親友と(四)
いつも『何かしらの邪魔』がある。今日もやっぱりダメだった。
次に逢えるのは『音楽室の入り口』だが、それも望み薄だ。今よりもっと人がいる。
朝練が終わって、音楽室に机を入れる時なら? いや、そんな急いでいる時に、話なんてできる訳がない。
一体、どうしたら良いのだろう。もう、今日一日、ずっとこんな気持ちのままなのは確定だ。
そうなると、また『謝ること』もできず、このまま流されて『うやむや』になってしまうのだろうか。もう疲れた。考えたくない。
ふと、真衣の手元にあるノートを覗き込んだ。
「まだ続いているの?」「続いているよー」
嬉しそうに言うと、真衣がノートから顔をあげた。香澄と違って、真衣はにっこり笑顔だ。羨ましい。パッとノートに戻った。
真衣にとって、真治と意思疎通をすることは、試練でも何でもないようだ。むしろ真治が誰と話していようとも、そこに自分の都合を優先して割り込んで行く。先生でも先輩でも、関係なくだ。
そんな時、真治は少々『迷惑そうにしている』が、それでも真衣だけには、ちゃんと相手をしてあげている。
やっぱり真治にとって、真衣は『特別な存在』なのだろう。
香澄は真衣にばれないように溜息をして、開きっぱなしのノートを読んだ。思わず『ん?』となる。
六月十日(金) 主婦 進藤真理子
ここで颯爽とお母さん登場!
やっほー、元気にしてますか?
学校で真衣をよろしくね!
六月十一日(土)
いつもお弁当ありがとうございます。
今日も唐揚げと卵焼き、とても美味しかったです。
真衣は、元気が良すぎて困ります。
確かに真衣の母が登場しているではないか。
そして、それに律儀に返す真治なのであった。これではまるで、幼稚園の『れんらくちょう』ではないか。うーん。違うか。
良いなぁ。トランペットは不思議なパートだ。
いや違う。真衣が不思議なのだろう。
香澄は部外者ではあったが、くすっと笑うしかない。
パラパラと真衣がノートを捲り始めたので、香澄はそれ以上内容を読むことができなかった。
それでも見えた頁には、時折トランペットやら、猫の絵があって、実に楽しそうである。それも羨ましかった。
もっと羨ましかったのは、どのページも、びっしりと字が埋まっていることだ。
表紙まで捲り終わると、そこには『トランペット』と書いてあって、トランペットの絵が大きく描かれている。
それはパート内で回覧する『交換日記』だった。




