長い日曜日(九)
どん突きコの字形のホームが特徴の木白駅は、地元有力者が国鉄と私鉄のどちら側に駅ビルを作るかの熾烈な勢力争いをした結果、推した側の市長が当選したことで、決着した。
私鉄側のホーム上に駅ビルができて、ローズデパートになった。駅前の髙増屋と、渡り廊下でつながっている。
大きな駅なのに改札口は一つしかなく、出てすぐ左に曲がるとローズデパートの入り口がある。
二人はそこへ向かう前に、真治が思い出して『帰りのキップ』を先に買うことにした。
真治が伊藤博文を券売機に投入し、『カップル』が描かれたボタンを押して一括購入した。出て来たキップ二枚は、真治が預かる。
香澄は『真治からはぐれたら帰れない』と思って、『ずっと真治の腕にぶらさがっていなければ』と、考えた。
ローズデパートの入り口には『奇麗なお姉さん達』が、笑顔で迎えているが、女の子を連れている時は、そちらを向いてはいけない。
そう法律に載っている。憲法・民法・商法・刑法・民事訴訟法・刑事訴訟法・六法全書のいずれか、もしくはその全てにだ。
そんなことより、入店時刻は十一時十一分。さり気なく、入り口の時計で確認した。
「お腹減った?」「もうお昼ですか?」
驚いた顔も、またかわいいではないか。
「ちょっと早いけど混んじゃうと大変だし。それに、もし朝飯が早かったのなら、食べられそう?」
入り口に館内の案内がある。二人はそこで立ち止まった。
「軽いものなら入りそうです」
ひとしきり眺めて香澄が答えた。
「朝飯早かったの?」「いえ、今朝はあまり食べられなくて」
昨日学校から帰って、香澄は母に『小野寺先輩が木白へ買い物に行くと言うので、一緒に行く約束をした』と決定事項にして、同行の許可を願い出た。
数問の質疑応答の後、無事に許可が出た。
飛び跳ねて喜んだ香澄であったのだが、今度は何故か、食事が喉を通らなくなっていた。
「いつもは洋食? 和食?」
案内を見たままの香澄に聞いた。
「いつもは洋食なんですけど、何でも良いです」
「じゃぁ、見てから決めようか」「はい」
案内板を見ていても全メニューがある訳でもなし。二人は昇りのエスカレータに乗った。
レストラン街は七階、八階の二フロア。開店直後の時間帯だし、どこか空いている店もあるだろう。
「あ、あそこ、ちょっと見ても良いですか?」
香澄が指さしたのは、和風雑貨屋の『猫どっさりワゴン』だ。
「良いよー」
二人はエスカレータを、五階で降りた。
香澄は真治と手をつないだまま、真治を追い越して、逆に引っ張るように『猫どっさりワゴン』に駆け寄って行く。




