1話 始まりの日
両親のことはほとんど記憶にない。俺が3歳の時に二人共死んでしまった。
彼らは冒険者だった。これだけはよく覚えている。
幼い頃の俺にとって、冒険の話を聞くときが一番の楽しみだった。
――両親の死から13年、俺は高校生になった。
「いってきま~す」
「たっくんいってらっしゃい!!忘れ物はないわよね!?怪しい人には付いてっちゃダメよ〜」
「わかってますって」
俺は、唯一の家族である杏子さんにそう言って家を出た。
彼女は母方の遠い親戚で、母さんに実の姉のように慕っていたため、俺のことを引き取ってくれた。
少し過保護なとこもあるが、俺は嫌いじゃない。……というか大好きです。
彼女はとてもおっとりしているが、実は凄腕の冒険者で、今でもたまに剣の腕が鈍るからと言ってダンジョンに潜っている。
*
「オッス健!」「健おはよー」「今日はいつもより遅いじゃん♪」
教室に入ると、高橋、詩音、洸希の3人が話しかけてきた。
「いやぁ、楽しみでよく眠れなくって」
「遠足の前の日の小学生かよ」
洸希がツッコミ俺たちは笑った。
だって、ついに念願の冒険者になれるんだから、ワクワクしないほうがおかしい。
「俺らん中で誰が、一番ステータスが高いか勝負しよーぜ」
「いいね♪一番低かったやつラーメン奢りな」
「僕は塩ラーメンね」
「オイオイ、勝つ前提かよ」
実は冒険者の子供は比較的高いステータスが発言しやすいらしい。
だから、少し申し訳無さを感じた。
まあ、みんな運動神経いいから大した問題じゃないだろう。
*
いつもより長く感じた授業が終わり、俺たちは新宿にあるダンジョンに来ていた。
ササッと手続きを済ませ、ついに俺たちにステータス取得の番が回ってきた。
「んじゃ、いってくるぜ!」
いつもどおり特攻隊長の高橋が真っ先に行く。
どうせあいつの事だから《戦士》とかになるんだろうなと話していると、まさかの――
「《回復術士》だってぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」
「「「嘘だろ…」」」
俺たちは数十秒間開いた口が塞がらなかった。
職業は自分で選べない。これは常識だ。
自分に一番ピッタリな職業に選ばれるらしい。
どこがピッタリなのか理解できない……。
「こんなゴツい回復術士聞いたことねぇゾ」
「脳筋回復術士」
「良かったじゃん、回復術士ってめっちゃ需要あるらしいし。似合わないけど」
「最後の一言は余計だぞ健」
その後、詩音が《拳闘士》、洸希が《剣士》をそれぞれ引き当てた。
洸希はチャラい剣士ってイメージがとてもしっくり来る。
詩音は実は喧嘩がめっちゃ強い。
中性的な見た目や名前、低い身長がコンプレックスで中学時代はイジってきた相手をボコボコにしまくり、
気づいたら、そこら一帯の番長になっていたらしい。
なので詩音が《拳闘士》なのもしっくり来る。
そうこう考えてるうちに俺の番がやってきた。
できたら俺も洸希と同じ《剣士》がいいなと思いつつボードに手をかざした。
野上 健……本作の主人公。洸希に憧れてて見た目は少しチャラい。
高橋……脳筋。
木村 詩音……かわいい系男子。
大嶋 洸希……チャラ男。