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親友と(二)

 駅に着く頃には、同じ制服の生徒が二、三人で固まって歩いている姿が多くなる。それは、大体同じ電車を目指して来るからだ。


 この時間、ホームの反対側は通勤客で一杯だ。

 その通勤客を、二つ先の終点で吐き出し、忙しく折り返して来る電車は、少々げっそりして戻って来る。

 それがここから一駅だけ、また満腹になるのだ。


「おはよー」「おはよー」「おはよー」

「おっはよー」「おはようございます」

 グループ毎に挨拶はするが、それ以降はまたグループ毎に会話に興じている。


 そして電車に乗って三分。お喋りをしていれば、あっという間だ。制服の一団は電車を降りると、直ぐにまたぞろぞろと歩き始める。

 改札口を出て真っすぐ歩けば、我らが中学の校門だ。


 香澄と真衣は学校に向かう。ぞろぞろと歩く集団の一員として。

 集団の右端で流れに乗って歩いていると、団地造成記念碑のある緑地の向こうに、二人は真治の姿を見つけた。


「真ちゃーん!」

 突然、甲高くて、でかい声。何人かの生徒が振り返った。

 そんな好奇の目を気にもせず、壊れた柵を飛び越える。そのまま緑地を斜めに突っ切って走り出したのは、寄り道大好きの真衣だ。


 真衣が遠くになるにつれ、香澄の表情から笑顔が消えて行く。

 香澄は柵を超えてまで、緑地を突っ切ろうとは思わない。ちゃんと緑地の角まで行って右に曲がると、真治と真衣の所に向かった。


 もう真治と真衣が立ち止まって、早速話を始めている。


「皆の前で『真ちゃん』は止めろってぇ。いっも言ってるだろぉ」

 真治は困った顔をしながら、膝でカバンの下を支えた。

「良いじゃーん。何、照れてるの? えぇ?」

 真衣は真治を何度も指さして、からかっている。その間も真治は、カバンのロックを外して『何か』を取り出そうとしている。

「良かないよ。もぉ『小野寺先輩』と呼びなさい。お願いだからっ」

 お願いしながら取り出したのは、一冊の青い大学ノートだった。


「やだー『真ちゃん先輩』なら良いよー」

 全く聞いていない。それでも真衣は『パーン』と大学ノートを奪い取った。直ぐに後ろからパラパラと捲り出す。

「あー、今度から、それにしよっかなぁ?」

 ちらりと真治の方をみて、困った顔になっているのを確認すると、楽しそうに笑う。やはり、ゲスな笑顔だ。


 真衣の手が、字の書いてある所で止まった。直ぐに真治が聞く。

「で、なんで『お母さん』登場したぁ?」

 真治はカバンを持ち直しながら、あきれ顔だ。

「何かぁ、書きたいって、言ってたからぁ」

 返事が早い。そう言いながら、真衣はノートを読んでいる。

 真治はノートを隠すように覗き込んだ。

「ここで読むなよぉ。もおぉぉっ」

 真治が苦言を呈した時、いつもと違って『香澄が近づいて来た』のが判った。真治は顔をあげる。香澄は、何だか浮かない表情だ。

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