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親友と(五)

「クラもやってるでしょ?」

 真衣が香澄に聞いた。


 クラリネットの先頭を取って『クラ』と略す。対して取らんペットだからか、後ろが残り『ペット』と略す。他の楽器に略称はない。


「うん。ちょっとやってたけどねぇ」

 香澄が書いた質問に、誰も答えてはくれなかった。

 いや、答えてくれていたかもしれないが、それは判らない。

 そもそも香澄は一度書いただけで、クラの交換日記は早々に行方不明となってしまったのだ。


「あー、三年生なんて、全然書いてくれないよねぇ」

 苦笑いで苦言。真衣にとって三年生は『畏怖の存在』ではないらしい。それともそれは『トランペット』だけなのだろうか。

「だよねぇ。第一、失くしたの三年生だしさぁ」

 それでも上級生は、香澄にとって口出しのできない存在だ。


「あはは。だめだそりゃぁ」「ねぇぇっ」

 それを聞いて真衣は、遠慮なく笑い出す。きっとトランペットの交換日記を失くしたら、誰だろうと、真衣に怒られるに違いない。


「ペットも今残ってるのは、真ちゃんと私と、あとお母さーん」

 指を折りながら三人数え、真衣も苦笑いで返す。いや、三人目は意味が判らん。

 しかし、そんな真衣の苦笑いを見て、香澄の表情が明るくなった。

 香澄は、真衣とおばさんが、とても仲良しなのを知っている。


「おばさん、どーして出て来た? 何か判るけど」

 笑って聞いた。聞かずにはいられなかった。

 香澄は家に帰ったら、傘の件は母に謝ろうと思った。


「私が『書くことなーい』って言ってたら『じゃぁ私が書くわ』って、ノリでっ」

 真衣が身振り手振りで、楽しそうに話す。


「真衣ちゃんのお母さん、面白い人だよねー」

 香澄は真衣の家によく遊びに行くので、真衣の母とも面識がある。

「でっしょー」

 真衣も笑った。ヒュッと香澄を指さして『判ってるねぇ』である。


 真衣にとって母親は『口煩い存在』ではあったが、それでも色々と工面して、考えて、苦労も厭わず助けてくれている。

 大切な家族であり、感謝もしていた。


 そして、ノートをカバンにしまおうとした時、風が吹いた。


「いぃなぁ」

 香澄の小さなつぶやきが聞こえた。風向きが違っていたら、聞こえなかったかもしれない。


 真衣は内心驚いて手を止めた。それは、たまに漏れ出る香澄の本音だ。間違いない。親友の真衣には判る。真衣は、直ぐに聞いた。


「読む?」

 しまおうとしたノートを、パッと香澄の前に差し出す。

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