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親友と(十二)

「良いの?」

 反応が速い。そう言って箸を伸ばしたのは真衣である。卵焼きに箸を突き立てると、ぱくっと一口に食べた。笑顔でもぐもぐする。


「おいひいじゃん」

 口を手で押さえ、顔を上下させながら感想を述べた。

「ありがとう」

 香澄がやっと微笑む。

 練習した甲斐があったというものだ。嬉しい。


「卵焼き、澄ちゃんが作ったの?」「じゃぁ、唐揚げいただきます」

 真衣の質問は、真治が唐揚げに箸を伸ばしたのと同時だった。


 まるで香澄が作った卵焼きを食べたくないから、唐揚げにすると言っているようだ。だから、真治の箸がピタッと止まる。

 顔も強張っているが、香澄の方は見れない。


「あ、唐揚げもです。どうぞ。ふふっ」

 真治の困った様子がとても面白くて、香澄が慌てて答えた。真治がそーっと動き始める。

「そう」

 苦笑いした真治が、香澄の方をちらっと見てから、そのまま唐揚げを摘まみ上げた。

 すぐ食べるのかと思いきや、きょろきょろしている。


「ケチャップは?」

「女子が作った唐揚げは、そのまま食べるの!」

 真治の言葉に、真衣が直ぐに突っ込む。横目に香澄が『えっ? あっ!』という表情になっているのが、見えたのだろうか。


 そう言われた真治は、黙って何度も頷くと、大きな口を開けて少し上を向き、パクリと一口に食べる。


「うみゃい。上手にできてるよ」

 目を白黒させている。少し、大きかったようだ。それでも、香澄からじっと見られているので、早く感想を伝えたかったのだろう。

 手を口に当て、もごもごしながらも何とか義務を果たす。


「良かったです。卵焼きもどうぞ」

 小さい声だった。香澄は、ほっと胸を撫で下ろす。

 今日、ぶっつけ本番で作った唐揚げは『余熱で火を通す』というのに、自信がまったくなかったのだ。お腹壊しませんように。


 真治は口に唐揚げを入れたまま、差し出された卵焼きも頂き、二段目にキープした。水筒の麦茶で何とか飲み込んだ。ふう。


 遅まきながら『頂きます』をして、真治も真衣も、自分の弁当を食べ始めた。つられて香澄も食べ始める。


 すると、場が静かになった。見かねた真治が、香澄の小さな弁当箱を覗き込むと、自分の分を食べながら聞いて来る。

「かわいいお弁当だね。小石川さん、料理するの?」

「全然しないです」

 真治の問いに咄嗟に答えてから、香澄はしまったと思う。

 何だろうこの感覚。その後が全然続かない。あー、えー。


「私もですっ!」

 真衣の言葉があって、場は笑いに包まれる。

「それは知ってるよぉ」

 真治が呆れ顔で指摘する。すると香澄が何かを思い出したのか、笑顔になった。


「うふふ。調理実習の時、凄かったよねっ」

「それは、言うなぁぁっ!」

 突然真衣が慌て出す。どうやらそれは、『真治が知らない真衣の黒歴史』のようだ。香澄の目が、ちょっと悪戯っぽくなった。


「えー? なになにぃ?」

 真治も楽しくなって、前に体を乗り出す。


 その後も三人は、お弁当のおかずを交換しながら、楽しく食べた。


 香澄は『真治の二段目』に、こっそり注目していた。


 暫くするとごはんの下から『四角い黒い板』みたいなものが出て来る。真治はそれを食べると、にっこりと笑った。


 黒い食品なんて、あまり見たことがなかった香澄は、それがどんなものなのか、食べてみたかった。


 しかし、真治の笑顔を見ている方が良くて、それは言い出せない。

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