親友と(十七)
あと何ページか忘れたが、半分は通り過ぎていただろう。
それにもう、トランペットの情報は、交換されていないに等しい。終わりだよ。終わり。
しかし、その答えを聞いた真衣は、何故か笑顔になっている。
「えー、じゃぁ何? 次のノートなら良いんだね?」
真衣の問いに、真治は黙る。
次のノートだと? 続きがあるのか? メンツは俺、真衣、香澄、それとお母さん? なんだそれ? 真治は笑う。笑うしかない。
「良いんじゃない?」
はいはい。もう、半ばヤケだ。新しいノートなら、それなりにそれなりな感じで、書くこともできるであろうと、思わない。思います。思う。思うとき。思えば。思え。
どうだぁ。これが『思う』の五段活用だぁ。髪型覚えるより、役に立つぞぉ?
「澄ちゃん、良かったじゃん!」
真治の真意は、真衣の心には届かなかったようだ。笑顔で香澄に話しかけている。
しかし香澄は、頭の上を嵐が通り過ぎるのを待っていただけだった。そこへ突然聞こえて来たのが、真衣の声なのだ。
「え? うん」
慌てて頷く。しかしその表情は『何が?』で固まっている。
「じゃぁ、ノート買っておいでよ!」
話が良く見えていない香澄の肩を、手を伸ばした真衣が軽く叩く。
「ノートなら、余っているのあるよ?」
こっちにも、話が見えていない奴がいる。真衣はそう思った。
真治をキッとした顔で睨みつける。呆れる程、鈍い奴だ。
「そういうノートじゃなくて、もっとかわいい奴だよー」
どこにもノートはないが『そういうノート』が『どういうノート』を指しているのかは、全員が理解している。
真治は、トランペット交換日記の表紙に『これじゃかわいくない』と、勝手に絵を描いたのが真衣だったことを思い出した。
「ねっ!」
真衣に言われるがままに、香澄が頷く。しかしこっちも、まだ話が見えていない。さっきから真衣は何を言ってるんだ? である。
「パン屋?」
真治はここからは見えないパン屋を指さした。それを見た真衣は、今日一番の渋い顔だ。男の子の前で、その顔はしない方が良い。
しかし、そんな顔をさせたのは、真治なのだ。
ふつふつとこみ上げて来る怒り。駄目だ。こっちはもっと重症だ。何にも、判って、いないじゃ、ないかっ!
「ある訳ないでしょ! 何考えてるのぉ?」
バッサリ否定され、パン屋に、だいぶ失礼なことを言っていると真治は思った。呆れた真衣は、両手を振りながら説明する。
「ローズデパートの、大きい文房具屋さんに行くんだよ! 澄ちゃんと二人で行って、選んで来るんだよ!」




