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長い日曜日(十一)

「良いと思いますよ。お嬢様」

 にっこり笑って真治は答え、また手をつなぐように右手を差し出した。香澄は喜んで腕にしがみ付く。

 そして『キャッキャッ』と笑ったと思ったら、不意に止まった。


「私、煩かったですか?」「いや、煩くないよ」

 真治は直ぐに答えたが、『ホントかな?』という顔をした香澄は下を向く。そのまま五秒間、下を向いている香澄を、真治は『照れているのかな』と思って、眺めていた。

 パッと顔をあげた香澄と、不意に目が合う。


「ピアノも煩いですか?」

 香澄の心配そうな顔を見て、真治は何を急に、と思う。


「いや、全然。ピアノは煩くないでしょ。それだったら、トランペットの方が煩いでしょ?」

 真治が笑いながらそう言うと、香澄がみるみる笑顔になってゆく。


「トランペットも煩くないですよ!」

 嬉しそうに首を横に振りながら、香澄は真治の腕を引っ張って、エスカレータに向かう。

 時刻は、十一時半を回っていた。


 七階のレストラン街は人で賑わっている。

 店の入り口から椅子が壁際に置いてあり、人が座って並ぶ。真治と香澄は洋食の店にやってきた。

「混んでますね」「そうだね。みんなお腹減ったんだね」

 入り口から洋食の店内を覗き込むと既に満席で、それ所か『外の椅子』にも待ち行列がある。

「ひと回りしてみる?」「はい」

 二人はレストラン街を周回し始めた。

 洋食の店の隣が中華で、その隣が和食、反対側が寿司屋、うなぎ屋、イタリアン。

 どこも大体同じように、店の前にも人が並んでいる。


「あ、お手洗い行く?」「行きます」

「じゃぁ出口から見える所にいるから」「判りました」

 レストラン街も混んでいるが、お手洗いもまぁまぁ混んでいる。


 真治は用を済ませると柱に寄りかかって、今日この後のスケジュールについて、検討を始めた。


『おやつまで』とは、一体何時まで許容されるか。

 十六時は遅すぎるだろう。少なくとも十五時半前。いや、立ち話やお茶の支度をするまでの時間を考慮すると、十五時十五分が限界。

 ベストは、十四時五十分から五十五分だろう。


「お待たせしました」

 パナバ帽を被った真治の姿を見つけた香澄が、ちょこちょこと小走りに来た。

「いえいえ大丈夫ですよ」「女子トイレ混んでまして」

 真治は笑って返したのに、香澄は済まなそうに言う。


「下のフロアで言い出せば良かったですね。ごめんね」

「そんなことないです」

 真治が言うと、香澄は右手を振って直ぐに否定した。

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