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親友と(七)

 あんにゃろうの手元を見て感じた違和感は、全て解消する。


 そして一計を思い付いた。満面の笑みになると、ゆっくりとした口調で、香澄へ提案する。


「じゃぁさ、今度の土曜日さ、一緒に、お弁当食べよっ」

 友達として、親友として、その提案は極自然な提案に聞こえる。

「それは悪いよ」

 しかし香澄は、それを断った。それだけではない。驚いた顔なのに声が小さい。そして表情がみるみる曇る。曇天雨模様だ。


「悪くないよ。一緒に食べよっ。ねっ。決・定・ね」

 肩を組んで来た真衣の表情は晴れ模様だ。しかしその鋭い目は『逃げることは許さない』と。そう香澄に言っているのと同義だ。


 香澄は何度も『真衣の真意』を読み取ろうと試みた。

 駄目だ。判らない。香澄の厚い雨雲は、真衣の太陽によって、どんどん失われて行く。

 遂に香澄の雲は、太陽に押し出されて消滅し、頷かされた。

 どうしよう。ホント、どうしよう。

 これでは今週一週間、ずっとドキドキしっ放しではないか。


 土曜日は、授業が午前中で終わる。

 部活のある生徒だけがお弁当を持参し、午後は夕方まで部活に明け暮れるのだ。


 真衣は小学生の時、だいたい香澄と一緒にお昼を食べていた。

 それが中学生になってからは、真治に乗り換えると、屋上でいつも一緒にお弁当を食べている。そこへ来いと? 何故に。


 それが『何を意味しているのか』位、香澄にだって判る。そして日記を見る限り、真治とお揃いの弁当とは。


 知らなかった。一年生が土曜日の午後も練習に参加するようになったのは、五月からだと言うのに。

 六月の今『もうそんな関係なのか』と、思っていた所だった。


 校舎の昇降口にやって来た香澄は、上履きを引っ掛けたまま笑顔で『ピュー』っと走り出した真衣を見送った。

 出がけに真衣から返されたビニール傘を、傘立てに戻そうとする。


 ふと見ると、見覚えのある黒い傘が、ビニール傘達の中、頭一つ飛び出しているではないか。確かに、香澄が返す筈だった傘だ。

 そう言えば真治が走り出した時、カバンと黒い傘を右手にまとめて持っていた気がする。見間違いだったのだろうか?


 不思議に思いながらも、香澄は息を止め、方向を変えて歩き始めた。途中何人かと交差する。それでも、ぶつからないようにゆっくりと傘立てに近付き、黒い傘の隣にビニール傘をそっと差し込む。

 そして、離れないように、ハンドルを絡めた。


 誰かに見られていたとしても、それを確認する勇気なんてない。


 香澄は下を向いて微笑むと、右手を広げて高速で振りながら、自分の下駄箱の方へと逃げ出した。

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