親友と(十三)
夏も近付く八十八夜。そうだとしたら、今は夏。
「冷たい麦茶、美味しいねぇ」
真衣に淹れてもらった麦茶を、真治が一気飲みした。夏だ!
「でしょー。これ私が作った奴。傑作だよ?」
「水にパック、入れただけっしょー」
そう言って真治がコップを差し出す。真衣の目が大きくなる。
「じゃぁ、あげなーい。知らなーい」
真衣が水筒を引っ込める。香澄はその様子を眺めていた。
二人は仮入部の時から仲が良い。羨ましかった。
香澄も仮入部中はトランペットで、本入部のアンケート第一希望もトランペットだった。
だがしかし、第三希望のクラリネットになった。『希望パート名』の横にある『楽器所有欄』に、赤丸があったからだ。
対照的に真衣は、第一希望にトランペットと書き、他は空欄とした。そして楽器所有欄に『買います!』と、熱量高く朱書き。
「もう、あっついねぇ」
いつも元気な真衣が、香澄に話しかけた。香澄は頷く。
「おーおー、溢れるよ、スタップ! ストップ!」
何だかんだ言って、真治のコップに麦茶を注ぐ真衣。
それでも、何も考えなしなのか、よそ見をしているので真治が手を添えて慌てている。そう。二人は仲良しなのだ。
香澄は笑いながら、そんな二人の様子を眺めていた。
「髪切ろうかなぁ」
空を見て、香澄が言った。
何か、急にそんな気になったのだ。それに、夏の日差しに照らされた髪は、少々熱くなっていたのは確か。
急な髪切り宣言に、真衣は口を尖らせる。
「えー切っちゃうの?」「え? うん」
香澄が上を向いたまま、煮え切らない返事をする。何だろう。あまりそのことに、触れて欲しくない。
それでも、水筒の蓋を締めると、真衣が問う。
「澄ちゃんと言えば、昔からその髪型じゃん。どうしたの?」
「うん」
昔と言っても、真衣が知っているのは三年前からである。
小学校四年生の時に転校してきた香澄は、ちょっと日本語のイントネーションと、言い回しがおかしかった。
それをからかわれてから、今も友達が極端に少ない。
麦茶を飲みながら、二人の様子を黙って見ている真治に、真衣が話しかける。
「ほらぁ。女子が髪切るか問題ですよ? 何か言ってやって?」
「え? 俺ぇ?」
真治が自分を指さして驚く。それを見て、真衣は呆れ顔になる。
「他に、誰がいるんですか! しっかりして、下さぁいぃよぉっ!」
ちょっと待てぇい。ほらぁ。えぇっ? うそぉん。
そんなこと言うから、香澄がこっちを見ているじゃないかっ。




