紅茶のポットに手を伸ばす。三人はお互いの目を見て距離感を測り、真治が最終的にポットを手にした。
「お客様にお願いするなんて、すいませんねぇ」「いえいえ」
真治が香澄のティーカップに紅茶を注ぐ。
恵子は箱から三つ目のプリンを取り出すと、香澄の前に置いた。香澄は微笑む。
「お母さんクッキーもあるでしょ?」「まぁ、しょうがないわねぇ」
そう言うと、恵子は立ち上がり、奥へ歩いて行った。
その隙に香澄は『そんな所に隠していたの』という所から、紙袋に入った『見覚えのある厚みのもの』を取り出した。
「鍵も一緒に入っています」
小さい声で伝え真治に渡す。真治は頷いてカバンにしまう。
カバンに無事収まったのを見て、香澄は満面の笑顔になった。
もう、今から明日が楽しみだ。
真治は紅茶にミルクを入れ、香澄は砂糖を入れた。
スプーンの回転数をシンクロさせて、かき混ぜている。
それを、クッキーを持って帰って来た恵子が見て、声を掛ける。
「あら、待っていてくれたの? どうぞ」
「いただきます」「いただきまーす」
二人はプリンをつつき始めた。その様子を眺めながら、恵子はクッキーのかごをテーブルに置いた。
「自家製なので、味は保証できませんけど」
口に入れたプリンを、真治は直ぐに飲み込んだ。
「ありがとうございます。自家製とは素敵ですね」
「私も手伝ったのよ?」
得意げに香澄が言う。ちょっと顎を上げて、得意気だ。
作っていたときは、こんな日を夢見ていただけだった。
それが、こんなに早く『現実』になるなんて。
「プリンより先に、こっちを食べて頂いた方が良かったかしら?」
そう言って意味ありげに恵子は笑った。驚いたのは香澄だ。
「おかぁあさーん」
何てことを言うんだという感じで、香澄が反応する。確かに、まだ全種類『味見』はしていないのだが。
「プリンの後だって、美味しいですよね」
真治がフォローを入れた。そう言われた香澄は、プリンを食べる手を止めると、両方を見比べる。ちょっと自信が無くなった。
「紅茶を多めに、残しておいて下さい」
目をぱちくりさせて、申し訳なさそうに香澄は警告する。
それを聞いた真治は、クッキーに手を伸ばして『パクリ』と一口に食べると、紅茶も飲まずに笑った。不味い訳がない。




