親友と(十六)
「えー、ダメなのー? 良いじゃん、混ぜてあげたってー」
真衣が顔を横に傾け、真治を睨み付けて食い下がる。こちらも反応が早い。
香澄は和やかな雰囲気が一転、喧嘩でも始まるのかと思ってびっくりした。生唾を飲み込むのがやっとで、何も言えずに凝固する。
「だって、恥ずかしいじゃん」
そう言って真治は香澄を見た。
見られた香澄も同意して、作り笑いをする。そりゃそうだ。そんなこと、誰もお願いしていない。
「なーに照れてんの? 二人共」
二人を交互に見て真衣が言う。真治は眉をひそめて、真衣を睨む。
「だって、読まれるメンバーを想定して書いている訳だし、それ以外の人に読まれるの、恥ずかしいじゃーん」
真治にとってトランペットの交換日記は、トランペッター同士が情報交換をする場であったのだ。最近は、まぁ、全然違うけどさっ。
「澄ちゃんはこう見えて、そんな悪い子じゃないってー」
真顔で真衣が言う。話が噛み合っていない。真治は困った。
「こらっ! 何言ってんの! いや、もう、そうじゃなくてさー」
頼むから聞いておくれよ、という感じで真治が言った。
「仮入部の時は、同じペットだったじゃん。ねぇ?」
そう言って真衣は香澄を見た。
何を言うのだ。そう思いながらも、同調して香澄は頷く。しかし、四月の出来事を思い出すと、困った顔をするしかない。
真治は四月の出来事について、もう忘れているようだ。
だから『僅かな関係性』だけを指摘されて、分が悪くなったと思っている。そうすると、現実を展開するしかない。
「前半はさぁ、他の人も書いていたしさぁ」
「だからぁ? どうせもう、書かないでしょぉ?」
そうなんだよねぇ。最初は結構、みんな真面目に書いてたんだよねぇ。それが段々と書かなくなってねぇ。
だれが一番最初に『パス』を宣言したんだっけ? 真衣じゃん!
「先輩に『混ぜて良いか』聞くのも、嫌じゃない?」
「聞・け・ば・良いじゃん」
「えぇぇ。イヤだよぉ」
何て言って聞くんだよ。と、こっちが聞きたい。
「三年生の先輩とか、チョロいじゃん! 余裕っしょ?」
平然と言う真衣。しかし、聞く役は真治のようだ。おいおいだ。
「いやいやいやいや」
真治は慌てて周りをキョロキョロした。良かった。誰もいない。
まぁ、確かに今の三年生はチョロい。
その昔、もの凄くコワーイ先輩がいた反動からか、後輩にはものすごーくやさしーい、のだ。
コンクールの人選だって『二年生の方が上手だからー』とか言って、前に出て行く感じはしない。
だからと言って、それをチョロいと言っちゃ、ダメでしょう!
「それに、もうすぐ終わりでしょ?」




