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親友と(六)

「えっ、良いよ。悪いし」

 香澄がそう言うのは予想通りだ。真衣は説得を試みる。

「悪くないよ。大したこと書いてないし」

 手を振って断る香澄の顔を見て、真衣は振り続けるその手に、ノートを無理やり握らせようとする。

 しかし捕まらない。香澄は手を後ろに回してしまった。


「でも、勝手に見るのは良くないよ。ねっ」

 他人の目を気にするのは香澄らしい。そして香澄は、何かと理由を付けて断る。きっと自覚していないが、いつものことだ。


「そう? 良いのかな?」

 真衣はやさしく微笑み、香澄を覗き込むように確認した。

 香澄の返事は判っているし、そして、その返事だって『正しいか』は、怪しいものだ。


「う、ん」

 香澄が頷いた。顎を引き、上目遣いで真衣を見ていた香澄の目は、前髪に隠れて真衣からは見えなくなった。

 ほらね。やっぱり無理してる。本当は読みたいのに。


 しかしその様子は、いつもの『我慢する香澄』とは違っていた。真衣には見えていたのだ。下唇を噛んで、への字にした口元が。


 これは『事件』だ。咄嗟に、真衣はそう思った。


「じゃぁ、後で『真ちゃん』に聞いとくぅ」

 真衣は通学路へ戻りながら、普通の口調で言った。そのままチラリと、香澄を観察する。


「えっ、い、良いよっ。ねぇ、良いってー。ちょっと待ってー」

 ビンゴォッ! 真衣は片目を瞑り、ノートを焦らすようにゆっくりと、カバンにしまい始めた。

 香澄はそんな『消えゆくノート』を、それはもう名残惜しそうに見つめているではないか。

 真衣が、そんな香澄の表情を見逃す筈もない。


 真衣は、香澄が融通の利かない頑固な奴だと知っている。だから、人の傘を勝手に使う訳がない。

 そのくせ、雨に打たれたら直ぐに体調を崩す。

 さあ、誰に借りたぁ? 真衣はゲスな笑いに包まれる。


「真ちゃんの分、おんもしろいからさぁ」

 言われた香澄は苦笑いで、肯定も否定もせずにいる。心の中で『交換日記を読めと勧めて来るなんて、なんて奴だ』と、思っていた。


 真衣は香澄を見て、これは『確定』だと思った。

 それに『凄い事件』の臭いがする。借りたんじゃない。

 香澄が真治に近付いて来て、何か『詫び』を入れようとした。しかし真治は、それを察して一目散に逃げ出した。


 二人に何があったのか。それは簡単に判る。

 真治は雨が大嫌いで、長い傘を持つのも嫌な癖に、晴れの日でも折畳傘を常備している奴なのだ。今日もカバンに入っていたし。

 ちなみに、真衣が『最後の保険』として勝手に契約しているのは、そっちの折り畳み傘の方だ。長い傘? そんなの冗談じゃない。

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