表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/272

長い日曜日(二十八)

「おじゃまします」

 真治が会釈してリビングに入ると、ソファーセットのテーブル上に、紙袋から出されたプリンの箱が置いてある。

 空のカップとソーサーがあって、奥の方に紅茶の支度をする恵子の姿があった。


「並んでどうぞ」「判りました」

 恵子の声に誘導されて、二つカップが並んだ方のソファーに真治は腰かけた。


 しゃれたシャンデリアが高い天井からぶら下がっていて、奥にはドーンとピアノがある。

 学校の体育館にあるグランドピアノよりも、大きく思えた。

 ソファーはピアノ教室の待合所も兼ねているのか、絵本の棚がそばにある。

 部屋によくマッチした時計があって、十五時七分を指していた。


 そこへ、紅茶の良い香りがして来る。

「あら、香澄は何しているのかしら?」「もうすぐ来ると思います」

 見えないが、階段の方を恵子は見た。

 そして真治を見て『困った子で』な顔をして会釈する。真治は『そんなことないですよ』という顔をして会釈を返した。


 恵子はポットに入れた紅茶を緩やかに回すと、真治の前のカップに『お疲れになったでしょう』という顔をして注ぐ。

 それを真治は『いえいえ、とっても楽しかったですよ』という顔でカップを受ける。まるで互いを気遣い合う、大人のやり取りだ。

 恵子は自分のカップにも紅茶を淹れた後、テーブル上にあるお盆の上に、紅茶ポットを置く。

 そして、プリンの箱を開けた。中を覗き込む。


「そのままで良いかしら」「全然、どうぞお気遣いなく」

「じゃぁそうしましょっか」

 恵子はプリンを一つ出して、真治の前に置いた。

「頂き物ですけど、どうぞ」

「ありがとうございます。大好きなんです」

 真治がそう言うと、恵子は笑った。

「あら、それは良かったわ。私もです」

 スプーンを配りながら恵子がにっこり笑って言った。そして、真治と反対側のソファーに腰かける。


「今日はどちらのお店に? 部活の用事って、言ってましたけど」

 恵子は笑顔だ。少し小首をかしげて、真治に聞いた。

「相談事を書くノートと、あと楽器屋さんですね」

「トランペットを見にですか?」

 恵子は、真治が『トランペット奏者』だと、知っているようだ。不思議そうな顔をして聞いて来た。


「いいえ、練習用のメトロノームを見に」

 と、その時、ドタドタと階段を降りてくる音が近付いて来て、恵子がそちらを睨んだ。

『折角、今、尋問中だったのに』とは、思っていないだろう。それよりも『あらあら感』が、顔の表情に溢れている。


 直後、リビングのドアが『バーンッ』と、勢い良く開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ