親友と(十五)
リボンから解放された真衣の髪は、あっという間に倍の長さになり、屋上の風に吹かれて揺れた。
引っ張られた二本のリボンも、真衣の手先から一直線に伸びて、一緒に揺れている。
香澄は驚きの表情で見つめていた。そして、思い出した。
真衣の髪も、昔から長かったことを。
クラスメイトにからかわれていた香澄を守るため、間に入ってくれたのが真衣だった。
しかし、今度は真衣がからかわれ、しまいには長い髪を引っ張り回されて、泣いてしまったことがある。
それからだ。真衣は腰まであった長い黒髪を、ずっとリボンで結んでいるのは。
だから、真衣と言えば、昔からその赤いリボンだった。
『一番かわいいお前を、いじめっ子に見せてやる必要はない』
真衣はそう言ってくれた真治のことを、よーく覚えている。
記憶から消した『大事件』の後、腫れた頬を擦りながらリボンを買ってくれたのだ。昔の話であるが。
「あーもうー、デザートに髪が入る! バサバサしなーい!」
今の真治はちょっと違った。いや、大分、否、全然違った。
「ちょっと、どういうことぉ? 髪位、ありがたく食べなさい!」
真衣は自分の髪を集め、ポニーテールに仕上げてゆく。
「あーあー」
そんな真衣には目もくれずだ。
真治は皆で摘まんでいたデザートに、髪が入っていないかを確認すると、香澄に最後の一個を笑顔で勧める。
香澄も笑顔だったが、右手を振り遠慮した。
それを見た真治は、パクリと食す。まだ笑っている。
香澄は気が付けば、また自分の髪に触れていた。
その時、デザートを口に入れてもごもごしている真治と目が合う。そのときだけ、香澄は、何故か下を向かなかった。
「もごもごご!」
『切らないで!』だから香澄にはそう聞こえた。そしてただ、優しく微笑みながら、首を横に振る真治がいる。
真治のお願いなら仕方ない。香澄は嬉しくなって小さく頷き、髪から手を離した。そして真治に微笑みを返す。
髪型の話題はそれで終結。結論が出た。
「そう言えば、今日の本題ー」
髪を結んだ真衣が手をあげて発言した。
真衣は、実に忘れっぽい。
「あのさー、ペットのパート日記に、澄ちゃんも混ぜて良いよね?」
「えー、ダメだよー」
真治の返事が早い。しかも、迷惑そうに答えやがった。
真衣は思う。こんにゃろうっ!




