表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/272

親友と(十五)

 リボンから解放された真衣の髪は、あっという間に倍の長さになり、屋上の風に吹かれて揺れた。

 引っ張られた二本のリボンも、真衣の手先から一直線に伸びて、一緒に揺れている。

 香澄は驚きの表情で見つめていた。そして、思い出した。


 真衣の髪も、昔から長かったことを。


 クラスメイトにからかわれていた香澄を守るため、間に入ってくれたのが真衣だった。

 しかし、今度は真衣がからかわれ、しまいには長い髪を引っ張り回されて、泣いてしまったことがある。

 それからだ。真衣は腰まであった長い黒髪を、ずっとリボンで結んでいるのは。

 だから、真衣と言えば、昔からその赤いリボンだった。


『一番かわいいお前を、いじめっ子に見せてやる必要はない』


 真衣はそう言ってくれた真治のことを、よーく覚えている。

 記憶から消した『大事件』の後、腫れた頬を擦りながらリボンを買ってくれたのだ。昔の話であるが。


「あーもうー、デザートに髪が入る! バサバサしなーい!」

 今の真治はちょっと違った。いや、大分、否、全然違った。

「ちょっと、どういうことぉ? 髪位、ありがたく食べなさい!」

 真衣は自分の髪を集め、ポニーテールに仕上げてゆく。


「あーあー」

 そんな真衣には目もくれずだ。

 真治は皆で摘まんでいたデザートに、髪が入っていないかを確認すると、香澄に最後の一個を笑顔で勧める。

 香澄も笑顔だったが、右手を振り遠慮した。

 それを見た真治は、パクリと食す。まだ笑っている。


 香澄は気が付けば、また自分の髪に触れていた。


 その時、デザートを口に入れてもごもごしている真治と目が合う。そのときだけ、香澄は、何故か下を向かなかった。


「もごもごご!」

『切らないで!』だから香澄にはそう聞こえた。そしてただ、優しく微笑みながら、首を横に振る真治がいる。

 真治のお願いなら仕方ない。香澄は嬉しくなって小さく頷き、髪から手を離した。そして真治に微笑みを返す。

 髪型の話題はそれで終結。結論が出た。


「そう言えば、今日の本題ー」

 髪を結んだ真衣が手をあげて発言した。

 真衣は、実に忘れっぽい。


「あのさー、ペットのパート日記に、澄ちゃんも混ぜて良いよね?」

「えー、ダメだよー」

 真治の返事が早い。しかも、迷惑そうに答えやがった。


 真衣は思う。こんにゃろうっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ